Pro Tools|HD Native環境を構築できるThunderbolt対応機

AVIDPro Tools I HD Native Thunderbolt
 AVID Pro Tools|HDシステムをネイティブ環境で動かすHD Nativeに、Thunderbolt経由でコンピューターと接続できる新製品Pro Tools|HD Native Thunderbolt(以下HD Native Thunderbolt)が発売になりました。Pro Toolsファミリーは既にMBoxからHDXまで多岐にわたる選択肢がありますが、その中で本機がどのような役割を果たして行くのか? 実際にセットアップして試してみたいと思います。

HD OmniもしくはHD I/Oの
HDシステム対応I/Oとセットで販売


本製品の解説に入る前にHD Nativeの説明をしておきます。このシステムが登場するまでPro Tools|HDシステムはDSPをベースとしたHD|AccelもしくはHDXのシステムと、CPUをベースとしたPro Tools Software(以前で言うところのLE)で、はっきりとしたすみ分けがありました。しかしHD Nativeが登場したことで、ネイティブ環境(CPUベース)でHDシステムの使用が可能となり、ユーザーの選択肢は増えました。しかしながらHD NativeはPCIeカード経由の接続に限られていたため、PCleカードが挿せるMac/WindowsでないとHDシステムは使用できませんでした。しかし、今回のHD Native Thunderboltの登場により、HDシステムをThunderbolt経由で使用できるようになったため(Windowsは非対応)、APPLE iMacやMacBook Pro、MacBook AirでもHDシステムを使えるようになったというわけです。本機はソフトウェアのPro Tools HD 10とオーディオI/Oのパッケージで販売され、I/OはHD Omni(写真①)とHD I/O(写真②)から選択できるほか、DIGIDESIGN Digi 002/Digi 003/MBox Proユーザーは上記パックよりも安価にアップデートできます。本体は至ってシンプルな構成で、USB2.0の約20倍/FireWire 800の約12倍の最大10Gbpsの転送速度を持つTh
underbolt端子、I/Oに接続するためのDigiLink Mini×2(最大4台のHDインターフェースを接続可能)、AVID Sync HD対応のシリアル端子、ヘッドフォン端子のみ。ここではI/OにHD Omniを用いて、その使用感をレポートしたいと思います。 HDOmni 

▲写真① HD Omniは8イン&8アウト仕様で接続にはDigiLink Miniを採用。マイクプリは2基を搭載し、ビット&レートは最大で24ビット/96kHzに対応する



HDIO 

▲写真② HD I/Oはアナログ/デジタルの入出力によってカスタマイズが可能。8×8×8、16×16 Analog、16×16 Digitalの3タイプがラインナップされている

中域に密度と奥行きのあるサウンド
作業効率が向上する低レイテンシー


今回は筆者所有のAPPLE iMac Mid 2011、2.8GHz INTEL Core i7(Quad)で試しました。セットアップは至って簡単でiMacのThunderbolt端子に本機を接続して、DigiLinkケーブルをHD Omniのプライマリー・ポートに接続するだけ。筆者はPro Tools 10と003を使用していますが、オーソライズされたiLokを使って立ち上げただけで、自動的にPro Tools HD 10が起動しました。では実際に使用していきましょう。まずは筆者がPro Tools 10 Softwareと003で作成したセッションをそのまま立ち上げると、一聴して音質が全然違います。D/A性能の差なのでしょうが、ネイティブ環境と比べてヘッド・ルームに余裕を感じるせいか、硬さが取れて中域に奥行きと密度がある音になります。いつもスタジオで聴く"あの音"に近い印象を持ちました。筆者の場合、ネイティブ環境の自宅で作業してそれをスタジオのPro Tools|HDに流し込むパターンが多いのですが、いつも音の情報量が変わる感じがあったので、用意した音色をEQしてもらったりしていました。そのため、音質の差は体感していたつもりですが、あらためて聴き比べると予想以上でした。やはり実際に完成データに近い音質でモニターできるのは気持ちが良いもので作業効率も上がります。ヘッドフォン端子も試聴しましたが、クリアな音質で若干中〜高域が前に来る印象。HD Omniのヘッドフォン端子と比べると少し派手に聴こえます。特筆すべきなのはやはりレイテンシーの少なさ。ネイティブ環境の場合はプロジェクトが後半になってトラック数が増えると、マシンの負担を考慮して、何かとごまかしながら作業をすることが多いものですが、HD NativeはD/A周りにパワーがあるようで、同じセッションをプレイバック・バッファー状態で聴き比べても、圧倒的にレイテンシーが少ないです。PCIeカードでの接続と、Thunderbolt経由での接続では若干の差はあるのかもしれませんが、それでもThunderboltによる高速データ転送の恩恵は十分に感じられます。例えば自宅でデモを作る際に、歌録り用にインストゥルメンタル・トラックを一度書き出したり、まとめることなくレコーディングできるので、ストレスなく作業できました。ちなみにHD Native Thunderboltに搭載されたFPGAチップにより効率よく信号を処理できるようになっているので、CPUベースのシステムにおいて、これは画期的な変化といえるでしょう。また、単純にHD Softwareを使用できるのも魅力です(HD SoftwareはHDファミリーのバンドルとしてのみ販売)。これによって扱えるオーディオ・トラックやAUX数も格段に増えますし、インストゥルメント・トラックの作成数も128と倍になるほか、サラウンド環境にも標準対応しています(画面①)。個人的にはインプット・モニター・スイッチが付いているだけも大分ありがたく感じます(画面②)。ネイティブ環境だとレコード・スイッチが入ったトラックすべてに対して同じ動作になってしまうので、インプットをモニターしているのか、録音された音を聴いているのか一瞬迷うことが多々あったので、ここが解決できるのはうれしいです。もちろん、その他の設定もHDソフトウェアの方がより細かく設定ができます。一点だけ難点を挙げるとすれば、AAX DSPプラグインが使用できないところでしょうか。とは言え、HD Nativeはあくまでネイティブ環境のため、コンピューター本体のCPU性能に依存するというシステム上、これは仕方のないことかと思います。 thunderbolt2 ▲画面① HDソフトウェアはサラウンド・ミックスにも対応し、バンドルされるプラグインのChannel Stripも5.1chに対応。アウトプットをサラウンドに設定すると、パンニングのつまみは左右に加えて"前後"のバランスも調整できるパッド型になる Thunderbolt1 ▲画面② 画面はHD Omniを使用した際に、低レイテンシー・モニタリング・モードにて、モニター・バスを選択しているところ。このようにモニタリングのルーティングの自由さもHDならではと言える

