API 500と互換性を持つギター系モジュール4種と多機能フレーム

RADIALWorkhorse & 500 Series
RADIALと言えば、我々エンジニアの間でもなじみの深いメーカーである。その音質はとてもクリーンに原音を伝えるという印象が強く、現場でも特に信頼性の高いメーカーのひとつ。そんな同社からAPI 500互換モジュール4種とフレームが発売されたので紹介しよう。

他のAPI 500系フレームとは一線を画す
ミキサー機能を搭載したWorkhorse


ずWorkhorseはAPI 500シリーズ互換のモジュール用フレームで、RADIAL以外の製品でもメーカーの垣根を越えて8台までマウントすることが可能だ。また各チャンネルに搭載された"FEED""LINK""OMNIPORT"機能(後述)、そして8chすべてをこのラックでモニタリング&サミングできてしまうミキサー機能が内蔵されることにより、いわゆるLunchBoxなどのこれまでのフレームとは一線を画した作り。"FEED"はケーブル配線することなく右隣へ信号を直列に接続するスイッチで、後述する各モジュールとの組み合わせでユーザー独自のシステムを構築可能。また、このWorkhorseは、各チャンネルにフォーン/XLRそれぞれの入出力のほかに"OMNIPORT"を持ち、これは各モジュールによって機能が変化するという"第3の入出力"ともいうべきとてもユニークなもの。そして"LINK"は隣り合わせるモジュールとステレオ・リンクが可能だ。モジュールの取り外しは簡単だが、さまざな規格のモジュールに対応するために内部は少し余裕を持たせているようで、ガイドレールはあるものの基板を挿し込むときには若干手探りになる。今回はDIのJDX 500→マイクプリのPower Pre 500→エフェクト接続用モジュールのEXTC 500→リアンプ用モジュールのX-Amp 500とマウント。nothing ever lastsのギタリスト、Kohに協力をお願いして、順に検証していこう。

ギター・スピーカー接続可能なJDX 500
3種の音色選択可能なPower Pre 500


JDX 500のフロント・パネルには"DI-BOX"と書かれているが、通常のDIとは大きく異なる性質を持つ。まず特筆すべきはギター・アンプのスピーカー・アウトを接続できるところ。入力の切り替えもギター・モード(横のLEDが点滅)とアンプ・モード(LED消灯)があり、出力の大きなアンプには100/300Wの切り替えで対応できる。通常のDIとのもうひとつ大きな違いは、4×12スピーカー・シミュレーターを搭載し、いわゆる"ペラペラなライン音"ではなく空気感のある音が出力される点。しかし、ギターを直接GUITAR INPUTに挿した場合、高域が抜けないサウンドになり、コンパクト・エフェクターを挟んだ方が良好なサウンドが得られた。一番有効な使い方と感じたのはアンプ・ヘッドとキャビの間に本機を接続する方法だ。これはスタジオ録音に加えライブ録音でも効力を発揮する使い方で、キャビネットだけではどうしても前へ出てこない音に本機からの出力(アンプ・ヘッドのダイレクト音)をミックスすることで、"奥まらないしっかりとした骨格の音"を作り出せる。ただ、入出力のレベル調整ができないので、アンプからの出音が小さい場合には別のマイクプリをその後に挟む必要がある。本機の位相反転スイッチやキャビからマイクまでの距離を調整し、両者の位相を合わせるとよいだろう。続いてはPower Pre 500。ゲインが+55dBとなっているのでさまざまなタイプのマイクに対応でき、音質も上級マイクプリに迫るパフォーマンス。+48Vファンタム電源にも対応しているのでコンデンサー・マイクも問題無くそのまま接続できる。また−15dBのPAD、位相反転、ハイパス・フィルターに加え、以下の3タイプの音色セレクターを搭載し、これがとても有効である。●BREATH/高域のエッジが立ちボーカルやギター・カッティングなどの抜けがとても良くなる(BRENT AVERIL Classic Neve 3405系)
●LINEAR/3タイプの中間に位置し、原音に忠実な印象(AVALON DESIGN AD2022系)
●PUNCH/パワフルな低音がややコンプがかかったような感じで付加され、その名の通りパンチの効いた音になる(NEVE 1073系)また、先に紹介したOMNIPORTがHi-Z対応のDIとして機能するため、ギターやベースなどの楽器をそのまま接続できる。この場合にも音色セレクターが生きるので、まるでマイクプリをセレクトするような感覚で使える。

