「PRESONUS AudioBox ITwo」製品レビュー:iPadアプリやStudio Oneとの連携を実現するUSBオーディオI/O

PRESONUSAudioBox ITwo
オーディオI/Oは成熟期に入り、どのメーカーの製品もひと昔と比べ驚くほど音質向上していて、今もお互いにしのぎを削っています。もう音質面では、どの製品を買っても大きな失敗はしないでしょう。我々ユーザーにとってはうれしい限りですが、逆に何を基準に選んでよいのか迷うのも事実です。今回レビューするUSB接続機、PRESONUS AudioBox ITwoは近ごろ流行のAPPLE iPadとの連携を強化したタイプのオーディオI/O(Mac/Windowsにも対応)。ほかならぬPRESONUSですから、自社のアプリとすごい連携を果たした製品でしたよ! 早速見ていきましょう。

シンプルなアナログ2イン/2アウト
MIDI IN/OUTも装備


AudioBox ITwoはシンプルなUSBオーディオI/O。仕様は最高24ビット/96kHz対応、アナログ2イン/2アウトです。2つのアナログ入力は、マイク用のXLRとライン入力のTRSフォーンを兼ねたコンボ端子を装備。ギター・マークのボタンを押すことにより、エレキギター&ベースを直接接続できるHi-Z入力にも対応しています。なお姉妹機として、マイクプリ1基/Hi-Z入力1系統と機能を絞ったAudioBox IOne(オープン・プライス:市場予想価格12,800円前後)もあります(写真①)。

▲写真① 姉妹機のAudioBox IOne。アナログ2イン/2アウトで24ビット/96kHzに対応という点はAudioBox ITwoと同スペック。入力はch1がマイク専用、ch2がHi-Z専用で、MIDI IN/OUTが無く、ダイレクト・モニタリングはスイッチを押すと入力信号とDAWからの出力が半々になる仕様 ▲写真① 姉妹機のAudioBox IOne。アナログ2イン/2アウトで24ビット/96kHzに対応という点はAudioBox ITwoと同スペック。入力はch1がマイク専用、ch2がHi-Z専用で、MIDI IN/OUTが無く、ダイレクト・モニタリングはスイッチを押すと入力信号とDAWからの出力が半々になる仕様
さらに、AudioBox ITwoと、コンデンサー・マイクのM7、ヘッドフォンのHD7などをセットにしたAudioBox ITwo Studio(オープン・プライス:市場予想価格25,800円前後)も用意されています。製品筐体はPRESONUSらしく、アルミの金属一体型ボディでとても気品のある出来。フロント・パネルの操作子はゲイン・ノブ、ファンタム電源スイッチ、ダイレクト・モニタリング用のバランス・ノブ、マスター・ボリューム、ヘッドフォン・ボリュームと大変シンプルです。DSPなどの特別機能は付いていません。リアは2つのアナログ出力(TRSフォーン)とMIDI IN/OUT、コンピューターとつなぐためのUSB端子、そしてAPPLE iPadなどを接続するための“DEVICE”と記されたUSB端子が用意されています。このように本機は超標準的な仕様で、Macであれば特別なドライバー・ソフトなどのインストールも必要なく、買ってつなげばすぐに使えるので、初心者にとって最適と言えます。たとえ何も分からない超初心者でも、これなら使い方を教えてくれる友達が必ず居るでしょう。 

