「KORG Electribe」製品レビュー:Electribeシリーズの最新機種となる音源+ステップ・シーケンサー

KORGElectribe
すっかり秋ですね! 野外フェスなどでコンガをたたきまくっていたパーカッショニストな僕も、トラック・メイカーとして部屋の中でじっくりツマミをいじりたい季節になってきました。そんなタイミングで実に気になるハードウェアの登場です。その名もKORG Electribe。同社Electribeシリーズの最新モデルとなる、音源+ステップ・シーケンサーです。同シリーズからは1999年のElectribe・A/Electribe・Rを皮切りに、さまざまな製品が登場。2010年にはAPPLE iPadアプリのiElectribeも発売されましたが、ハードの新機種としては2003年のElectribe・MX以来のリリースとなります。音楽制作やライブなどで、いつも“もっと直感的に操作できて質の高いハードが欲しい!”と考えていた僕には期待大の一台。こ・れ・は!と思い、早速触ってみました。

トラップやEDMなどにも対応した
アナログ・モデリング/PCM音源


モダンな仕様のElectribe。セクションごとに特徴を見ていきましょう。●シンセ・エンジン音源部のシンセ・エンジンは、アナログ・モデリングとPCM音源から構成(写真①)。

▲写真① シンセ・エンジンのコントロール。写真左のオシレーター部には、上から波形選択、ピッチ/グライド、波形のタイプによって固有の音色変化を与えられる“Edit”ツマミが配置されている。中央のフィルター部は上からカットオフ、レゾナンス、エンベロープ・ジェネレーターの設定に応じてカットオフ周波数を時間的に変化させる“EG Int”ツマミを装備。ツマミの下には、左からローパス/ハイパス/バンド・パスの3つのボタンが並び、それぞれ繰り返し押すことでプリセットのアルゴリズムを選ぶことができる。アルゴリズムは全16種類だ。右のモジュレーション部は、上からテンプレートの選択/デプス/スピードの各ツマミをレイアウト ▲写真① シンセ・エンジンのコントロール。写真左のオシレーター部には、上から波形選択、ピッチ/グライド、波形のタイプによって固有の音色変化を与えられる“Edit”ツマミが配置されている。中央のフィルター部は上からカットオフ、レゾナンス、エンベロープ・ジェネレーターの設定に応じてカットオフ周波数を時間的に変化させる“EG Int”ツマミを装備。ツマミの下には、左からローパス/ハイパス/バンド・パスの3つのボタンが並び、それぞれ繰り返し押すことでプリセットのアルゴリズムを選ぶことができる。アルゴリズムは全16種類だ。右のモジュレーション部は、上からテンプレートの選択/デプス/スピードの各ツマミをレイアウト
