パフォーマンス機能や個性派ツールを加えたWindows用DAWソフト

IMAGE LINE SOFTWAREFL Studio 11
FL Studio(以下FL)は他の音楽制作ソフトとは一味違った視点を持ち、バージョン・アップのたびに斬新で面白い新機能やプラグインを提供し続けるベルギー生まれのWindows用DAWです。その最新版であるVer.11が約2年ぶりに登場しました。今回のリリースにあたり、パブリックβテストとフォーラムでの活発な意見交換が重ねられており、まさに満を持して出たバージョンと言えるでしょう。なお、既にVer.10を所有している場合はライフタイム・アップデートによりVer.11に無償でアップデート可能となります。

パターン・クリップを直感的に再生できる
パフォーマンス・モードの強化


まずはFL Studioを簡単に説明します。最大192kHzのレコーディングが可能なDAWソフトで、VST/DXプラグイン規格に対応。プレイリスト(他のDAWで言うプロジェクト・ウィンドウのような画面)に、MIDIシーケンス、オーディオ、オートメーションなどのクリップを配置して楽曲を構築していくというのが基本的な使い方です。では早速、新機能について見ていきましょう。見た目で変わった点としては、起動時のロゴ・デザインが大きく変更されたこと、プレイリスト左のブラウザーのフォントが大きく太めの書体になり視認性が増したこと、以前のバージョンから“将来的には無くなる”とうたわれていたプレイリストのパターン・ブロック入力エリアが無くなってパターン・クリップの編集のみに集約されたことが挙げられます。このパターン・ブロックが無くなったことは、FLの歴史から考えるととても大きな変更であり、今までパターン・ブロックを使用していた人や、古くからのユーザーはこの点で少し苦労するかもしれません。さらに新機能としては、ABLETON Liveのようにクリップを自在に配置して演奏することができるパフォーマンス・モードの搭載、スクリーンのマルチタッチ・サポート、プレイリストのトラック数の増加(199tr)、ツマミやスライダーのパラメーターの数値入力対応(右クリックで“Type in Value”を選択)、クリップやノート・アイテムをドラッグしたときの水平&垂直ロック機能の追加(ドラッグ時にShift:水平ロック、Ctrl:上下ロック)、そのほか細かな操作性の改善やパフォーマンス向けの新しいMIDIコントローラーのサポートなどが行われています。中でも注目の新機能は、マルチタッチ・スクリーンやMIDIコントローラーを使ってリアルタイムにパターン・クリップを再生できるパフォーマンス・モード(画面①)でしょう。

▲画面① パフォーマンス・モード。Pad#マーカーごとに鳴らしたいクリップを並べておき、リアルタイムに切り替えることで構成を作っていくことができる。クリップはオーディオ/MIDI/オートメーションを問わない ▲画面① パフォーマンス・モード。Pad#マーカーごとに鳴らしたいクリップを並べておき、リアルタイムに切り替えることで構成を作っていくことができる。クリップはオーディオ/MIDI/オートメーションを問わない
これまでのバージョンもライブ・モードという、おまけ程度のパフォーマンス・モードが付いていましたが、このアップデートで大幅にパワー・アップされ本家ABLETONと渡り合えるくらいの仕様になっていると思いました。モードの追加と併せて、後述するように10種類のパフォーマンス向けエフェクトを搭載するシンセ音源GMSや、テンポ同期で12種類の効果をXYパッドでコントロールできるプラグインEffectorなどが追加されたことも含め、今回はパフォーマンス部分に力を入れていることがうかがえます。パフォーマンス・モードの準備もTOOLメニュー>Macros>prepare for performans modeを選択し、プレイリスト内のタイム・マーカー位置に用意されたPad♯1〜Pad♯16と[Startマーカーに、割り当てたいクリップを配置するだけととてもシンプルです。再生ボタンを押してMIDIコントローラーのパッドを押下することで、そのPad♯に割り当てたクリップ群が再生されますので、後はノリノリでパッドを操作してください。再生の設定(ABLETONで言うLaunchの部分)は、プレイリスト左側のトラック・ナンバー部分を右クリックし、Performance Settingから細かく指定できます。レベルやエフェクトのオートメーション・クリップもPad#に割り当てられて大変便利です。このパフォーマンス・モードは演奏内容をシーケンスとして記録することもできるので、直観的なノリとセンスで曲を構築したり、既に完成したプロジェクトをパフォーマンス・モードで一度バラして組み直すような作業にも重宝しそうだと思いました。なお、外部のMIDIコントローラーが無くてもマルチタッチ・スクリーンやMIDIキーボード、パソコンのキーボードでも同じように直感的な操作が可能です。ぜひ試してみてください。 

