
内蔵DSPではディレイやリミッター
クロスオーバーなどを制御可
第一印象は“軽い/小さい”! サイズ482(W)×89(H)×305(D)mm、重量8.4kgの2Uボディとなっているが、奥行きに関しては1,600Wのアンプとは思えないほど短い。高輝度LCDの左には入出力の選択ボタンやレベル・インジケーター、各出力のミュート・ボタンが配置され、LCDの右には各種メニューの呼び出しボタンと、メニュー選択やパラメーター調整に使うロータリー・エンコーダーを装備している。
背面にはライン・イン×4と、それぞれの信号をパラで出力するためのライン・アウト(以上XLR)を装備。それらの右側には、A〜Dの各出力チャンネルに対応するスピーカー・アウト×4とブリッジ・モード時に使用するブリッジ・アウト×2(以上スピコン)が備えられている。ブリッジ・モードとは本来、2chアンプを1chで使用することで、より高い出力を得ようとするアンプとスピーカーの接続方法。本機のブリッジ・モードでは、4chを2chまたは1chで使用することができる。
アンプの方式はクラスD。4Ω接続時のチャンネルあたりの最大出力(連続)は、4chすべてを使用すると400W、2chモード時で800W、1chモード時で1,600Wとなっている。回路には独自のFlexible Amplifier Summing Technology(FAST)を採用。従来のパワー・アンプでは、ブリッジ・モードに設定すると最大出力は上がるものの、接続できるスピーカーのインピーダンスが上がっていた。しかしこのFASTにより、ブリッジ・モードで最大出力を上げてもスピーカーのインピーダンスが上がらないのだ。例えば、ある4chアンプの最小駆動インピーダンスが2Ωだとすると、2chモード時は通常4Ωになるが、本機では2chモードでも変わらず2Ω、1chモードに至っては1Ωとなるので、かなりパワフルなシステムを構築できる。これはすごい技術だ。
内蔵DSPについては、各スピーカー・アウトにクロスオーバー用のハイパス/ローパス・フィルター、ゲイン、フェイズ、5バンドのパラメトリックEQ、ディレイ、リミッターを搭載。リミッターはAUTOとADVの2モードがあり、AUTOではAggressive/Medium/Mildの3タイプを選択可能。ADVモードでは、より柔軟な設定が行える。このほか、同社ラインアレイ用の設定や他社のスピーカーに向けたプリセットも用意。各出力へ同時に振り分けるW数や入力ルーティング、感度などを調整でき、設定内容を最大50のユーザー・プリセットとして保存することも可能だ。
ダイナミックかつきらびやかな音
内蔵DSPは低レイテンシー
今回は弊社スタジオにて、パッシブ・スピーカーを接続してチェック。私は説明書を後で読む派なので、早速触ってみた。最初はボタンの配置などに戸惑ったが、程無くしてロータリー・エンコーダーとセレクト・ボタンにより各パラメーターへ難なくアクセスできた。用意されているパラメーターは比較的ポイントを絞ってあり、使いやすい印象。欲を言えばエンコーダーがクリック式で、レスポンスがもう少し良ければよりスムーズに操作できると思う。音質はQSCならではのダイナミックな感じ。Powerlightシリーズ以降のきらびやかさも健在で、良好だ。
試しに、外部のスピーカー・プロセッサーをつながない状態でパワード・スピーカーとレイテンシーを比較してみたところ、差が0.9ms程度しか無かった。もちろんこれは厳密な測定方法によるものではないが、一般的なスピーカー・プロセッサーの処理遅延が1〜2ms程度なので、DSP部分のレイテンシーの低さは十分なものだろう。弊社はQSCの別のパワー・アンプを所有しており、かなり過酷な環境(長時間、高負荷、商用電源の無いところなど)で使用しているが、特に大きなトラブルも無く、安定した音質を提供してくれている。今回はスタジオでのチェックということで、アンプ・セクションや内蔵DSPに負荷をかけるテストは行わなかったため、その辺りの耐久性は未知数だが、大いに期待が持てる。
中小規模の音響業務だけでなく、設備用途にもマッチするであろう本機。個人的にはより大規模なシステムで使用するためのリモート・コントロールやデジタル入力/デジタル・ネットワークに対応した上位機の登場も期待したい。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)