「PRESONUS Sceptre S8」製品レビュー:同軸ドライバーを搭載したDSP内蔵2ウェイ・アクティブ・スピーカー

PRESONUSSceptre S8
コスト・パフォーマンスの高い製品群を輩出するPRESONUSから、アクティブ・スタジオ・モニターSceptreが発売された。ウーファー径8インチと6.5インチのモデルがある中、今回は前者のSceptre S8をチェックしてみた。

PAスピーカーの名匠と共同開発
独自形状のホーンをツィーターに搭載


本機の第一印象は“ザ・同軸!”。ウーファーの前面に張り出した四角いホーンが、往年のALTECをほうふつさせるデザインだ。大きい横一文字のアコースティック・ポートもユニークな形状。背面にはアナログ入力(XLRとTRSフォーン)、入力レベル・コントロール、そして本機の最大の売りであるDSP設定を選択するACOUSTIC TUNINGのコントロールがある。同軸スピーカーのメリットは、異なる帯域を再生するドライバーを同ユニット内(正確には前後)に収めることで、全帯域がスピーカー上の同じ位置から再生されることだ。逆にデメリットとしては、同軸上に配置することによる干渉(回折や振動)などが挙げられるが、それをどのように克服するかが各メーカーの特徴にもなっている。本機はスピーカー・デザイナーのデイヴ・ガネス氏とのコラボレートによる製品で、カスタム・トランスデューサーを採用。氏はELECTRO-VOICE在籍後EAWに移籍し、DSPによる補正技術Gunness Focusingを開発したことで知られる。現在は独立してFULCRUM ACOUSTIC(以下FA)副社長に就任。同社は商業設備用からホール常設用などのスピーカーを開発しているメーカーである。本機のウーファー・コーン素材はグラスファイバー強化ペーパーで、近くで見ると繊維状のラメが入っているように見える。ツィーターは1インチのトランスデューサーが搭載され、ホーン部は正面から見ると角丸の四角なのだが、かなり立体的な曲線となっている。この形状がミソなのだろう。アンプ部はクラスDのバイアンプで、LF/HFそれぞれ90W。クロスオーバー周波数は2.4kHzと高めだ。そして注目のDSP部だが、FAによる技術、TQアルゴリズムにより、ホーンの反響、線形時間、振幅偏差補正、パフォーマンス・コンター、ダイナミクス、エクスカーション・リミッティングをコントロールしているとのこと。設定としては主にサブウーファーとの併用に用いるHP FILTER(0/60/80/100Hz:−24dB/Oct)と、ツィーター側のレベル補正のHF DRIVER(0/+1/−1.5/−4dB)、そして設置場所による低域補正を行うACOUSTIC SPACE(0/−1.5/−3/−6dB)がある。  

正対した状態で中低域以上はフラット
位相特性は補正を入れても優秀


まずすべての設定をフラットにし、2ミックスを再生した。400Hz以上は恐ろしくフラットな印象。ただ、角度や向きによって高域の飛び方が違うようで、正面〜30°程度までは軸からずれるに従い、5〜13kHz付近にわずかに緩やかなピークが生成される。その特性を生かし、スタジオではエンジニアに両方のスピーカーが正対するように向けると、後方のクライアントも高域までが減衰しない状態でモニターできる。中低域は320Hzに少しピークが、95Hzにディップがあったが、これは設置場所の問題だと判断。低域は60Hzに若干のピークがあり、そこから緩やかに落ちていくが、スペック上の46Hzまできちんと出ていた。恐らくポートの効果だろうか、このサイズで60Hz以下の帯域が感じられるのはうれしい。弊社スタジオはモニター設置場所が壁から2m以上離れているため、低域補正が無くてもフラットで筆者にとっては良い印象だったが、設置場所が壁近くの場合は補正してみるのもよいだろう。逆にロー好きの人は壁に近づけてみるのもよいかもしれない。試しにこの設定で音響測定してみたが、45Hz〜20kHzまで±2dB以内に収まっていた。また驚異的なのが、350Hz以上は各周波数の位相が30°以内に収まっている。2ウェイでこんな優秀な測定結果を見たことが無い。さらに通常クロスオーバー周波数付近での干渉も全く感じられなかった。DSPによるタイム・アライメントを含めたTQアルゴリズムの効果がはっきりと分かる。今回は必要無かったが、試しにACOUSTIC SPACEでの補正を−6dBで入れてみたが、説明書通り250Hz以下がきちんとカットできた。しかも位相のずれが全く無しに! 低域はそれぞれの好みがあると思うが、本機の中域より上のフラットさには驚いた。用途やジャンルによって求められる作業音量は違うが、20㎡程度までのコントロール・ルームなら十分な音量が得られ、あまり音量を突っ込まない方がフラットに感じる。強いて欠点を言うなら、説明書には入力レベルはU(ユニティ)を基準に、とあったが、弊社スタジオでは絞りきりの方が使いやすかった。これはきっとモニター・コントローラーとの相性だろう。機会があれば、サブウーファーとの組み合わせでも、ぜひチェックしてみたい。 
▲リア・パネル。左から入力トリム、インプット(XLR、フォーン)、ACOUSTIC SPACE(壁面での低域反射に対する調整)、HF DRIVER、HP FILTERの設定 ▲リア・パネル。左から入力トリム、インプット(XLR、フォーン)、ACOUSTIC SPACE(壁面での低域反射に対する調整)、HF DRIVER、HP FILTERの設定
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年4月号より)
PRESONUS
Sceptre S8
オープン・プライス (市場予想価格: 80,000円前後/1本)
▪周波数特性:46Hz〜20kHz(−3dB) ▪クロスオーバー周波数:2.4kHz ▪アンプ出力:90W(LF)+90W(HF) ▪外形寸法:290(W)×300(D)×400(H)mm ▪重量/11kg(1本)