強力なビート関連機能とギター用プラグインを備えたCubase最新版

STEINBERGCubase 6
20年間以上の歴史を持ち、プロからアマチュアまで幅広い層のユーザーに愛され続けるDAWソフト、Cubaseがメジャー・アップデートを遂げました。僕自身のCubaseとの付き合いや思いなど、書きたいことは山ほどありますが、それを語っていては誌面が尽きてしまうほどに新機能満載なので、早速チェックしていきます! 

揺れのあるドラム・トラックにも
瞬時にテンポ・マップを自動作成


Cubase 6を起動してまず感じるのは、GUIの新しさです。プロジェクト・ウィンドウ内の文字はスマートで、より見やすくなった印象。試しに同一のプロジェクトをCubase 5でも開いてみました。見比べてみると、バージョン6の方がクールな色使いで、リラックスして画面を眺められそうです。また、トラックに指定した色がトラック・リストの先頭部にも反映されるようになったので、"このトラックを操作したい"というときに、望むトラックがより分かりやすくなりました。さらに、長いトラック名がスクロール表示されるようになり、"同じような名称のトラックを区別しづらい"ということが無くなったのもうれしいところ。そのほか、パートやイベントを選択すると選んだ部分の色が反転するなど、随所に視認性を高めるアイディアが盛り込まれています。それでは、特筆すべき新機能を紹介していきます。個人的に最もヒットだったのが、オーディオ素材のテンポ検出機能。メトロノームなどのガイドを使わずに録音されたドラムのオーディオ素材からテンポを検出し、テンポ・マップを自動で作成してくれます(画面①)。テンポ・マップが作成された素材にほかの楽器を重ねて打ち込みたい場合は、キーエディター(ピアノロール)上のグリッドに沿って作業していけばOKです。打ち込みと生演奏をミックスしたバンドには、クリックに合わせた演奏がグルーブを作る上でストレスになる、というドラマーも多そうですが、Cubase 6ならドラマー自身のノリに合わせた打ち込みが容易に実現できます。本機能は今後の音楽制作に革新を起こすことになるかもしれませんね。

▼画面① オーディオ素材のテンポ検出機能では、リズムの揺れが激しいトラック(上段)に対してでも、自動でテンポ・マッピングを行ってくれる。ポジションごとのテンポはテンポ・トラック(下段)と左側のトラック・リストに表示される


一方、僕の場合は初期アシッド・ハウスの名曲を最近のDJセットで使いたいと思っていますが、古い時代の曲はキックの出音が弱過ぎるのが難点。そこで、自ら新しいキックの素材をプラスできればと考えていました。しかし、古い曲にはアナログ・レコードでしか出回っていないものも多く、パソコンに録音する際、ターンテーブルを使わざるを得ません。ターンテーブルで再生した音は、思っている以上にテンポの揺れが激しいのですが、何とかそれに合ったリズム・トラックを作ろうとあらゆるソフトを試してきました。しかしどうも座りの良くない個所が多々あり、困っていたのです。ところが、折よくこのテンポ検出機能を試す機会に恵まれました。試してみると、楽曲にフィットしたテンポ・マップが瞬時に作成されたのです。後はグリッドに沿って打ち込みを行うでだけで、初期のハウス・トラックに現代風のタイトなキックを重ねることができました!なおシンプルなリズムのトラックに対しては、新搭載の"スレッショルドレベル"スライダーでヒット・ポイントを検出可能。さらにビートの1音1音とタイミングのそろったMIDIノートを作成できるので、ドラムの各打楽器を任意のソフト音源やサンプルの音に差し替えるということも簡単です。

900以上の音色を搭載するマルチ音源
スタッター機能も備えたループ・マシン


Cubaseのバージョン・アップの際、"今度はどんなVSTインストゥルメント/エフェクトが入っているのかな?"と考えるのも楽しみの一つです。バージョン6の目玉は16パートのマルチティンバー音源、Halion Sonic SEでしょう(画面②)。