PRESONUS伝統のマイクプリは
抜けが良く透明感ある録り音


続いて音質評価に行ってみましょう。AVID Pro Tools|HDXのHD I/OとAudioBox ITwoを48kHz、96kHzの両方で録音と再生の比較をしてみました。再生の音質比較ですが、パッと聴き比べた印象は、AudioBox ITwoは奇麗で素直、HD I/Oはド派手な感じです。具体的にはHD I/Oは超低域/超高域がエッジのように鋭角で、Audi
oBox ITwoはそこがマイルドに収まっているといったところでしょうか。左右の位相特性は両者ともそん色の無い良い出来です。96kHz再生時、AudioBox ITwoは良い音ではありますが、96kHzの音質向上分ほど電源の余裕が付いていっていない感じがあります。これはどのメーカーの同等仕様製品でも感じる現象です。HD I/Oとの価格差を考慮すると仕方がないことですが、ここ最近、ハイレゾ配信ブームから圧倒的に96kHz制作が増えましたので、どのメーカーももう一頑張りしてほしいところです。話がそれましたが、次に録音のチェック。録音はマイクにNEUMANN U87AIを使い、ボーカルとギターで試してみました。マイクプリはゲインも十分で、PRESONUS伝統の抜けが良く、透明感のある音がしています。この価格帯でこの音質ならば余裕の合格点と言えるでしょう。 

無償提供されるiPadアプリから
Studio OneへデータをWi-Fi転送


さて、ここからがAudioBox ITwoの特徴であるiPadとの連携です。まず本機をユーザー登録することにより、同社のDAWソフト、Studio One Artistが無償でダウンロードできます。Studio Oneの音質の良さや、使い勝手の性能は定評のあるところで、無償配布のStudio One Freeでなく、その上のクラスのStudio One Artistが手に入るわけです。基本的な録音や音楽制作はこれで十分に対応でき、オーディオI/Oにバンドルで付いてきたというより、Studio One Artistを買ったらオーディオI/Oが付いてきたと感じるくらい、立場逆転のお得感があります。ここからディープにStudio Oneの性能の説明をしたいところですが、誌面が足りないのでここは本誌のバックナンバーなどを参考にしてください。そしていよいよ注目のiPadとの連携です。同社製の無償iPadアプリ、Capture Duoを使用することにより、AudioBox ITwoでiPadにマルチトラック録音することができ、モバイルでの使用が可能になるのです(画面①)。
▲画面① 無償で提供されているiPadアプリ、Capture Duo。トラック2では複数のテイクが重なっているのが見える。右上にはWi-Fi経由でStudio Oneにオーディオ・ファイルを送信するボタンも用意 ▲画面① 無償で提供されているiPadアプリ、Capture Duo。トラック2では複数のテイクが重なっているのが見える。右上にはWi-Fi経由でStudio Oneにオーディオ・ファイルを送信するボタンも用意
Capture DuoはCaptureというアプリの無償版で、Capture Duoは2トラックのみ、Captureは32トラックが使用できます。それ以外は同じ機能です。ではAudioBox ITwoのDevice端子とAPPLE iPad2をiPad用Dockケーブルで接続し、Capture Duoを立ち上げてみます……うーん、認識されません。いろいろ調べると、AudioBox ITwoとコンピューターがつながっている場合、オーディオI/O機能はコンピューター側に占有されてしまうようで、これを外す必要があるのです。ただAudioBox ITwoにはUSBバス電源で電源供給しなくてはいけないので、iPad購入時に付いてきたAPPLEのAC/USBアダプターを使用し、そこから電源を供給しました。そしてCapture Duoを立ち上げると、無事AudioBox iTwoを認識しています。試しに録音してみます。最初はメトロノームがONになっているのでPlayを押すと“キ、コ、カ、コ”と鳴り出します。そこで赤いRECボタンを押してマイクでちょっと口ずさんでみました。おおっ!波形がDAWソフトのごとく現れ、しっかり録音されています。カウンターを巻き戻して頭からもう一度録音してみます。あれっ? トラックは上書き録音せずに前の声も重なって録音される……。何度録音してもどんどん重なっていき、同じトラックに一人で何重にも重ねて録音できました。そしてその各テイクはちゃんとレイヤーとして残っていて、1つのレイヤーだけ消去したり、移動やコピーもできます。これは非常に便利です。2トラックしか無いと言っても無限に重ねられるので、レイヤーごとのボリューム・バランスを取りたい場合を除けば、ぜいたくしない限りこれで十分な気がします。そしてこの録音した素材はStudio Oneのトラックへ簡単にインポートできるのです。やり方はCapture Duoの画面右上をタップするだけ。同一の無線LAN上にiPadとコンピューターが接続されていれば、自動的にStudio Oneのあるコンピューターを認識します。ここで私のMacをクリックすると一瞬のうちにファイルがコピーされました。4小節程度の短いファイルですが、本当に数秒で転送された感じです。MacのStudio One Artistを見てみると、Capture Duoで行った重ね録音のテイクもちゃんとバラバラにできます(画面②)。
▲画面② Capture Duoから転送されたデータをStudio One Artist(Mac版)で受信。トラック2でテイクが重なっている部分が反映されている。各テイクを別トラックに分けてあげれば、テイク選択などの編集も簡単に行える ▲画面② Capture Duoから転送されたデータをStudio One Artist(Mac版)で受信。トラック2でテイクが重なっている部分が反映されている。各テイクを別トラックに分けてあげれば、テイク選択などの編集も簡単に行える
新たにオーディオ・トラックを作ってレイヤーを分ければいいのです。めちゃくちゃ便利。エラく感激しました。 

