
FETコンプは自然〜過激な処理が可能
EQは積極的な音作りに合う印象
本機はクラスAディスクリート回路となっており、6922×2本&12AT7×1本という計3本の真空管を搭載。±300Vものハイボルテージなパワー・レールによって余裕のあるヘッド・ルームを実現しているそうです。入力はリアにマイク・イン(XLR)、ライン・イン(XLR)、フロントにインストゥルメント・イン(フォーン)を装備。リアにはアウトプット(XLR)とコンプ・リンク(フォーン)も用意されています。マイクプリ部は+30〜65dBを5dBステップで調節できるほか、±10dBのトリムで微調整が可能。また+48Vファンタム電源、位相反転、−20dB PADに加え、−12dB/octの可変ハイパス・フィルター(20/40/80/200Hz)と必要なものはすべてそろっています。さらにマイク入力に関しては1,500/900/300/150Ωの4タイプからインピーダンスを選ぶことができ、マイク・セッティングやEQとはまた違うキャラクター・バリエーションが得られます。続いてコンプ部。操作子はアタック/リリース/スレッショルド/レシオ/メイクアップ・ゲイン/バイパスが備わっています。ソフト・ニー固定で、レシオも1:1〜4:1とリミッター的な使用はできませんが、FETコンプ特有の高速アタックでアグレッシブにかけることが可能です。もちろんナチュラルにレベルをそろえることもでき、録音時に非常に使いやすい仕様です。今回は1台だけのチェックでしたが、2台を前述のコンプ・リンクでつないでステレオ処理も可能です。続いてEQ部。4バンド・セミパラメトリック方式で、ローは20〜250Hz、ローミッドは160Hz〜2kHz、ハイミッドは800Hz〜8kHz、ハイは2〜20kHzで±16dBのゲイン・コントロールができます。ローとハイはシェルビング/ピークの切り替え可能で、ローミッドとハイミッドはピークでQ幅も約0.6と比較的広めに固定されているためコツをつかむのに慣れが必要かもしれませんが、実際にいじってみると狙ったポイントの補正というよりは、積極的に音作りをするという用途に向いたEQという印象です。なお、EQとコンプのシグナル・チェインはEQ>COMPスイッチで切り替えることができ、どちらをプリアンプの後段へ先に入れるか設定可能です。また最終段のLEVELツマミでは、全体の出力を−80〜+10dBの範囲で調整することができます。
スムーズで非常にクリアなサウンド
入力インピーダンス切り替えも便利
実際に自宅スタジオでの使用を想定して、アコギとボーカルを入力してチェックしてみました。マイクはコンデンサーがNEUMANN U87AI、ダイナミックがSHURE SM57です。総じてザラついた感じは無く、非常にスムーズでクリアなサウンドが得られました。平面的なサウンドに奥行きが与えられ、輪郭がくっきり出て立体的になる印象です。さらに入力インピーダンス切り替えを併用してみると、1本のマイクでも指弾きのアルペジオからピックを使ったストローク、ロック的な張ったボーカル、しっとり歌うボーカルなど多様なシチュエーションに対応できました。マイクの選択が限られる自宅録音では特に頼もしい機能だと思います。なお、前述したようにレベル調整はGAINツマミ、TRIMツマミ、LEVELツマミで行いますが、細かな設定ができる分、裏を返せばここをしっかりコントロールしないとひずんでしまいます。そういう意味で、初心者〜中級者はレベル・コントロールをしっかりジャッジする力量も鍛えられそうです。 以上ざっと見てきましたが、EQのQ幅が変えられたり、コンプのレシオがもっと広範囲だったらいいなと思わなかったわけではありません。ですが、その辺をあえて限定することによって、音作りで無用な迷いを生じさせないようにしたいという本機の意図も感じられました。価格もプリアンプ、コンプ、EQを別々にそろえることを考えたら納得行くものですし、特に自宅録音環境にはうれしい製品ですね。
