
多様な電子音楽を網羅したプリセット
思わず聴き入ってしまう奥深い音色
まず目を引くのが、同社製品に共通する重厚感のあるボディと思わず手を伸ばしたくなるノブやスイッチ類。基本はAnalog Fourのデザインを引き継ぎつつ、ノブやボタン位置に若干の変更が見受けられます。鍵盤に加えて、ピッチ・ベンドやモジュレーション以外にも自由にパラメーターをアサインできるジョイ・スティック、そして4つのシンセ・トラックごとにインディビジュアル・アウトも新たに装備。またAnalog FourではLevelノブがトラックのレベル調整とメニューのスクロールやパラメーター値の設定を兼ねていましたが、本機では大型のSound Selectionホイールを備えることでレベル調整とは独立してスクロールなどが行え、格段に扱いやすくなりました。内蔵のプリセットなども幾つか変更点がありますが、こうしたOSの部分の機能に関してはAnalog Fourでもアップデート(OS1.1)によってほぼ同じ仕様になります。製品概要もそこそこに、早くいじりたいので音を出してみます。まずはプリセット・パターンを幾つか聴いてみたところ、さまざまなスタイルのエレクトロニック・ミュージックが網羅されており、本機の魅力を雄弁に語るかのような深い音色に聴き入ってしまいました。取っ掛かりにPerfromanceモード(後述)でパラメーターをいじってみましたが、その表情の豊かさに驚かされます。1つのボイス(シンセ・トラック)につき2つ用意されたフィルターは直列接続で、1段目にシンプルなローパスのラダー・フィルター、2段目にはマルチモード・フィルターがあり、その組み合わせで積極的な音作りが行えます。しかも両者の間にはアナログのオーバードライブもあり、これが何とも病みつきになりそう。もちろんエフェクトとしてオーバードライブやディストーションを備えたシンセはたくさんあるでしょうが、本機は2つあるフィルターの中間にオーバードライブを配置することで、よりスマートで使いやすいひずみが得られます。値が0でクリーンな状態、プラス方向でクリッピングしたハイ寄りのアグレッシブなひずみ、マイナス方向にするとよりマイルドで丸みのある中低域寄りのひずみが得られました。その後段のマルチモード・フィルターにはローパス/ハイパス/バンドパス/バンド・ストップ/ピークなど計7種類が用意され、さらなる音作りができるぜいたくな設計。どのフィルター・タイプもアナログならではのエグい効き方をして、グイグイいじるとどんどん凶暴な音になる! これは楽しいです!
4音ユニゾン/ポリモードを用意
アサイナブル・モジュレーションも便利
あらためてじっくり見ていきましょう。オシレーターは前述の通りアナログなのですが、コントロールはデジタルなので非常に安定しています。1つのシンセ・トラックに対して2つのオシレーターとノイズがあり、ノコギリ/矩形/パルス/三角といった基本波形とともに、外部からのオーディオ入力をソースとして利用することもできます(写真①)。

定評あるパラメーター・ロック機能
ハードならではのダイナミックな操作感
非常に直感的な操作性で高い評価を得ているパターン・シーケンサーも、同社製品の魅力です。本機では1〜16のボタンを使ったステップ打ち込みと鍵盤をリアルタイムに弾いての記録に対応し、最大の特長はパラメーター・ロック機能。1〜16の該当ボタンを押しながらパラメーターを操作することで、ステップごとに設定を変えられるほか、パラメーター・スライド機能ではノート間のパラメーター値がスムーズに変化。こうした操作をシーケンスを一切ストップすることなく行うことが可能です。また本機ではTransposeキーとFunctionキーが近くに並んだことで、シーケンス再生中のリアルタイム・トランスポーズの操作性が格段に飛躍しました。これは個人的に陥りやすい状況なのですが、DAWでマウスを使ってち密なエディットをしていると、どうしてもスムーズな流れを作ってしまい、面白みの少ないものになりがちだったりします。しかし本機のシーケンサーを使うと、目先ではなく感覚が研ぎ澄まされて、結果的にダイナミックでパワフルなものが出来上がりやすいです。アルペジエイターも付いており、その自由度とエディットのしやすさも特筆すべき点です。大画面のDAWでの作業に慣れ過ぎてしまった昨今、本機の小さなLCDディスプレイは物足りなく思えてしまうかもしれませんが、実はここにこそクリエイティビティをわき立たせる本質があるように思えてきました。目で追うのではなく、耳と手先の感覚に集中しやすいのです。 ハードウェア・シンセの担う役割の一番大きなものの一つが、ライブなどにおけるフィジカルな演奏性だと思います。本機では鍵盤の装備やPerformanceモードによってアーティストの持つテクニック、ひらめき、ハードならではの偶発性などを余すところなく発揮できそうです。そして何よりもこの音。最高です!
