「AVID Pro Tools|Quartet」製品レビュー:Pro Tools|Softwareが付属するデスクトップ型オーディオI/O

AVIDPro Tools|Quartet
AVID Pro Toolsシステムは、用途に応じてさまざまな規模の構成が用意されており、過去には個人スタジオ向けのCPUネイティブ・ハイエンドに当たるDigi 002&003シリーズが存在した。新登場のPro Tools|Quartet/Duetはそれに当たるレンジの製品だ。今回はPro Tools Quartetをレビューするが、Duet(写真①)と共通する部分もあり、そこを踏まえて詳しく見ていくことにしよう。両機とも最高24ビット/192kHz対応で、Core AudioやASIOなどの汎用的なオーディオ・ドライバーでも動作する。
▲写真①  姉妹機のPro Tools|Duet(119,000円)。アナログ2イン/4アウト+ヘッドフォンという構成で、アナログ入出力は付属のブレイクアウト・ケーブル経由で行う。接続はPro Tools|Quartetと同じくUSB 2.0で、最高24ビット/192kHzに対応。DAWソフトPro Tools|Softwareも付属している ▲写真①  姉妹機のPro Tools|Duet(119,000円)。アナログ2イン/4アウト+ヘッドフォンという構成で、アナログ入出力は付属のブレイクアウト・ケーブル経由で行う。接続はPro Tools|Quartetと同じくUSB 2.0で、最高24ビット/192kHzに対応。DAWソフトPro Tools|Softwareも付属している

 

Pro Tools 11が標準で付属
USB 2.0接続でMac/Windows対応


Pro Tools|Quartet/Duetは、好評を得ているAPOGEEのオーディオI/O、Quartet/Duetのマイナー・チェンジ版と、Pro Tools|Software(現在は最新版のPro Tools 11)とのセットといった感じだ。APOGEEブランドのものとの相違点は幾つかあるが、まず今まで非対応だったWindows環境でも使用が可能になっている。ただし、iOSマシンでの使用はできない。またAPOGEE Quartet/Duetは、Maestroというソフトウェアでコントロールしていたが、Pro Tools|Quartet/Duetではそれに代わるPro Tools I/O Controlが用意されている(画面①)。
▲画面① Pro Tools I/O Control。文字通りPro Tools|Quartet/DuetをEuConプロトコルでコントロールすソフトだ。EuCon対応のコントローラーを接続すればモニター・レベルやマイクプリ・ゲインなども遠隔操作できる ▲画面① Pro Tools I/O Control。文字通りPro Tools|Quartet/DuetをEuConプロトコルでコントロールすソフトだ。EuCon対応のコントローラーを接続すればモニター・レベルやマイクプリ・ゲインなども遠隔操作できる
ユーザー・インターフェースはMaestroとほぼ同じで、ダイレクト・モニタリング用ミキサーのコントロール画面、入出力の設定や、マイク/ライン/インストゥルメントの入力切り替えなど、すべての設定がここから行える。ミキサーは2系統備えられており、異なる2つのモニター・ミックスを作成できる点もMaestroと同様だ。大きな違いとしてはEuConに対応しているところ。ArtistシリーズやS6など、EuConハードウェア・コントローラーからPro Tools I/O Controlを操作することができる。Pro Tools|Quartet/Duet本体でのコントロールも、EuConでPro Tools I/O Controlと連動している。そして、コンピューターとの接続方法は、APOGEEブランドのものがFireWireだったのに対し、このPro Tools|Quartet/DuetではUSB 2.0となった。 

32ビット・アッテネーター搭載DACで
左右の音量差が極めて少ない


では、Pro Tools|Quartetの仕様を見ていこう。マイク・プリアンプを搭載したオーディオ入力は4系統。アナログ出力は6系統で、これとは独立したヘッドフォン出力を備える。ADATデジタル入力も備えており、最大で合計12イン/8アウトが使用可能だ。本体には大型のボリューム・ノブを配し、モニター・コントローラーとしての使用を重視しているように見える。OLED画面を備える操作パネルは、ボタンではなく、Pro Tools I/O Controlと連動したタッチ・パネル。左から入力1〜4、中央にスピーカーとヘッドフォン、右側に大型ボリューム・ノブとその上にA/B/Cというエリアがある。A/B/CはそれぞれDIM、MONO、MUTEなどをアサインできるほか、ラージ/スモール/ラジカセといった、複数のスピーカー・システムの切り替えスイッチとしても設定できる。DAコンバーターには、ESS製Sabre32 Ultra DACが採用されている。このデバイスはAPOGEEのハイエンド機Symphonyにも採用されているものと同じだ。ダイナミック・レンジ123dB、THD+N=110dBのハイスペックで、32ビット解像度を持ったアッテネーション機能を搭載。出力をパワード・モニターに直接接続する場合の音量調整や、ヘッドフォンの音量調整を機材内部で行うのに、非常に有利である。ところで、Pro Tools|Quartetはヘッドフォン端子の音質が非常に良い。試聴し始めたときは正直、もう少し低域のある丸く太い音だといいなと多少の不満があった……はっきり言ってしまえば、少々硬過ぎると思った。しかし試聴するうちに考えが変わった。このヘッドフォン端子のSN比は画期的なほど良好であり、ボリューム全開でも全くの無音だ。Sabre32 Ultra DACに内蔵されたアッテネーターを使用しているため、アナログ・ボリュームで音量を絞った際に問題になるギャング・エラー(左右の音量差)が発生しない。小音量時でも定位が非常に鮮明であることが、なによりありがたく感じる。 

