高域は繊細で無理がなく
バランスの良い高解像度サウンド
まず概要から。ウーファーとツィーターからなる2ウェイ・タイプのパワード・スピーカーになります。大きさはおよそ平均的な小型パワード・スピーカーのサイズ。重さは4kg強と比較的軽く、持ち運びは楽だと思います。パワーは60W(HF:30W/LF:30W)なので、プロ・スタジオでは少し小さいかもしれませんが、自宅使用では問題ないでしょう。特徴としては、先述の通りリボン・ツィーターが搭載されています。ウーファーにはB&W製品でも有名なケブラー・コーンが採用されており、定評のある素材を使用した構成となっています。リア・パネルを見てみると、インプットはバランス(XLR/+4dB)とアンバランス(フォーン/−10dB)の両方に対応。ボリューム・ノブも付いており、環境に適したボリューム設定ができます。電源は3芯タイプなので、電源ケーブルを交換して使用することも可能です。まずはリボン・ツィーターの実力を計るべく、アコースティックなピアノ・トリオから試聴してみました。解像度が高く、バランスの良いサウンドです。高音は繊細で無理のない感じで、確かにリボン・ツィーターの音というか、やはりADAMのスピーカーで聴ける印象に似ています。同時にローエンドまでバランス良く出ており、アコースティック・ベースがしっかりした音で再生されたのには驚きました。レンジ感も、本機より価格の高いスピーカーと比べて遜色ありません。続けてロック・バンドと打ち込みのポップスを試聴してみました。こちらも部屋の響きや奥行きをしっかり表現してくれるので、特にロック・バンドものは、聴いていて演奏する姿が見えるような楽しい感じがします。打ち込みの曲もキックの低音をしっかり再生してくれるので、音色のチェックをする場合に、低音がどれだけ入っているかを判断するのにも使えるでしょう。ボーカルは、これもリボンの特徴だと思いますが、高音がひずまず滑らかに再生されます。ミックスでEQを施していく上ではかなり助かるところだと思います。もしかしたら"センターに位置する楽器が前に出る感じが無い"という意見もあるかもしれませんが、僕としてはこのくらいが逆にフラットなのではないかという感触でした。
ミックスの問題点を発見しやすい特性
NS-10Mのような感覚で使える
次にAVID Pro Toolsのセッションを開いてミックスを行ってみました。やってみて思ったのは、"相当フラットで正確"だということです。低音のパワー感が少し弱いので、ミックスの土台となる音作りの際に少し迷うところがありますが、そこは別のモニターやヘッドフォンなどを併用してうまく役割分担すればよいのではないかと思います。特筆すべきは、"パワーありき"の鳴り方をしないので、小音量でも音のバランスが非常に良いこと。逆に音をパワフルに聴かせる感じはないので、どちらかというとミックスを冷静に聴いてバランスを取るのに向いているでしょう。クオリティの高いミックスを作るには、"ミックスの問題点を発見しやすいモニター" がとても重要です。YAMAHA NS-10Mがいまだにスタンダードの地位をキープし続けているのも、そうしたキャラクターによるところが大きいと思いますが、本機も同様の使い方ができると思います。ただ、本機はリアにバスレフ・ポートがあるタイプなので、プライベート・スタジオで壁に近づけてセッティングする際には注意が必要です。
ざっと音を聴いてきましたが、これがおよそ5万円クラスのモニター・スピーカーかと思うと驚きです。プライベート・スタジオにあまり大きなスピーカーを置いても、低音が出過ぎて逆効果ということも多いかと思います。そうした部屋はプロ・スタジオのようにしっかり設計されていないので、部屋鳴りの影響を受けずにフラットなモニター環境を作ることはなかなか難しいのですが、このスピーカーは小音量時のバランスやレンジの広さを考えても、そうした環境での使用に適しているのは間違いありません。もし初めて自宅作業用のモニター・スピーカーを選ぶのであれば、低音や高音が誇張されて出るタイプより、こうしたフラットな特性のスピーカーから始めてみることを、ぜひお勧めします。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)