「AEA N22」製品レビュー:コンデンサー・マイクの良い部分も取り入れた進化形のリボン・マイク

AEAN22
AEAは、1976年からRCAのリボン・マイクのリペアを始めた会社で、1990年代には外観や音色までも見事に復活させたRCA 44の復刻版のAEA R44Cを発売しました。その後、今回レビューするAEA N22を含む“Big Ribbonマイクロフォン・シリーズ”を発表し、最近では、数々のオリジナル・リボン・マイクも世に送り出しています。しかも同社の製品は、すべて100%ハンドメイド。筆者も数年前、本誌で同社のリボン・マイク、R92をレビューしたので、その辺りの記憶をたどりながらチェックしていきましょう。

薄く大型のアルミニウム・リボンを採用
ファンタム電源によるJFET回路の搭載


まず目を引くのは、ビンテージ復刻シリーズから脱却したスタイリッシュな外観。正面と裏側は同一の黒い風防部分があり、本体は高級感漂うつや消しの薄いシャンパン・ゴールドです。マイク頭部には赤いAEAのロゴ・マーク、フロント面にシリーズ名である“NUVO”の刻印があるだけで、一切のスイッチが無いシンプルなデザイン。今までのラインナップには無い、クールなデザインと言えますね。指向性はリボン・マイクの特性である“8の字”、つまり双指向性のみです。当然ですが、1枚のリボンで収音するので、全帯域で表裏同じ特性となっています。これもリボン・マイクの構造上の特徴ですが、フロントに対してリアは位相が逆になります。そしてN22の大きな特徴は、スリムな本体に反して非常に薄い(1.8ミクロン)、大型のアルミニウム・リボンを採用していることと、JFET回路という高入力インピーダンス、低ノイズのトランジスターを採用していることでしょうか。また、リボン・マイクは大型のマグネットが不可欠なのですが、今回のN22は、リボンの大きさの割にはとても軽量に作られています。本来リボン・マイクにはファンタム電源は不要で、機種によっては故障したり壊れたりと、トラブルの要因になるのですが、本機はファンタム電源によるJFET回路を採用することにより、リボン・マイクの低出力を解消した設計となっています。付属品としては、専用ケース、マイクロフォン・サスペンションがパーケージされています。 

中域〜低域の質感が豊かで
細かなニュアンスも繊細に表現


実際に音を聴いてみましょう。まずは声でチェックしてみます。マイク・アンプの設定は、通常のコンデンサーとほぼ同等の出力があるようです。当然ですが、ダイナミック・マイクよりは高出力。指向性も真横(左右)や上部に向かって、極端に感度が低くなってきます。通常の単一指向性ではサイドは感度が減っていく感じですが、本機はまるで目で見えるがごとく立体的な“8の字”の特性であることが分かります。また、ほかのコンデンサー・マイク(NEUMANN U87、KM184、AKG C451)と比較すると、“吹き”には強く作られていました。リボン・マイクは、構造上“吹き”には弱く、最悪の場合はリボンが切れてしまうのですが、その辺りの弱点は十分に対応していて、リボンを保護する設計となっているようですね。幾つか楽器でも試してみます。まずはピアノをオフマイクでチェック。各レンジでとても素直なサウンドです。特に中域〜低域の質感が豊かに響きます。次にドラムのルーム・マイク(オフとオンセッティングの中間)でも同様の印象でした。バランスは非常に良く、シンバルやハイハットが強調されず上品です。こちらも、バスドラ、タムやスネアなどのボトム感が心地良く、存在感あるサウンドになりました。2つの楽器で感じたことは、アタック感が強調されず重心が少し下がった感じ。特に中低域の情報量が多い印象で、また細かなニュアンスもとても繊細に表現されます。音の立ち上がりや減衰の仕方が、普通のコンデンサー・マイクとは根本的に違いますね。当然、サウンドも色彩感/質感/印象が違ってきます。次にストリングス・カルテットをオフマイクで録ってみました。これも想像通りで、非常にまとまった豊かなサウンドです。今回は1本のチェックでしたので、同じ録音でオフマイクに使っていたC451と組み合わせて、MSセッティングでもチャレンジしてみることに。これは、予想以上に良い結果が出ました。当然ですがキャラクターの違うマイク同士でも、左右の質感は変わらず、より抜けの良さがブレンドされた印象です。今回はチェックできなかったのですが、ギターやボーカル、ウッド・ベースなどでも好結果が予想されます。サウンドのイメージも広がりますし、ぜひ試してみたいですね。 今回チェックしてみて、普段使っているマイクのほとんどがコンデンサーかダイナミック・マイクで、そのサウンドやキャラクターの中での組み合わせだけだったことを痛感しました。実際リボン・マイクは割と重かったり、扱いがデリケートだったり、出力が小さかったり……現在の録音現場では、比較的使い勝手が良くなかったわけですが、今回のN22はその幾つかの要素を克服し、リボン・マイクとコンデンサー・マイクの良い点を取り入れた進化形のマイクと言えますね。豊かで繊細なサウンドを、現代の録音環境に合わせたAEA N22は、“NUVO”シリーズという名の通り、新時代のマイクと言えるでしょう。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年3月号より)
AEA
N22
108,000円
▪形式:リボン・マイク ▪指向性:双指向 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪感度:6.2mV/pa ▪最大SPL:141dB ▪インピーダンス:92Ω ▪ロードインピーダンス:1kΩかそれ以上 ▪電源:ファンタム電源 ▪外形寸法:41.1(φ)×224.2(H)mm ▪重量:約340g