HD Omniと組み合わせることで
モバイル型のHDシステムも構築可能


今回のテストで使用したHD Omniは24ビット/96kHzに対応し、8イン&8アウトにモニター・コントロール、ADAT、S/P DIF、AES/EBUなどの充実したデジタル入出力を持ちながら、1Uサイズに収められています。それに加えて本機はThunderboltで接続できるので、MacBook ProやMacBook Airなどの対応ノート・パソコンと併用したモバイル的な使い方も想定できるでしょう。さすがにMBox並にとはいきませんが、003などの2Uサイズと比べれば持って出かけられる範囲内です。つまり、今までちょっとした編集をスタジオ外などでするときに、ノート・パソコンでHDシステムを立ち上げて作業できるというのは、かなり驚異的なことだと思います。ただ、HD Omniは長時間使用すると電源ボタンの金属部分がかなり熱くなるので、今後改善があると良いと思いました。ファンの設定も本体で動作を決められるので、モニター・システムと離せるなら常にONでも良いでしょう。


以前であればPro Tools|HDと言うと、最低でも数百万円というイメージが強く、個人所有には厳しい印象でした。近年価格帯が下がったとは言え、Mac Proと合わせてシステムを購入すると結構な値段になるので、買い替えの度にシステム選択に頭を悩ませるものでした。しかしながら、HD Native Thunderboltの登場によって、さらに簡易なシステムでPro Tools|HDをネイティブ環境で稼働できることになったわけです。これにはいよいよDAW環境もここまで進化したのかと、ある種の感動を覚えました。Thunderboltを搭載したiMacやAPPLEのノート・パソコンを持っていれば、コンピューターを新調する必要もありませんし、既にAVIDのオーディオI/Oを使用していればさらに安価になるとあって、誰にでも手が届くHDシステムになりました。可搬性やコンパクトさを重視するならH
D Omniセット、I/Oのチャンネル数を優先する場合はHD I/Oセットという具合に選択するとよいと思います。ある種、これまでPro Tools|HDシステムという言葉が持っていた壁が、HD Native Thunderboltの登場で一気に取り払われた......そんな気になってしまう製品です。 rear ▲リア・パネルは左からDCアダプター・イン(12V)、DigiLink Mini×2、Sync HD対応のシリアル端子、USBサウンド&レコーディング・マガジン 2012年12月号より)
AVID
Pro Tools I HD Native Thunderbolt
+HD Ommi/459,900円 +HD I/O/551,250円
●外形寸法/180(W)×38(H)×122(D)mm ●重量/848g(実測値)

▪Mac/Thunderbolt搭載のコンピューター、Ma c OS X 10.7以降(32ビットまたは64ビット)、IN TEL Core 2 Duo 2.33GHz以上、8GB以上のRAMを推奨、NVIDIA Quadro FXファミリーのグラフィック・カード(FX 560以上を推奨)80GB以上の空き容量で7,200rpm以上のハード・ディスク、iLok認証用USBポートここにテキストが入ります