HD I/Oともしのぎを削るクオリティ
出力部に劣らぬ入力部の優れたSN比


Pro Tools|Quartetの音色をかなり気に入ったところで、普段筆者が使用しているAVID HD I/Oと比較試聴してみた。まずはPro Tools|Quartetのアナログ・アウトから、外部モニターコントローラー(アナログ)を通した状態で比較。HD I/Oと比べても、音の情報量や解像度、いわゆる音の見え具合は、そん色無いどころかソースによって勝るポイントがあるくらいだ。具体的には、楽器の中高域のディテールや残響音の切れ際などの表現力が高いと感じた。価格差を考えると、思わずうなってしまった。ただ、さすがにHD I/Oは音像が立体的で陰影がある。ダイナミクスに応じた奥行きを感じられ、さらに1クラス上の表現力を持っていると思う。次にパワード・モニターに直接接続して、Pro Tools|Quartetをモニター・コントローラーとして使用すると、小音量時はQuartetに軍配が上がる。前述したギャング・エラーを回避して、センター定位と広がりは保たれたまま音量操作が可能だ。歌や演奏のダイナミクスに対してはややクールな反応で、試聴する音源によっては物足りなくも感じたが、ひずみ無くフラットな音色は和音を分析的に聴く際などにメリットを感じた。一方、Pro Tools|Quartetのアナログ入力には最大ゲイン75dBのマイク・プリアンプも内蔵されている。ゲインなどは本体でも、Pro Tools IO Control経由でもコントロール可能だ。そして今回のテストで最も驚いたのが入力部の音質。マイクを入力して内蔵ミキサーでダイレクト・モニタリングしてみたが、SN比が大変良く、非常に微細な部分も埋もれずに録音できる。また大きなレベルで飽和したり、鋭いピークが丸まったりしない。今までのオーディオ・インターフェース内蔵マイクプリと比べてダイナミック・レンジが広い印象だ。 

入力音と出力音で不自然なずれが無い
4K映像のようなディテールと立体感


アーティストがホーム・スタジオで歌唱/演奏しやすいかという視点に立って、チェックを続けた。自分の声でPro Tools I/O Controlのミキサーからヘッドフォン端子にモニターを返してみたが、恐らくこれはかなり歌いやすいと思う。自分の発する声のイメージとモニター音に不自然なずれが無いので、繊細な表現のニュアンスを聴き取りながら気持ち良く歌えるはず。また、マイク・プリアンプの特性がチャンネル間で非常に差が少なく均一な上、前述したようにヘッドフォン・モニターの左右差も非常に少ないため、ステレオやマルチチャンネルの音源に対しても非常に有利と見た。ステレオで設置したマイクをヘッドフォンでモニターすると、とにかく心地よい。どのような楽器の録音作業も楽しくなること請け合いだ。さらに、ダイナミック・レンジのテストを兼ねてフィールド録音もしてみた。雨の音などの微細なレベルの音源や、音量の大きな工作機械、自動車のエンジン音を収録。ここでも印象はSN比に優れ、エッジが効いてシャープだ。かといってざらついた硬い音でもなく、超高域までシルキーで滑らかな印象がある。この解像度感を映像に例えると、MBoxクラスがハイビジョンなら、Pro Tools|Quartetは4K映像のようなディテールと立体感がある。モッチリと太いが分離の良い低音域も好印象だ。ちなみに初期設定で入力のSoft Limitがオンになっていたが、これにより風のような超低音も自然に収録することができた。このSoft Limitはオン/オフで余計な音質変化があまり感じられず、積極的に利用できそうだ。 Pro Tools|Quartet/Duetは、単体のオーディオ・インターフェースとして考えると少々値段は張るが、Pro Tools|Softwareも付属しているため、Pro Toolsシステムを導入する際にこれを選んでおけば音質や操作性に不満が出ることは将来においても少ないと思う。コスト・パフォーマンスに優れたシステムだと言えるだろう。 
▲リア・パネル。アナログ入力1〜4(XLR/フォーン・コンボ)、アナログ出力1〜6(TRSフォーン)、オプティカル入力1&2(最大8ch)、USB端子、USB MIDI出力その下にワード・クロック出力とDC入力(9〜16V) ▲リア・パネル。アナログ入力1〜4(XLR/フォーン・コンボ)、アナログ出力1〜6(TRSフォーン)、オプティカル入力1&2(最大8ch)、USB端子、USB MIDI出力その下にワード・クロック出力とDC入力(9〜16V)
▲右側面にはヘッドフォン端子を搭載 ▲右側面にはヘッドフォン端子を搭載
 撮影/川村容一(写真①を除く)(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)
AVID
Pro Tools|Quartet
210,000円
▪最大入力レベル:+20dBu(マイク/ライン)、+14dBu(インストゥルメント) ▪外形寸法:259(W)×76(H)×135(D)mm ▪重量:1.4kg ▪付属品:Pro Tools|Software(ダウンロード提供)、Pro Tools I/O Control(ダウンロード提供)、iLok 2、USBケーブル、ユニバーサル電源 【REQUIREMENT】 ▪Mac:Pro Tools使用のためのAVID動作検証済のMac(Mac OS X 10.8&10.9) ▪Windows:Pro Tools使用のためのAVID動作検証済のWindowsベースのコンピューター(Win dows 7&8)