モバイル・バッテリーでも動作可能
MIDIキーボードを接続して演奏もOK


AudioBox ITwoとiPadがあれば本当にモバイルでどこでも録音できるぞ!と思った矢先、“ACアダプターが必要じゃね?”と思い出しました。しかし、iPad用に購入した5,400mAの携帯用リチウム・イオン充電池から試しにUSB電源を供給したところ、なんの問題も無くAudioBox ITwoの電源ランプが点き、48Vコンデンサー・マイクも動作しました。やった! モバイル充電池さえあれば本当に電気の無い洞窟の奥でもこのシステムが稼働するのです。もっと調子に乗って、いろいろ試しました。Capture Duoを終了して、iPad用シンセ・アプリWALDORF Naveを立ち上げてみます。さあ音が出るか? 画面の鍵盤をタッチすると、ジュワーンとAudioBox ITwoから見事に音が出てきます、やった! これにMIDIをつなげる? バッテリーのモバイル状態でもMIDIキーボードをAudioBox ITwoのMIDI INにつなげ、使用できました! やった! しかもレスポンスもすこぶる良好!! 洞窟の奥でシンセ演奏もできそうです(やりませんが)。iPadとの連携であらゆるモバイル録音の可能性を広めたAudioBox ITwoは、初心者のみならず、プロ・ユーザーにとっても面白い音楽制作のツールとなるのではないでしょうか? またCaptureDuoはiPadだけでなくiPhoneでも使えるようになってほしいくらい気に入りました。 
▲リア・パネル。左からMIDI IN/OUT、続くUSB端子は電源入力を兼ねたコンピューターとの接続用と、iPadとの接続用。アナログ出力L/R(TRSフォーン) ▲リア・パネル。左からMIDI IN/OUT、続くUSB端子は電源入力を兼ねたコンピューターとの接続用と、iPadとの接続用。アナログ出力L/R(TRSフォーン)
サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)
PRESONUS
AudioBox ITwo
オープン・プライス (市場予想価格:15,600円前後)
▪マイクプリ周波数特性:10Hz〜40kHz(±3dB) ▪マイクプリ・ゲイン:52dB(1dBステップ) ▪入力インピーダンス:1.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン) ▪ヘッドフォン・アウト周波数特性:20Hz〜30kHz(±1dB) ▪外形寸法:192(W)×43.5(H)×135(D)mm ▪重量:630g 【REQUIREMENT】 ▪Mac:Mac OS X 10.7.5以降 ▪Windows:Windows 7 x64/x86 SP1またはWindows 8 x64/x86以降 ▪共通項目:INTEL Core Duoプロセッサー(Cor e i3以上推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上推奨)、USB 2.0ポート(USB 3.0互換)、インターネット接続環境、7,200rpm以上のストレージ・ドライブを強く推奨、モニター解像度1,280×800以上 ▪iPad:iPad Air/iPad Mini Retinaディスプレイ・モデル/iPad(第4世代)/iPad Mini/iPad(第3世代)/iPad 2、​iOS 7.0.1以降