
必要な機能をコンパクトに搭載
ボーカル収音はクリアで芯のある音に
まずルックスはAPI 500シリーズにマッチするブラック・へアライン仕上げの高級感があるデザインです。フロント・パネルには、視認性に優れたパイロット・ランプ付きの15dBのPAD、Pol Flip(位相反転)、ファンタム電源スイッチ(+48V)、リボン・マイク用+10dBゲイン・アップ、80Hz以下をロールオフするハイパス・フィルター、ベースやギターなどのハイインピーダンス・ソースをダイレクトに接続できるHi-Zインストゥルメント・インプット切り替えの各スイッチと、ゲイン・コントロール用のノブ、Hi-Zインストゥルメント用のインプットがシンプルに配置されています。さらに、地味ですが意外に便利なのは、グリーンとレッドのランプが点灯するピーク・インジケーター。こちらも見やすい位置に配置されています。必要最小限にしてマイクプリにとって十分な機能がコンパクトなボディに入っているこの機材は、録音の現場をよく理解したエンジニアが設計していることが分かります。では実際に音をチェックしていきましょう。まずはSENNHEISER MD431でボーカルを収音してのチェックです。MD431はダイナミック・マイクなのでかなりゲインを上げたのですが、ほとんどノイズは感じられず、S/Nの良さがうかがえます。音の印象は透明度が高く、クリアな印象。声の倍音成分も十分に拾っています。そして何よりも素晴らしいのは、音の芯をとらえていること。やはりこのクラスの機材はさすがに違いますね。安価な機材とは別世界のサウンドを与えてくれます。クリエイターに音を作る喜びを与えてくれることは大変重要で、音からインスパイアされたフレーズも導き出してくれることと思います。芯をちゃんととらえている音はEQの乗りも良いので、後処理も楽です。
アコギのブラッシングは気持ち良く
ドラムはクリアで力強く収音
次にギターでのチェックです。音の印象はボーカル収音のときと変わらず、クリアなサウンドです。アコギ・サウンドの心地良さの要素の一つに、ブラッシングの音があると思いますが、クリアでジャキジャキした、クリスピーなブラッシング・サウンドを気持ち良く拾ってくれます。NEVE 1073と比べると若干腰高でハイ寄りなサウンドですが、決してイヤな硬さは無く、気持ち良くハイが伸びている印象です。1073などは中低域をカットしてサウンドを整えますが、本機ではその辺りの周波数をカットしなくても使える音です。最後はドラムでのチェック。まずはスネアを通しました。クリアで力強く、音がまとまりやすい印象で、明るいロック系のサウンドには特に向いていると思います。続いてキックを通してみると、ここでは腰高な傾向が若干低域不足な感じを生み、EQでローエンドを伸ばしたくなります。しかしこれも一概にデメリットというわけではなく、少しブーミーなフロア・タムなどにはかえって良い結果が得られる場合もあると思います。また、本機の特徴の一つに、リボン・マイク用の+10dBゲインアップ・スイッチがありますが、これもよくできていて、リボン・マイクや低出力のダイナミック・マイクを使う際にとても重宝します。S/Nが良いのもいいですし、感心させられたポイントは、このスイッチをONにすると、ファンタムが切れるという点です。リボン・マイクは構造上、ファンタム電源をかけてしまうと壊れてしまうのですが、このスイッチを押していると、誤ってファンタム・スイッチを押してしまっても、ファンタム電源が入らず、ミスを未然に防いでくれます。簡単なことのようですが、レコーディングの現場を知っているエンジニアが設計した機材じゃないとこういう機能は搭載されません。このように、各機能だけを見ても、本機が優れたレコーディング機材だということがうかがえると思います。本物の機材をお探しの方には、ぜひお薦めしたい機材ですね。