
COMP MIXのツマミで
DRY/WETをミックス可能
フロント・パネルは、ブラックのメタル・パネルになっていて、重厚感があり高級感にあふれた、デザイン性の優れた仕上がりです。リアには電源スイッチとXLRのインプットが1系統、アウトプットを2系統(MIX/DIRECT)搭載しています。MIX OUTは全回路を通ったアウト、DIRECT OUTはCOMP INスイッチとCOMP MIXの回路がバイパスされたアウトとなっていて、COMP MIXを使わない場合はDIRECT OUTを使った方が回路の通る数を少なくできるようです。では各ツマミやスイッチを見ていきましょう。本機は1176と同様にスレッショルドの設定のツマミは無く、INPUTレベルでコンプのかかり具合を調整し、OUTPUTでゲイン・リダクションした分を調整します。スレッショルドのかかり始めるINPUTレベルの位置はオリジナルの1176と大体同じで(この機器では目盛りが2の位置)、メーターの振れ方も似ているので1176を使い慣れた人にはとても使いやすいのではないでしょうか。レシオの設定は4:1/8:1/12:1/20:1/100:1の5ステップで、100:1モードは1176におけるレシオ・スイッチ4つ全部押しと同じようなモード。ドラムなどにハード・コンプをかけてパンチを出したいときに威力を発揮するでしょう。アタックとリリース・タイムのツマミは1176の無段階ボリューム式ではなく、FAST/M-F/MEDIUM/M-S/SLOWの5ステップのノッチ式。アタック・タイムは20μs〜800μsで1176と同じ数値ですが、リリース・タイムは50ms〜0.8sで、SLOWモードが1176の1.1sに対して0.3s速い数値です。ハイパス・サイド・チェイン・フィルターは、OFF/100Hz/200Hz/300Hz/600Hzの4帯域で選択することができます。コンプがかかるトリガー用ソースの低音に対してだけにフィルターがかかり、実音には影響はありません。例えばバス・ドラムやベースなどの低域にコンプがかかり過ぎてしまい、抜けの悪い音になったりするのを防ぎ、ローエンドをうまく残したサウンドを作ることができるのです。そしてこの機器の最大の特徴でもあるCOMP MIXでは、元の素材の音(DRY)とコンプのかかった音(WET)をミックスし、2つの音のブレンド具合を調整することができます。今までは別途ミキサーが必要でしたが、1台のコンプでDRYとWETのミックスができる上に位相のズレを気にすることもありません。例えばスネアにハードなコンプレッションをかけてアタック感を出し、DRYの元音に混ぜていくとナチュラルなサウンドの中に粒立ちのあるスネアがあるドラム・サウンドを作ることができます。緑色のCOMP INスイッチは、トゥルー・バイパスをオフにすることでMIX OUTから回路を通らない原音を聴くことが可能です。左上の2つの赤いスイッチはハイパスとローパスのオン/オフ。6dB/octのフィルターでハイパスが80Hz、ローパスが8kHzとなっていて、オンにすることで余計なノイズをカットできます。
高域の抜けが良く
ナチュラルでクリアなサウンド
実際に使ってみて感じたのは、全体のサウンドの印象は高域の抜けがとても良く、S/Nの悪さも無いナチュラルでクリアなサウンドでした。COMP MIXでDRYとWETをミックスすることによって倍音成分を作り出せ、EQでは表現しにくい中域の厚みを出せます。アコギのレコーディングにおいては、強めにコンプをかけても音が引っ込むこともなく強い存在感を出してくれました。低域に関しては500Hz以下がやや持ち上がっているような印象を受けましたが、ハイパス・サイド・チェイン・フィルターを設定することで低域のバランスをコントロール可能なので、ベースやバス・ドラムの輪郭のあるローエンドを作り出すことができます。コントロール性も視認性も1176と同様に分かりやすく、フレキシブルに使えるでしょう。 同社から出されている17Xを、クオリティは落とさずにコスト・カットした17XS MKII。これだけのクオリティで10万円を切る価格となっているのは驚きでした。プロの方からコンシューマーの宅録の方々にも使い勝手が良く手を出しやすい一台になっていると思います。今後はピアノやドラム・ミックス、トータル・コンプなどのステレオ・ソースにも使えるステレオ・リンクを搭載したものか、UREI 1178のようなステレオ仕様のタイプの制作も期待したいです。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年3月号より)