 全16パートで、最大同時発音数は24ボイスです。オシレーターの波形は計409種類で、アナログ・モデリングは単体の波形を“Dual”“Unison”“Cross Mod”などのバリエーションで組み合わせることが可能。PCM音源は、リズム系音色やキーボード音色のマルチサンプルをカバーしています。フィルターは、大きく分けてローパス/ハイパス/バンドパスの3種類。それぞれにKingKorg直系のアルゴリズムが用意されており、好みのものを選べます。“MG LPF”“OB HPF”“MS20 BPF”などのアルゴリズム名から連想できるように名機のフィルター特性を再現しているのですが、ワイルドというよりは程良く効く感じで使いやすいです。モジュレーションは全72種類のテンプレートから選ぶ仕様で、スピードとデプスの2つのツマミでかかり具合を調整します。本機には、このシンセ・エンジンやシーケンサーを組み合わせて作成したパターンがプリセットされています。また、ハウスやテクノといったオーソドックスなジャンルだけでなく、トラップやEDMなどに向けたものも用意。ふむふむ、確かに最新のクラブ・ミュージックでよく聴かれるモダンな音がたくさん入っています。しかもスゴく完成度が高い。プリセットは全200種類と豊富なので、さまざまなジャンルのサウンドでジャムれます。でもプリセットのままだと優等生的な感じもするな〜と思い、パネル上のツマミを適当にイジってみました。するとどうでしょう!? 音たちが何ともツボを押さえた変化をしてくれて、あっという間に僕好みのワルそうなサウンドに仕上げることができました。イージー・オペレーションながら、個性をバッチリ演出できる仕様です。●エフェクトエフェクトは、各パート用のインサート・エフェクトを全38種類搭載(写真②)。
▲写真② アンプ/エンベロープ・ジェネレーターやエフェクトのコントロール。写真左は、アンプ/エンベロープ・ジェネレーターで、4つのツマミで各パートの音量/定位/アタック/ディケイ&リリースを調整でき、ボタンではマスター・エフェクトへのセンドやアンプ/エンベロー プのON/OFFが行える。右にはインサート・エフェクトのコントロールがあり、エフェクトを選 んだり、かかり具合を調整するためのツマミ、エフェクトのON/OFFスイッチを装備している ▲写真② アンプ/エンベロープ・ジェネレーターやエフェクトのコントロール。写真左は、アンプ/エンベロープ・ジェネレーターで、4つのツマミで各パートの音量/定位/アタック/ディケイ&リリースを調整でき、ボタンではマスター・エフェクトへのセンドやアンプ/エンベロープのON/OFFが行える。右にはインサート・エフェクトのコントロールがあり、エフェクトを選
んだり、かかり具合を調整するためのツマミ、エフェクトのON/OFFスイッチを装備している
 ビット・クラッシャーやディレイ、スライサー、ローラー、リピーターなどが用意されています。さらにマスター・エフェクトも装備。リバーブやルーパー、グレイン・シフターなどのほか、同社Kaoss Padシリーズ譲りの“Vinyl Break”、シーケンサーの演奏順序を変化させる“Seq Reverse”“Odd Stepper”などを含む全32種類を用意しており、パネル上のXYタッチ・パッドで制御できます。これはもう“Kaoss Pad代わりになるじゃん!”状態で、ライブなどでも威力を発揮しそう。音質もインサート/マスター共に実用性の高いカッコイイ感じです。 