クラブ用キック音源やシンセを新搭載
プログラム・ツールがRuby対応


続いて、Ver.11から新たに追加されたプラグインを紹介します。●BassDrum従来のFruitKickやDrumaxxよりもクラブ・トラック向きの強力なキック用ジェネレーター。●Effectorライブ・パフォーマンス向けのXYパッド・コントロール型マルチエフェクター。12種類のエフェクトを搭載し、テンポに合わせた効果を簡単にトリガーすることが可能です。●GMS(画面②)3つのオシレーターをレイヤーしたり、モジュレーションで音色が作れるシンセ。芯はそれほど太くはないですが、16ボイスでのデチューンなどイマドキのエグい音から奇麗めなシンセ・リードやパッド、SEまで使いやすいサウンドをプリセットしています。
▲画面② GMS(Groove Machine Synthesizer)は3つのオシレーターを持つシンセサイザー。アナログ・シンセのような分かりやすい作りで、パフォーマンスに向けた10種類のエフェクトをXYパッドにアサインしてかけることが可能 ▲画面② GMS(Groove Machine Synthesizer)は3つのオシレーターを持つシンセサイザー。アナログ・シンセのような分かりやすい作りで、パフォーマンスに向けた10種類のエフェクトをXYパッドにアサインしてかけることが可能
●Patcher画面③)複数のジェネレーター・プラグインやエフェクト・プラグインをパッチングできます。
▲画面③ Patcherの画面。ジェネレーター・プラグイン間のイベント/パラメーター/オーディオの流れをパッチングして、任意のセッティングとして記憶可能。使い方次第でサウンド作りの自由度が広がる ▲画面③ Patcherの画面。ジェネレーター・プラグイン間のイベント/パラメーター/オーディオの流れをパッチングして、任意のセッティングとして記憶可能。使い方次第でサウンド作りの自由度が広がる
●VFX Key Mapperキーボードの入力キーに対して、再生キーのマッピングと再生方法を指定できるツール。Patcherで入力とジェネレーター・プラグインの間に配置して使用します。●VFX Color Mapper1つのチャンネルから複数のジェネレーターの鳴らし分けができるようになるツール。こちらもPatcherで入力とジェネレーター・プラグインの間に配置して使用します。また、既存のプラグインについても幾つかのプラグインがアップデートされました。●FL SynthMaker(FlowStone/画面④)シンセやエフェクト・プラグインを開発できるモジュール型のプログラム・ツール。今回のバージョン・アップで、プログラム言語のRubyがモジュール内で使えるようになりました。
▲画面④ FL SynthMaker(FlowStone)はシンセやエフェクト・プラグインを自作できるモジュール型のプログラム・ツール。今回からRuby言語を使ってプログラムすることもできるようになった ▲画面④ FL SynthMaker(FlowStone)はシンセやエフェクト・プラグインを自作できるモジュール型のプログラム・ツール。今回からRuby言語を使ってプログラムすることもできるようになった
●Newtone2(画面⑤)ボーカルのピッチやリズムの修正ツールNewtoneが“2”になりました。注目機能は、スライスした波形データの各ブロックの長さを編集できるタイム・ワープ。さらにピッチ修正と同時にビブラートが可能になりました。 
▲画面⑤ ピッチ/タイミング修正ツールのNewtone2。画面のオレンジ線のようにビブラートのピッチ・カーブが描けるようになったほか、任意ポイントのタイム・ストレッチが可能なタイム・ワープ編集機能が付いた ▲画面⑤ ピッチ/タイミング修正ツールのNewtone2。画面のオレンジ線のようにビブラートのピッチ・カーブが描けるようになったほか、任意ポイントのタイム・ストレッチが可能なタイム・ワープ編集機能が付いた
最後に内部プロセス面では、ミキサーのリサンプリングの選択肢(併せてレンダリング時のクオリティの選択肢)が増え、より細かな設定ができるようになっています。 僕はFLをとにかく面白いソフトだと思っていまして、今回FL SynthMaker(FlowStone)にRubyが搭載されるなど、音楽制作のためのプラグインやオーディオ信号の制御だけでなく、外部の楽器やその他のハードウェア(例えばロボットなど)まで制御可能となりました。これにより、メディア・アートのような突き抜けた感性を導く道具にもなるし、制御から生まれる新しい音楽(ROLAND TR-909やTB-303のような楽器があったからこそ生まれたような音楽)を生み出すきっかけにもなるんじゃないかと考えています。デッドマウスやMadeonのような最新の音楽を生み出すアーティストが愛用しているほか、ダブステップで有名なスクリームが“ダブステップのBPMが140前後なのは、使用していたシーケンサーFruityLoops(現在のFL)の初期BPMが140だったから”という話もあるように(本当のところは分かりませんが)、FLは新しいモノを生み出すきっかけになる道具の一つだと思います。これまで幾つもシーケンサーを試したけど、何だかしっくり来ないという方は、FLを試してみるとそこに答えがあるかもしれませんよ。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年9月号より)
IMAGE LINE SOFTWARE
FL Studio 11
Signature Bundle:36,750円
▪Windows:Windows XP SP3/Vista/7/8(32/64ビット)、INTEL Pentium 4/AMD Athlon 64 2GHz以上のCPU、1GB以上のRAM、1GB以上のハード・ディスク空き容量、DirecSound/ASIO/ASIO2対応オーディオ・デバイス