CRYPTON初音ミク V3

2007年にVocaloid 2用のライブラリーとして発売された初音ミクが、Vocaloid 3向けに“初音ミク V3”という名前で生まれ変わりました。この初音ミク V3は、オリジナルの初音ミクと、その追加音源Miku Appendから厳選した4つのライブラリーを、新たに磨き込んでパッケージしたもの。YAMAHA Vocaloid 3 Editorなどの既存のボーカロイド用エディターと同じパラメーター構成を持つCRYPTON Piapro Studioと、DAWソフトのPRESONUS Studio One Artistがバンドルされているので、Mac/Windowsを問わず、買ったその日から音楽制作を始めることができます。
前バージョンの特徴を継承しつつ
使いやすさが向上
Vocaloid 2 初音ミクは、発売後間もなく新しい表現ツールとして迎え入れられ、数々の作品を通して多くの人たちがその不思議でかわいらしい歌声に触れてきました。V3版でも初音ミクの基本的な声質は変わっていませんが、細やかな点にさまざまな改良が加えられています。Vocaloid 2版から最も進化したと感じるのは、Vocaloid 3から実装された“トライフォン”という複雑な音素構成技術により、発音と発音のつなぎ目がスムーズになった点です。Vocaloid 2版では、幾つかの発音が不明りょうだったり、母音が自然と暗くなることがあって、そのたびに音符の分割やエディターのパラメーター編集など細かい操作を必要としました。しかし、同一のデータを両者に歌わせて比較したところ、V3版ではこういった発音の不安定さがほとんど解消されていて、簡潔な操作でより自然な歌声が得られるようになっています。例えば、ナ行やマ行などの子音についてはVocaloid 2版の独特なニュアンスを継承しており、“ミクらしい”と感じられる部分はそのまま残っています。このように、使いにくかった部分は修正されていますが、特徴的であったところは引き継がれているのです。
静かな曲からハードなナンバーまで
幅広く対応できる5つのライブラリー
早速、初音ミク V3に収められた5種類のライブラリーを見ていきましょう。●ORIGINALその名の通り、オリジナルであるVocaloid 2 初音ミクのライブラリーなのですが、従来よりも高域が落ち着き、柔らかい声質になった印象です。ノイズが減り、高い音域を歌わせたときにキンキンした感じにならなくなったので、リスナーにとっても聴きやすいものになっていると思います。こうしたVocaloid 2版との違いは注意して聴かないと気付かないかもしれませんが、バック・トラックと合わせるときに実感できるはずです。●SWEET最も吐息成分が多いライブラリーです。たどたどしく、ぽつりぽつりと歌うタイプの声なので、ロング・トーンよりも譜割の細かいフレーズに適しています。また母音が弱く、子音が強めに出るため、静かな楽曲で活躍するでしょう。若干幼い声質とも言えるので、1つの楽曲の中でほかのライブラリーと切り替えて使う場合は、エディター上のパラメーター“GEN”(ジェンダー)を少し上げ、男声寄りにすると良いと思います。●DARK若干SWEETに似ていますが、より母音が明りょうで、やや激しい曲にも対応できるライブラリー。その名の通り憂うつそうな声なので、暗い楽曲にも適しています。なお、このDARKや先ほどのSWEETは、子音が不必要に強調され過ぎないよう、エフェクトをかける際は要注意。●SOFTMiku Appendから選ばれたライブラリーの中では最もORIGINALに近く、個人的に一番気に入っています。具体的には、ORIGINALを少し柔らかくしたような声質で、主張し過ぎないので、ハモを歌わせたりコーラスで何声も重ねる場合にも効果的です。あらゆる場面で活躍の期待できる、万能選手だと思います。●SOLID母音が最も強く出るライブラリーで、激しい曲に向いています。デフォルトの状態でも十分ハードな曲に対応できますが、より力強くしたい場合はエディター上のパラメーター“BRI”(ブライトネス)を上げたり、アクセントの量を増やすと良いでしょう。