「YAMAHA TF3」製品レビュー:タッチ・パネルでのコントロールを核としたPA用デジタル・ミキサー

YAMAHATF3
YAMAHAが6月に発売するPA用デジタル・ミキサーTFシリーズ。同社の従来機に比べてタッチ・パネルでの操作性が進化した上、MGPシリーズやMGシリーズなどで評価を得ている“1-knob COMP”や、その簡便さをEQに応用した“1-knob EQ”を搭載。プリセットも豊富に備え、プロはもちろん、経験の浅いエンジニアまで幅広い層に使いやすい仕上がりとなっている。今回はシリーズの中からTF3をピックアップし、弊社のライブ・ハウスで実際に触りながらレビューしていく。

GainFinderで適正な入力ゲインを設定
マルチタッチでEQカーブを調整可

TFシリーズには、マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)の数とフェーダー構成の異なる3モデルがラインナップされている。TF5(オープン・プライス:市場予想価格500,000円前後)のマイク/ライン・インの数は32で、TF3は24、TF1(オープン・プライス:市場予想価格350,000円前後)は16。フェーダーの数はそれぞれのマイク/ライン・インの数+マスター1本で、いずれもモーターを内蔵している。ヘッド・アンプは、同社独自の“D-PRE”をリコーラブルに再設計し搭載。また新搭載の“GainFinder”機能を用いて、ギター・チューナーのような画面で各入力の適正なゲインを導き出せるのも便利だ。バス構成はメイン(ステレオ+サブウーファー)、20AUX(8モノラル+6ステレオ)、DCAグループの数は8で、このサイズのミキサーとしては十分な数。出力端子は全機種共通で、16ライン・アウト(XLR)となっている。

オペレーションは、7インチのタッチ・パネルを中心に行う。シーンの呼び出しをはじめ、各チャンネルのパラメーターやパッチなどを指で操る形だ。まずはインプット1〜8のチャンネル・ストリップが表示されるホーム画面を左右スワイプすると、表示チャンネルを切り替えられる。また上下スワイプで各ストリップ下部のAUXセンドを表示させたりと、スマートフォンなどと同じ要領で操作できるため親近感抜群。例えばEQなどにしても、カーブをドラッグすることで周波数やゲインを変更でき、ピンチするとQ幅の調整が行える。まさに音を指で触る感覚だ。

3つのモードを持つ1-knob EQ
内蔵リバーブやディレイは広がり方が魅力

さて幾らタッチ・パネルが快適でも、限られた時間内に音作りを行うには、豊富な知識と経験が必要。それをサポートしてくれるのが冒頭でも触れた1-knobCOMP(写真①)や1-knob EQ、“QuickPro Presets”といった機能だ。

▲写真① タッチ・パネル内のパラメーターに触れた後、回すだけでアサインが行える“TOUCH AND TURN”ノブ。1-knob COMPも、このノブを使って操作する ▲写真① タッチ・パネル内のパラメーターに触れた後、回すだけでアサインが行える“TOUCH AND TURN”ノブ。1-knob COMPも、このノブを使って操作する

まず1-knob COMPは、TFシリーズではタッチ・パネルにパラメーターの変化が表示される仕様。ノブの回し具合でスレッショルドやレシオ、ゲインが同時に変わっていくので、内部の設定を垣間見られて感動した。1-knob EQは、インプット/アウトプットで別のモードを搭載。インプットには、あらかじめ設定されたEQカーブの周波数を固定しつつ各バンドのゲインを上げ下げできる“Intensityモード”、そして明りょうな歌声を作り出す“Vocalモード”が備わっている。とりわけVocalモードの動きが興味深く、ノブを回し始めるとハイパス・フィルターが入ってローがカットされていき、次第に中高域が持ち上がる。普段行っているボーカルEQそのものの流れでカーブが動くので、かけ過ぎたと思えばノブを元に戻せばOKだ。アウトプットには、最適な音質を保ちつつ音圧を上げられる“Loudnessモード”がスタンバイ。QuickPro Presetsは、AUDIO-TECHNICA/SENNHEISER/SHUREといったマイク・メーカーや、エンジニアとの協業によるチャンネル用プリセット。EQやダイナミクスなどを統合したものなので、すぐに音作りが始められる。

ミキサーとしての音質は、周波数バランスの良い自然なサウンド。またEQやダイナミクスのかかり具合、内蔵リバーブやディレイの広がり方などが非常に素晴らしい。新機能だけに注力したのではなく音質面も申し分ないので、ミキシングがスムーズに、そして楽しく行えた。TFシリーズは3モデルの中から予算や規模に応じて選べるので、ミキサーを導入予定の方には検討をお勧めする。

▲背面は左から、ライン・アウト×16(XLR)、ACイン、電源スイッチ、ライン・インL/R×2(RCAピン)、マイク/ライン・イン×24(XLR/TRSフォーン・コンボ)、拡張スロット、フット・スイッチ端子、USB端子、イーサーネット端子 ▲背面は左から、ライン・アウト×16(XLR)、ACイン、電源スイッチ、ライン・インL/R×2(RCAピン)、マイク/ライン・イン×24(XLR/TRSフォーン・コンボ)、拡張スロット、フット・スイッチ端子、USB端子、イーサーネット端子

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)

YAMAHA
TF3
オープン・プライス(市場予想価格:430,000円前後)
▪アナログ・イン:24モノラル ▪インプット・チャンネル:モノラル換算で48(40モノラル+2ステレオ+2リターン) ▪メイン・バス:ステレオ+サブウーファー ▪AUXバス:モノラル換算で20(8モノラル+6ステレオ) ▪DCAグループ:8 ▪サンプリング・レート:48kHz ▪アナログ・アウト:16モノラル ▪周波数特性:20Hz~20kHz(+0.5dB/–1.5dB) ▪ひずみ率:0.05%以下 ▪消費電力:110W ▪外形寸法:716(W)×225(H)×599(D)mm ▪重量:17kg