パターンに即興的な変化を与えられる
ステップ・ジャンプ機能


●シーケンサーシーケンサーは各パートが最大64ステップで、ベロシティ対応のトリガー・パッド×16を使いリアルタイム・レコーディング/ステップ打ち込みの両方が行えます(写真③)。
▲写真③ シーケンサーのコントロール。写真左から操作対象のパートを選ぶための“”、任意パートをミュートする“Part Mute”、打ち込んだノートを消去できる“Part Erase”、選択中の音色を確認するための“Trigger”、トリガー・パッドをステップ入力モードにする“Sequencer”、トリガー・パッドを鍵盤として使うための“Keyboard”、トリガー・パッドでコードを鳴らせるようにする“Chord”、ステップ・ジャンプ機能をON/OFFする“Step Jump”、複数パターンを組み合わせてグループを作るための“Pattern Set”といったボタンが装備されている ▲写真③ シーケンサーのコントロール。写真左から操作対象のパートを選ぶための“<Part”“Part>”、任意パートをミュートする“Part Mute”、打ち込んだノートを消去できる“Part Erase”、選択中の音色を確認するための“Trigger”、トリガー・パッドをステップ入力モードにする“Sequencer”、トリガー・パッドを鍵盤として使うための“Keyboard”、トリガー・パッドでコードを鳴らせるようにする“Chord”、ステップ・ジャンプ機能をON/OFFする“Step Jump”、複数パターンを組み合わせてグループを作るための“Pattern Set”といったボタンが装備されている
 16ステップの場合は、トリガー・パッドの上段8つがステップ1〜8、下段8つがステップ9〜16という構成に。上段がパターンの前半、下段が後半となるため、視覚的にとらえやすくてイイですね。特徴的な機能としては、変拍子を作りたいときにパートの長さを調整する“ラスト・ステップ”や、パターン再生中に任意のパッドを押すことでそのステップへ飛べる“ステップ・ジャンプ”が挙げられます。ステップ・ジャンプは、DJで言うところのキュー・ポイントを使ったプレイに近い印象。再生中のパターンにリアルタイムで変化を付けたり、フィルを入れることができるので燃えます。またパターンを再生しているときにオシレーターやフィルター、モジュレーション、エフェクトなどのノブやボタンを動かすことで、その効果をパターンに記録できる“モーション・シーケンス”も見逃せません。まさに演奏への情熱と繊細なニュアンスをそのまま記録可能です。そのほか“スイング”機能や、プリセットを選ぶだけで各パートにノリを与えられる“グルーブ機能”なども搭載。●その他作成/保存したパターンやパターン・セット(複数パターンのグループ)は、WAVのほかABLETON Liveのプロジェクト・ファイルも書き出し可能。データを本体のスロットからSD/SDHCカードに記録すれば、Liveにインポートできます。他機器との連携と言えば、MIDI IN/OUTやSyncイン/アウトといった端子類も装備。Syncイン/アウトはステレオ・ミニの端子で、VolcaシリーズやMonotribeなどと同期させるためのものです。さて、いろいろと見てきたこのElectribe。全体としては、“とにかく話が早い!”という印象です。操作方法がシンプルな上に、各種パラメーターに的を射たチューニングが施されているようで、イメージ通りの音から思いも寄らないサウンドまでドンドン飛び出てきます。ほかの音源搭載型シーケンサーに無いものとしては、何と言ってもKORGならではのXYタッチ・パッドが大きい。マスター・エフェクトの調整だけでなく、Touch Scaleボタンを押すと音階演奏も行えるので、即興演奏が格段にやりやすくなっています。ACアダプターのほか、単三電池×6でも駆動するため場所を選ばない本機。本体重量は1.6kgと軽く、トップ・パネルだけでなく底面までLEDで光ります。どこを取っても心浮き立つ要素が満載で、もう完全に現場での使用をイメージしている僕でした。 
▲背面には中央から右に向かってオーディオ・アウトR/L(フォーン)、オーディオ・イン、Syncアウト/イン、MIDI OUT/IN、ヘッドフォン端子(以上ステレオ・ミニ)、9VのDCインを配置。オーディオ・アウトLはモノラル・アウトとしても使用でき、MIDI IN/OUTについてはステレオ・ミニ/MIDIの変換ケーブルが同梱されている ▲背面には中央から右に向かってオーディオ・アウトR/L(フォーン)、オーディオ・イン、Syncアウト/イン、MIDI OUT/IN、ヘッドフォン端子(以上ステレオ・ミニ)、9VのDCインを配置。オーディオ・アウトLはモノラル・アウトとしても使用でき、MIDI IN/OUTについてはステレオ・ミニ/MIDIの変換ケーブルが同梱されている
▲側面には、本機をMac/WindowsアプリケーションのMIDIコントローラーとして使用する際にコンピューターとつなぐUSB端子、SDカード(1GB以上)またはSDHCカード(最大32GB)を挿入するためのスロットが装備されている ▲側面には、本機をMac/WindowsアプリケーションのMIDIコントローラーとして使用する際にコンピューターとつなぐUSB端子、SDカード(1GB以上)またはSDHCカード(最大32GB)を挿入するためのスロットが装備されている
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)
KORG
Electribe
50,000円
▪オシレーター・タイプ:409種類 ▪パート数:16 ▪最大同時発音数:24(パターン全体)、4(各パート) ▪フィルター・タイプ:16種類 ▪メモリー容量:250パターン ▪シーケンサー・ステップ数:最大64(各パート) ▪モーション・シーケンス:最大24系統(1パターン) ▪インサート・エフェクト:38種類 ▪マスター・エフェクト:32種類 ▪外形寸法:339(W)×45(H)×189(D)mm ▪重量:1.6kg(電池含まず)