ただし、とにかく母音がよく伸びるため、音符の長さや“DYN”(ダイナミクス)パラメーターの設定に気を配り、棒読みにならないようにしましょう。また、ほかのライブラリーよりも若干大人っぽい感じなので、併用する場合は調整が必要です。なお、V3版へのアップグレードで従来よりも高域のノイズが減り、聴きやすくなりました。 各ライブラリーにはそれぞれ得意/不得意な音域、強い発音/弱い発音が存在するため、実際に歌わせながら、特徴を少しずつ理解していくと良いでしょう。扱いに慣れてくると、1曲の中でライブラリーを何度も切り替えたり、ワンフレーズだけ別のものに差し替えて歌わせることができるようになります。ぜひ、複数のライブラリーを生かしたさまざまなテクニックを試してみてください。
付属のエディターPiapro Studioでは
デフォルトの発音をさまざまに変更可
ここからはバンドルのソフトを見ていきます。ボーカロイド用エディターのPiapro StudioはMac/Windowsをサポートし、DAW上でVST/Audio Unitsプラグインとして動作します。マウスで歌声を入力すれば、その結果をすぐに再生し確認することができます。ここで便利だと思ったのは、デフォルトの発音を変えられる点。初期設定では“ら”になっているのですが、これを“ん”に変えれば素早くハミングのパートを作れますし、“にゃ”にすれば簡単に猫語で歌わせることができるのです! このように、工夫次第で新しい入力方法が編み出せるのは大きな特徴ですね。もちろん、複雑な歌詞を歌わせることもできます。歌詞は一括入力に対応しており、専用のポップ・アップ画面に文字を打ち込むと編集画面上のノートへ割り振られます。ボーカロイド用エディターと言えば、冒頭で触れたVocaloid 3 EditorやTiny Vocaloid 3 Editorが挙げられますが、Piapro Studioはこれらとパラメーターの名称や効果が変わらないため、既存のユーザーが戸惑いにくい仕様となっています。また、複数のパラメーターを縦に並べて表示できたり、トラックのボリューム・コントロールが常に表示されている点はとてもDAW的で扱いやすいと思いました(画面①②)。


CRYPTON
初音ミク V3
16,800円 (英語音声ライブラリーを同梱する 初音ミク V3 バンドルは21,000円)
⃝初音ミク V3
▪Mac:Mac OS X 10.7/10.8、14GB以上のハード・ディスク空き容量
▪Windows:Windows 8/7(32/64ビット)/Vist
a/XP(32ビット)、18GB以上のハード・ディスク空き容量、OpenGL 3.0以上に対応したグラッフィク・ボードの搭載を推奨
▪共通項目:INTEL Core 2 Duo 1.8GHz以上を推奨、2GB以上のRAM、DVD-ROMドライブ、1,280×768以上のディスプレイ、インターネット環境(アクティベーション時)
⃝Piapro Studio
▪Mac:Mac OS X 10.7/10.8/10.9
▪Windows:Windows 8/7(32/64ビット)/Vist
a/XP(32ビット)、OpenGL 3.0以上に対応したグラッフィク・ボードの搭載を推奨
▪共通項目:2GB以上のRAMを推奨、50MBのハード・ディスク空き容量(データ・ベースに別途必要)
⃝Studio One Artist
▪Mac:Mac OS X 10.6.8以降、INTEL Core Duo(INTEL Core 2 DuoまたはXeonを推奨)、2GBのRAM(4GBを推奨)
▪Windows:Windows 7/Vista/XP(32/64ビット)、INTEL Core DuoまたはAMD Athlon X2(IN
TEL Core 2 QuadまたはAMD Athlon X4を推奨)、2GBのRAM(4GBを推奨)
▪共通項目:20GBのハード・ディスク空き容量、DV
D-ROMドライブ、1,280×768以上のディスプレイ、インターネット環境(アクティベーション時)