録音や楽器練習向けの3モードをシームレスに使えるコンパクトMTR

BOSSMicro BR BR-80
手の平サイズのコンパクトMTRにステレオ・コンデンサー・マイクやアンプ・シミュレーター、マルチエフェクト、リズム・マシン、そしてオーディオI/Oなどが搭載されたMicro BR BR-80。"単三電池2本で動くポータブル・ワークステーション"とも言える本機は、使う人のアイディア次第で無限大の可能性を秘めています。

MTR部は同時に8tr再生/2tr録音
伴奏と合わせた楽器練習に便利なeBand


文庫本よりも少し小さいくらいのMicro BR BR-80。最初は"コンデンサー・マイク&リズム・マシン付き8tr MTR"というだけに見えましたが、エフェクトの完成度がすこぶる高かったり、USBオーディオI/Oとしても動作するなど、いざ使ってみると何しろ多機能。入出力はギター/マイク・イン(フォーン)×1やライン・イン(ステレオ・ミニ)×1、ライン・アウト(ステレオ・ミニ)×1、USB端子と、小型ボディに過不足無くそろっています。本機では、豊富な機能を"MTR""eBand""LIVE REC"という3つのモード間でシームレスに使用できます。まずは各モードに、どのような機能が搭載されているのか見ていきましょう。●MTRモード
本機の心臓部であるMTRに搭載された8つのオーディオ・トラックには、それぞれ8つのVトラック(仮想トラック)を用意。最大8trの同時再生に対応し、2trまで同時に録音可能です。内蔵ミキサーにはボリューム・フェーダー、ミュート/ソロ・スイッチ、3バンドEQなどを搭載。ディスプレイ内で各セクションを簡単に切り替えられます(画面①〜⑥)。一方、オーディオ・トラックから独立した1系統のステレオ・トラックで扱えるリズム・マシンには、9種類のドラム・キットやキットを替えて鳴らせるリズム・パターンを用意。本機でパターンをプログラミングすることはできませんが、DAWソフトなどで打ち込んだMIDIデータをUSBから取り込んで再生することが可能です。
そして特筆すべきは、ROLAND独自のモデリング技術"COSM"が採用されたアンプ・シミュレーター/エフェクト。BOSS GT-10やVE-20クラスのエフェクトが手軽に楽しめます。201107_Micro-BR-BR-80_01.jpg

▲画面① MTRモードのピーク・メーター・セクション。入出力や各トラックのピーク、BPMなどが表示される


 201107_Micro-BR-BR-80_02.jpg

▲画面② レベル・セクションでは、ディスプレイ内のボリューム・フェーダーで各トラックの音量を設定可能だ


 201107_Micro-BR-BR-80_03.jpg

▲画面③ ミュート/ソロ・スイッチは、任意のトラックのみを聴きたい場合やミュートしたいときに有効


 201107_Micro-BR-BR-80_04.jpg

▲画面④ 3バンドEQを使えば、ロー/ミッド/ハイを±20dBで調整できる


 201107_Micro-BR-BR-80_05.jpg

▲画面⑤ 内蔵エフェクトとは別途用意されたリバーブは、ミックス時に入出力と各トラックへかけることができる


 201107_Micro-BR-BR-80_06.jpg

▲画面⑥ 各トラックには仮想トラックが8tr用意される。あるテイクを残したまま、別のテイクを同じトラックに録れる


 ●eBandモード
本機には楽曲管理ソフトのEBand Song List Editorが同梱されています。これを使うことで、CDなどからパソコンに取り込んだ音楽データをUSB経由で本機に転送可能。eBandモードではこういった外部からの音楽データをはじめ、全400種類のプリセット・バッキング・パターンや内蔵MTRで仕上げた楽曲などに合わせて、ボーカルやギターの練習/録音が可能です。●Live Recモード
トップ・パネルに配置されたステレオ・コンデンサー・マイクを使って、ICレコーダー感覚の録音が行えるモードです。ファイル・フォーマットはWAV/MP3の2種類。録ったデータはそのまま本機のMTRにインポート可能です。●USBオーディオI/O
本機とパソコンをUSB接続することで、パソコンへのバック・アップやDAWソフトなどとWAVのインポート/エクスポートを行うことができます。

