
TR-808系キックや太いベースが作れる
モノフォニックのアナログ・シンセ音源
トップ・パネルを見てみると、オシレーターやフィルター、アンプといった各モジュールが信号の流れと同じく左から右へ分かりやすく配置されています。フィルターのカットオフやレゾナンス、LFOなどの頻繁に操作したいツマミは中央にあるためアクセスしやすく、直感的にエディットできるのが良いと思います。また、ツマミの手応えもちょうど良くて好みの感触。ボタン類はバック・ライトを備えたものが多いので、ステージ上での視認性も高いでしょう。操作子の中で興味深いのがアンプ・エンベロープのツマミ。一般的なシンセサイザーではアタック/ディケイ/サステイン/リリースの4つのパラメーター(いわゆるADSR)によってエンベロープをコントロールしますが、本機ではツマミ1つで調整できるようになっているのです。例えば左に振り切ると、アタック/リリース共に速いパーカッシブな音となり、右に回していくと徐々にアタックとリリースが遅くなってストリングスやパッドに向いたエンベロープができます。シンセ初心者にとって“ADSR”の設定は難しく感じられるでしょうが、ツマミ1つでその4つを一度に操作できるのは面白いと思います。
音源部は“アナログ・シンセ”“デジタル・シンセ”“PCMドラム・キット”の3つに大きく分かれています。アナログ・シンセ音源はモノフォニック仕様で全1パート。オシレーターの波形は、ノコギリ波/三角波/矩形波の3種類から選択可能で、矩形波はパルス幅を調整できます。さらに矩形波のサブオシレーターやアナログのローパス・フィルターも搭載。近年のベース・ミュージックやテクノに欠かせないROLAND TR-808系キック、そしてEDMなどにマッチした野太いシンセ・ベースを作ることもできます(写真①)。後述の内蔵シーケンサーと組み合わせて、アシッド・ベースのパターンを制作してみても面白いでしょう。個人的にはアナログ・フィルターの音が好みで、MOOG Minimoogのフィルターを思い出しました(写真②)。シンセ・ベースの音作りに大きな力を発揮するファットでアグレッシブなキャラクターなので、カットオフとレゾナンスをいじっているだけで時間を忘れて楽しめます。


デジタル・シンセ音源はIntegra-7やJupiter-80、FA-06、FA-08といった同社シンセに採用されてきた“SuperNATURAL”音源となっており、全部で2パート。これは各種楽器に固有の音色変化や奏法を再現した、同社独自の音源です。試しに“JD Piano”という音色を選んでみたところ、打鍵の強さによって音のニュアンスが変化しているのがよく分かり、ピアノの内部でハンマーが弦をたたいているのが目に見えるような臨場感。アコースティック・ギターやシタールといった弦楽器の音もリアルに再現されています。
PCMドラム・キットはエレクトロニック/アコースティックの両方に対応したドラム・キットで、全1パート。打楽器ごとにエンベロープやピッチをエディットでき、好きな打楽器を組み合わせてオリジナルのキットを作成することも可能です。ROLANDと言えば、真っ先に思い浮かぶのがTR-808やTR-606、TR-909といったリズム・マシンの名機。それらの音色は現在のダンス・ミュージックにも欠かせないので、プリセットされているのはうれしいですね。また、各ドラム・キットはシーケンサーでアナログ+デジタル×2+ドラムの計4パートを同時に再生しても埋もれない、太く抜けの良い音になっていると思います。
最大4小節/4trの打ち込みに対応した
内蔵のステップ・シーケンサー
内蔵シーケンサーは全4tr。アナログ・シンセのために1tr、デジタル・シンセ用に2tr、ドラム・キットのために1tr用意されています。入力方式はリアルタイム/ステップのほか、トップ・パネルの“01”〜“16”ボタンを使用したTR-RECにも対応。例えばリアルタイムの場合は、打ち込みたいパートを選んでからパネル上の“Real Time Rec”ボタンを押し、再生ボタンを押すという簡単な操作。入力は鍵盤で行います。間違えてもステップごとに修正できるため、パターンを作り込めます(写真③④)。


シーケンスの長さは1小節(4拍)〜4小節(16拍)の間で調整でき、小節ごとにコードが変化する曲やメロディのひと回し分が長い曲にも十分に対応可能。またシーケンスのデータは背面のMIDI OUT/USB端子からMIDIで出力できるため、DAWへの取り込みも簡単。さらにROLANDのWebサイトからドライバーをダウンロードしMac/Windowsにインストールしておけば、USB端子から出力したオーディオをDAWなどに直接録音することもできます。
入力された音声からピッチを検出し
音源を鳴らせる“オート・ノート”機能
音作りにおいて重要な内蔵エフェクトは全4系統。最も前段に位置する“Effect 1”はディストーション/ファズ/コンプ/ビット・クラッシャーのいずれか、次に配置された“Effect 2”ではフランジャー/フェイザー/リング・モジュレーター/スライサーのいずれかを選ぶことができ、これに続いてディレイとリバーブが位置しています(写真⑤)。各エフェクトは効果が分かりやすいので、使っていて楽しいですね。僕はライブでシンセサイザーを使用する際、外部のディストーションやアナログ・ディレイなどを併用することがあるのですが、エフェクトが内蔵されていると1台で音のキャラを広げられるので助かります。

そのほかライブなどに便利な機能として、ボコーダーやオート・ピッチ、オート・ノートなどを搭載。オート・ピッチはいわゆるピッチ補正の機能で、本体のマイク・インに入力した声のピッチの揺れを抑え、補正された音を出力することができます。オート・ノートは入力した声からピッチを検出し、内蔵音源を鳴らせる機能(写真⑥)。

また背面にはライン/ギター・インが装備されており、そこにギターなどを接続するとボコーダーやオート・ノート、内蔵エフェクトなどをかけることが可能。オート・ノートは和音には対応していませんが、ギター用エフェクターではなかなか作れないサウンドが出せるので、ギタリストにとっても大変有用なシンセサイザーだと思います。
JD-XIは、自宅での音楽制作からステージまで最高のパートナーとして活躍するでしょう。またROLANDのライブラリー・サイトAxialで、JD-XI専用の拡張音色やMIDIデータが随時アップされる予定なので、それらを追加すれば、可能性はとどまることを知りません。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年5・6月号より)