マイクにエフェクトを使えるEXTC 500
X-Ampはリアンプを簡潔に


さて、ここからが本シリーズの真骨頂。EXTC 500をPower Pre 500の右に並べFEEDスイッチをオンにすれば、Power Pre 500で入力した音源にコンパクト・エフェクターをかけることができる。つまり、マイクは直接エフェクターと結線することはできないが、本機があれば自由に手持ちのエフェクターを使えるというわけだ。また、既に録音された音源を本機からセンド/リターンできるので、文字通り"プラグイン"としてコンパクト・エフェクターを使用することができる。実際にワウやディストーションをボーカル・トラックにインサートしてみたが、ドライ/ウェットのバランスやSEND/RECEIVEも調整できレベル的にも音質的にも全く問題無い。これはなかなか新鮮な感覚だ。さらにOMNI INSERTスイッチを押すことでOMNIPORTからスタジオ・エフェクトをインサートできるので、十分ミックスの幅を広げることにもなり得るだろう。さらにX-Amp 500もつないでみよう。フロント・パネルに書かれた"REAMP(リアンプ)"とは録音されたギターなどを再びアンプに送りキャビを鳴らすこと。この利点は楽曲が仕上がった後にもう一度ギターのひずみ具合や音質を調整できるところだ。本機には、レベル可変の出力が2系統用意されるので、2台の異なるアンプを同時に鳴らすこともできる。音質的にも素晴らしく、直接つないだときとほぼ変わりない音質だ。そして本機のOMNIPORTにもギターなどを直接接続できるので、2台のアンプに分岐するスプリッターとして使用可能だ。ただ"素の音"を録音するのならばX-Ampからの出力レベルが小さいため、プリアンプが必要になる。もしPower Pre 500がある場合には、そちらに楽器を差しFEEDしてアンプに送った方が出音も良かった。最後にWorkhorseのミキサー機能にも触れていこう。各チャンネルごとにパン、ボリューム、オン/オフ・スイッチがあることと、メイン・アウト、モニター・アウト、ヘッドフォン・アウトにもボリュームとオン/オフ・スイッチがありとても機能的。音質もモジュールからの直接の出力音とメイン・アウト音とを聴き比べだが、ほとんど色付けが無く聴き分けがつかないほどナチュラル。ヘッドフォン・アウトの出力も十分で、全体的にアナログ機器のウォームな音質を感じ取ることができた。 今回見ていった本シリーズのような柔軟性の高い機器に触れるたびに思うことは、"アナログ的発想が必要"ということ。どうつなげば自分流の音が作れるといった試行錯誤を繰り返し、"使い倒す"ことが最も重要なことだ。 201109_Workhorse_500Series_01.jpg▲Workhorseのリア・パネル。左上からMAIN OUT L/R(フォーン/XLR)、INSERT L/R(フォーン)、MON OUT L/R(フォーン/XLR)、EXPANSION BUSS IN L/R(フォーン)、EXPANSION BUSS OUT L/R(フォーン)。右側はモジュール用スロット。1スロットの内訳はINPUT(フォーン/XLR)、OUTPUT(フォーン/XLR)、OMNIPORT(フォーン)、FEEDスイッチ(隣り合うモジュールを直列接続可能)。奇数番号のスロットにはLINKスイッチを装備(隣り合うモジュールとステレオ・リンク可能)。下部にはSUMMING MIXER INPUTS1〜8(D-Sub)、DIRECT OUT1〜8(D-Sub)、INPUTS1〜8(D-Sub)を実装
RADIAL
Workhorse & 500 Series
Workhorse:オープン・プライス(市場予想価格/165,000円前後) / JDX 500:オープン・プライス (市場予想価格/35,000円前後) / Power Pre 500:オープン・プライス (市場予想価格/58,000円前後) / EXTC 500:オープン・プライス (市場予想価格/29,800円前後) / X-Amp 500:オープン・プライス (市場予想価格/29,800円前後)
●500 Series共通▪外形寸法/38(W)×132(H)×147(D)mm▪重量/783g●Workhorse▪外形寸法/483(W)×134(H)×189(D)mm▪重量/10kg