多彩なギター/ボーカル用エフェクトは
オリジナル・パッチに編集できる


それでは実際に、本機で曲を作っていきたいと思います。まずはモードをLive Recに設定。電源スイッチを押していくことで、3種類のモードを切り替えられます。なお同スイッチを長押しすると、電源のON/OFFが可能です。次にRECボタンを押して、本機を録音待機状態にします。それからアコギで曲のアイディアを幾つか弾きつつ、本体の右側面に備えられた入力ゲイン・ノブを使って録音レベルを調整。ディスプレイ内のピーク・メーターが大きく表示されているため非常に見やすく、コントロールも容易です。今回作っていく曲のアイディアが固まったところで、トップ・パネル左側のRHYTHMボタンを押してクリックを呼び出し、テンポを130BPMに設定。PLAYボタンを押して録音を開始します。録り音は実にコンデンサー・マイクらしい繊細かつツヤのある音質で、伸びやかな高域とバランスに富んだステレオ感が特徴です。後日スタジオに持ち込んで、バンドのリハーサルを一通り録音してきましたが、こちらもやはり音域/定位共にバランスの良い録り音となっています。ここでMTRモードに切り替え、本格的に曲を構築していきます。まずは先ほど録ったアコギをtr1/2にステレオでインポートしましょう。トップ・パネル左側のMENUボタンでトラック・エディット・セクション内のインポート機能にアクセスし、対象となるMTRのトラックを選択。インポートを実行します。次にリズム・マシンを呼び出し、ドラム・キットから好みのものをセレクト。今回は"808"というキットを選択しました。それからテンポを130BPMに設定し、パターンを選びます。次にギター/マイク・インにエレキギターを接続。まずはtr3にベースのフレーズを録音しようと、トップ・パネル左側の"COSM"ボタンを押してエフェクト・パッチをロード。ギター・サウンドをベースの音色に変換できるエフェクトを収めた"GUITAR TO BASS"カテゴリーから、"DRIVE BASS"というプリセットを選びます。ジャンクなフレーズを気持ち良くひずんだ音色で録音できました。なお、本機の内蔵エフェクトはモノラル1系統のかけ録りのみに対応。ミックス時には、別途用意されたリバーブを各トラックにかけられます。ここでエレキギターのバッキングが欲しくなったので、エフェクト・パッチの"LIVERPOOL"カテゴリーから"VO CRUNCH"をセレクト。tr4に録音します。カテゴリー名から来るイメージ通り、UK風のクランチ・サウンドを簡単に得ることができました。ギター用のアンプ・シミュレーター/エフェクト・カテゴリーだけでも全15種類が用意され("PUNK"から"JAZZ""West Coast"まで!)、さらにそのカテゴリー内で幾つもの設定がプリセットされているので、欲しい音にすぐさまたどり着けます。また、モデリング・アンプやエフェクトなどの各パラメーターを調整することで、さらにイメージに近い音色を作り、それをユーザー・パッチに保存しておくことも可能。このエフェクトひとつを取っても、ギタリストにはうれしい装備です。そして、最後にギターをマイクに替えてtr5にボーカルを録音します。ギターとマイクの入力端子は同じわけですが、底面のスイッチで簡単にインピーダンスを切り替えられます。次に、ボーカル・エフェクト・カテゴリーから、"DOUBLE VOICE"というプリセットをチョイス。歌声が自然にダブリングされます。今回、ボーカル・エフェクトのプリセットをいろいろ試しましたが、ハモやダブルだけでもバラエティ豊かで、原音の質感を残しながらも多彩な表情が作れるものばかりです。

高品位なマスタリング・エフェクトを搭載
仕上げた曲はeBandモードに呼び出せる


いよいよ楽曲の仕上げに入ります。ボリューム・フェーダーやパンなどを使い、これら5tr+リズム・トラックをミックス。本機にはマスタリング用のエフェクトも多数用意されております。今回はアコギのダイナミクスを生かすため、マスタリング用のプリセット・エフェクト"ACOUSTIC"をかけてみます。その仕上がりはDAWソフトで作ったものと遜色(そんしょく)の無い高い完成度です。しかしMicro BR BR-80がすごいのはここから。eBandモードにスイッチすると、本機に記録された楽曲のリストから、先ほどマスタリングした曲のWAVを呼び出せるのです! この曲を再生しながらギターなどの演奏/プレイ内容の録音が可能です。センターに定位した音のボリュームを下げられるセンター・キャンセル機能も有用ですが、僕にとっては楽曲のキーを自分の歌声や楽器演奏しやすい調性に設定できるピッチ・シフト機能がより便利に感じられます。またスピード・チェンジ機能は、録音を済ませた曲のテンポを調整/最終決定したいときなどに役立ちそうです。さて、いったん電源を切ってからUSBケーブルで Macと接続。その後EBand Song List Editorを使って、先ほど出来上がった曲のデータをトラックごとにWAVファイルで取り込みます。それらのデータを普段使っているDAWソフトなどでエディットすれば、さらに曲作りを進められます。Micro BR BR-80は使う人のアイディアによって可能性が無限大に広がる、まさに驚きのポータブル・ワークステーションなのです。 201107_Micro-BR-BR-80_rearLeft.jpg

▲トップ・パネル正面左側のサイド・パネルには、左からACアダプター端子(9V)やUSB端子、ヘッドフォン出力/ライン・アウト(ステレオ・ミニ)、ボリューム・ノブを配置


201107_Micro-BR-BR-80_rearRight.jpg

▲トップ・パネル右側のサイド・パネルには、左からギター/マイク入力(フォーン)、ライン入力(ライン・イン)、入力ゲイン・ノブを装備

BOSS
Micro BR BR-80
オープン・プライス (市場予想価格/26,000円前後)
▪最大同時録音トラック数/2▪最大同時再生トラック数/8▪記録メディア/SDカード(1〜2GB)、SDHCカード(4〜32GB)▪記録時間(MTRモード)/SDカード(1GB)につき約3時間、SDHCカード(32GB)につき約100時間▪AD/DA変換/24ビット▪サンプリング周波数/44.1kHz▪外形寸法/138(W)×22(H)×86(D)mm▪重量/140g