「LYNX STUDIO TECHNOLOGY Hilo」製品レビュー:タッチ・パネルを採用したAD/DAコンバーター&モニター・システム

LYNX STUDIO TECHNOLOGYHilo
 最近はレコーダーとしてAVID Pro ToolsをはじめとするDAW、ミックス・マスターを録音する際のフォーマットとしてもほぼ完全にデジタル・ファイルが主流になりました。デジタル録音においては当然アナログ信号をデジタルに変換する(またその逆)必要がありますが、この部分のクオリティが勝負を分けるといっても過言ではありません。また、自宅作業ではコンピューター内部でミックスされた音をスピーカーやヘッドフォンでモニターしながら行うわけですが、良いインターフェースを買っても、さらにモニター・システムに投資する必要があったりと、"どうせなら全部一緒になってくれればいいのに"とは誰もが思うところでしょう。そんな時代に合わせ、Auroraシリーズなど高品質なコンバーターで知られ、プロの間でも愛用者の多いLYNX STUDIO TECHNOLOGYから、AD/DAコンバーター、モニター・システム、ヘッドフォン・アンプを一体化したHiloが発売されました。

LCDタッチ・パネルを装備
USBでコンピューターと直接接続が可能


まず簡単に概要を見ていきます。基本操作はボリュームをノブで触る以外は、すべてフロント・パネルのLCDタッチ・パネルで行います。スクリーンは操作メニュー以外にレベル・メーターにもなり、デジタル/アナログVUメーター(風)を選んで表示できます。リア・パネルには豊富な端子が搭載されています。アナログは2chのXLR入出力端子と別系統のモニター出力、デジタルはAES/EBU、S/P DIF、ADAT入出力。またワード・クロック入出力に加えUSB端子も備えているので、そのままコンピューター(Mac/Windows)に接続してUSBオーディオI/Oとしても使えます。レベル調整は業務用/民生用それぞれ4種類ずつのプリセットが用意されており、上ぶたを開ければさらに細かい調整も可能。サンプル・レートは192kHzまで対応しています。入出力のルーティングは内部で自由に組むことができ、端子を選んでON/OFFを設定するだけと非常にシンプル。また楽器録音にも対応できるよう内部ミックス機能が搭載されており、入力/再生信号のバランス、さらにほかの入力信号も自由にミックスしてモニターできます。各種設定はセーブしていつでもリコール可能。基本的な機能は以上ですが、ソフトウェアは随時アップデートが予定されているようです。

クッキリとした低域が力強い出音
解像度もトップ・クラス


まずADコンバーターから試聴していきます。手元にあるLAVRY ENGINEERING AD122-96 MKIIIやUNIVERSAL AUDIO 2192と比較してみましたが、音の解像度はトップ・クラス。ワイド・レンジで音抜けのよい感じは3機種の中で一番かもしれません。バランス的にはAVID 192 I/Oに比較的近いですが、解像度ではHiloが勝ります。高域はしっかり伸びていますが硬い印象はなく、むしろ滑らかに感じます。全体的に音がハッキリしていて低音が力強く出るので、打ち込みのR&Bなどメリハリが必要とされる音楽には特に合うのではないでしょうか。低音はより下、高音はより上にレンジが広がるので、別のコンバーターからスイッチすると少し重心が変わりますが、最初からHiloでモニターしていれば問題にならないでしょう。DAコンバーターも基本的には同じ音質傾向で、十分高品質だと思います。次にクロック・マスターとして使用してみました。これもかなり好印象で、僕はいろいろ試した結果、現在は2192をクロック・マスターに採用しているのですが、これと同等かもっと好印象かもしれません。音像はクッキリしていますが滑らかで、バランスも申し分ないです。最後にモニター・システムとしての音質と使い勝手を試してみました。まずヘッドフォン・アウトですが、中域のひずみが少ないので聴きやすく、SONY MDR-CD900STでも耳が疲れず、解像度も十分です。ただAD/DAコンバーターと比べるとやや低域が少ない印象なので、ローがある程度しっかり出るヘッドフォンとの相性が良いでしょう。今回試した中では、SONY MDR-Z1000がなかなか好相性でした。同様にモニター出力も少し低域がすっきりしているので、組み合わせるスピーカーは低域が出るタイプが良いと思います。操作はすべてタッチ・パネルの指示に従って音量を上げ下げするだけなので、とても使いやすいです。ざっと機能をチェックしましたが、何よりもまず音質が素晴らしいと思いました。プロ・エンジニアでもベストの選択肢の一つになり得ると思いますし、実際海外の有名エンジニアが導入したという話も聞きます。それでいて、これ一台とDAWがあれば作業できてしまうという便利さですから、エンジニアにもクリエイターにも、かなり魅力的な製品と言えるのではないでしょうか。 1600-HiloUSB_detail1.jpg ▲リア・パネル。左上よりUSB2.0端子、その下がライン入力L/R(XLR)、ライン出力L/R(XLR)、モニター出力L/R(TRSフォーン)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、S/P DIF&ADAT入出力(オプティカル)、AES/EBU入出力(XLR)、ワード・クロック入出力(BNC)、バッテリー用接続端子サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
LYNX STUDIO TECHNOLOGY
Hilo
オープン・プライス (市場予想価格/ 252,000円前後)
ライン入力A/D ●全高調波歪率/−114dB@1kHz ●ダイナミック・レンジ/121dB(A-weighted、−60dBFSシグナル・メソッド) ●周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.01dB) ●クロストーク/最大−140dB@1kHz ライン出力D/A ●全高調波歪率/−109dB@1kHz ●ダイナミック・レンジ/121dB(A-weighted、−60dBFSシグナル・メソッド) ●周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.02dB) ●クロストーク/最大−135dB@1kHz その他 ●外形寸法/215(W)×94(H)×255(D)mm ●重量/約3kg(実測値)