ニアフィールド設計のドイツ産2ウェイ同軸パワード・スピーカー

KS DIGITALC5-Coax
ドイツで10年以上にわたって高品質なスタジオ・モニターを開発/生産しているKS DIGITAL。日本ではまだ目新しいメーカーですが、今回リリースされたC5-Coaxは、サイズは自宅録音~スタジオのニアフィールド・クラスで、さらに筆者が普段使用しているMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906と同じ2ウェイ・パワードで同軸方式を採用していると聞き、大変興味がわきました。早速レビューしていきましょう。

FIRTEC/DMC/NeXTテクノロジーなど
独自の機能を内包した設計


C5-Coaxは、200(W)×200(H)mmの正方形のフロント・フェイスで、RL906より一回り大きく、なかなか貫禄(かんろく)があります。重さは1本8.4kgで、カーボンファイバーのウーファーとネオジム・ツィーターがなかなか格好良くて(見た目も大事)、ワクワク感をそそります。このC5-Coaxには、同社のデジタル信号処理に関する特許技術が生かされているそうです。具体的にはFIRTECという独自のFIRフィルターを内蔵しており、資料によると"5msのアナログの信号遅延を利用することで、あらかじめシステムのパルス応答が数学的に均一化されて音楽信号が正しく再生され、音の大きさと位相周波数特性が線形化される"とのこと。また、膜の振動を調整して低域のインパルスを補正するDMCテクノロジーや、スピーカーからリスナーまでの音響伝搬を向上させるNeXTテクノロジーも反映されているそうです。リア・パネルの接続端子は、XLR入力と電源だけとシンプル。ノブ類はボリュームに加えて、低域/高域の調節用がそれぞれ付いていますが、後者の2つは出荷時に調整してあり、基本的にシールで封印されています(もちろん任意に調節可能)。電源を入れると、フロントの青いLEDが点灯。アンプ出力は70W+170Wで、ボリューム最大で鳴らせば小規模なスタジオ環境なら十分なパワーが得られるでしょう。しかもスタンバイ時のノイズも無く、至って静かです。

深みのある低域が気持ち良く
中域の密度感も非常に高い


それでは、いろんなジャンルの音源をDAW上から再生してチェックしていきます。トータルのイメージを先に書くと、同軸の特徴を生かした位相の良さが耳に訴えかけてくる感じで、とても好印象なサウンドでした。そして、ものすごく"気持ちの良い音"がします。気持ち良さの原因はきっと低域の質感によるもので、全体のバランスを包み込むような、独特の深みのある低音の鳴り方がこのスピーカーの特徴だと感じました。もちろん、モニター・スピーカーとしての正確さをクリアした上で、気持ち良さを演出している点も特徴と言えるでしょう。それぞれのソースごとの印象も書いていくと、アコースティック楽器中心のトラックでは、演奏者の指の動きや空気感まで感じられるような、立体的な音像が展開されます。左右にパンされた楽器も奥行きや上下の位置まで見える感じです。ピアノ・オンリーの曲では、ピアノ自体の胴鳴りもしっかり聴こえてきて、中低域の再現力に驚かされます。ハイクオリティなソースであればあるほど持ち味を伝えてくれる感じでした。ミックスで使用するときのことを考えると、このスピーカーのバランスに慣れる必要はあると思いますが、他のモニター・スピーカーと切り替えながら作業していけば割とすぐにサウンドがつかめそうな雰囲気でした。低域/高域の調整ノブに加え、別途インシュレーターなどで音質調整をすることで、より好みの音に近付けていけそうです。打ち込み系の音楽でも位相の良さは健在で、楽器の配置も奇麗に再現されます。ハウス系のキックの入った音源では、安定した低音にほかの音が乗っかって素直に高域まで伸びていく感じ。とても気持ちが良いと同時に、低域が充実したスピーカーにありがちな中域の物足りなさも無く、とても密度の高い音がしました。さらにサウンドトラック系の音源を聴いてみて分かったのは、このスピーカーが持っている気持ち良さは、サラウンド環境で聴いているときの感覚に近いということでした。映画館で聴くような量感のある低域の再生は、普通のスタジオ・モニターではなかなか難しいですが、このスピーカーではそれがうまく再現されています。 121112-ksd-1 ▲リア・パネル。入力端子はXLRのみで、右上にはゲイン/高域/低域の調整ノブをそれぞれ用意。その下にはバスレフ・ポートもレイアウトされている


ドンシャリなサウンドにならずに、こういった雰囲気のあるモニターを求めているユーザーも多いと思います(筆者もそう)。そうした方たちにぜひ一度試聴してもらいたい製品です。(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年3月号より)
KS DIGITAL
C5-Coax
オープン・プライス (市場予想価格/ 180,000円前後/ペア)
●周波数特性/68Hz~28kHz(±3dB) ●構成/1.45インチ・ネオジム・ツィーター+6.5インチ・カーボンファイバー・コーン ●クロスオーバー/2.5kHz ●出力パワー/70W+170W ●最大SPL/104dB ●外形寸法/200(W)×200(H)×230(D)mm ●重量/8.4kg(1本)