▼画面② マルチ音源Halion SonicSEは、生楽器やシンセ、ドラムなど、900以上の音色をプリセットする16パート音源


かつて動作の軽さが特徴のHypersonicというマルチティンバー音源がありましたが、このソフトの後継として生み出されたのがHalion Sonic(別売)です。Cubase 6に搭載のSE版は、Halion Sonicからプリセット音色などを絞った、900以上のサウンドを備えるスリムなバージョンです。Hypersonic譲りのインターフェースは、やはり扱いやすい印象。また、音色ロードなどの動作がほかのマルチティンバー音源と比べて随分速いように感じられます。個人的には多くのMIDIチャンネルで音を鳴らさず、1つのMIDIチャンネルのみを使った場合でも、軽快に厚みのある音を作れるところが気に入りました。さてCubaseにはこれまでも、アンプ・シミュレーター/ギター用エフェクトが搭載されていましたが、あくまでもパラメーターやシーン設定の多いひずみエフェクトというイメージでした。しかし、バージョン6に搭載されたVST Amp Rackは本格的な仕様。使用するバーチャル・アンプやキャビネット、エフェクト、マイク・ポジションなどを設定できる6つのセクションを組み合わせることで、細かい音作りが可能です(画面③)。

▼画面③ VST Amp RackはPre-Effects/Amplifiers/Cabinets/Post-Effects/Microphone Position/Masterという6つのセクションを画面上部で切り替え可能。エフェクト・セクションにはコンパクト・エフェターのグラフィックが登 場し、ワウや空間系など16種類のエフェクトを、実際のエフェクト・ペダルと同様の操作で扱える


このアンプ・シミュレーターではMARSHALL系やFENDER系など、ビンテージ・ギター・アンプ7種類が再現されており、それぞれのアンプ・ヘッドとキャビネットを自由に組み換え可能。その上、ボタン一つで即座に本来のペアに戻せる機能も備えています。アンプのプリ/ポストの両方に配置できるバーチャル・コンパクト・エフェクターは全16種類。実物そのものといった操作系で、階層の多い複雑なエフェクトに不慣れな人も取っつきやすいでしょう。さらに、ビート・メイカーにも朗報です。直感的な操作でループ素材をマッシュ・アップし、新たなビート・パターンを自動生成するプラグインLoopMashが、バージョン2にアップ・グレードしました。登録できるシーンの数は最大24と、バージョン1から倍増。また20種類以上のエフェクトをスライスごとにアサイン可能になりました。安定したビートの中へ変則的なリズム・パターンなどを瞬間的に挿入するテクニック、スタッターがエフェクトとして5パターン内蔵されるほか、スクラッチやテープ・ストップ、バック・スピンなど、動的な効果を用意。しかも、それらをMIDIキーボードでリアルタイムに制御できます。これはすごく楽しい! スタッターからテープ・ストップに移行し、間髪入れずのスクラッチ......など、それだけでも延々飽きずに続けてしまいそうで怖い(笑)。スタジオ・ワークのみならず、ライブ・パフォーマンスでもぜひ使っていきたい機能です!

新機能ノートエクスプレッションで
和音の各ノートも個別にコントロール


Cubase 5には、MIDIで打ち込んだ管楽器、弦楽器に生演奏のようなニュアンスを加えるVST Expressionという機能が搭載されていました。さらにバージョン6からの新機能ノートエクスプレッションと新規格VST 3.5対応の音源との組み合わせで、より多彩な表現が可能です。これまでMIDIチャンネル単位でしか調整できなかったボリュームやパン、ピッチ・ベンドなどの調整が、ノート1音1音に対して、独立した形で行えます。よりリアルなアレンジから、現実とはかけ離れたユニークなサウンド表現も可能になりました。試しに、Halion Sonic SEを立ち上げたインストゥルメント・トラックのキーエディターでコードを打ち込み、1音だけ白玉にしてみました。そのノートをダブル・クリックすると、エディット・ウィンドウがオープン(画面④)。左側のインスペクター(メニュー)から調整したいパラメーターを選び、キーエディターの鉛筆ツールで各パラメーターをどのように編集したいか、直接書き込んでいきます。ボリュームやチューニングを上下させ、パンを左右に振るなどしてみました。再生すると、コードが演奏される中で、見事1音だけがモジュレーションされていました! なお、パラメーターの情報は各ノートに付随し、ノートの位置を動かしてもコントロール・データは付いてきてくれます。

▼画面④ ノートエクスプレッション機能では、 これまでチャンネル単位でしか調整できなかったMIDI関連のパラメーターを、ノート単位でコントロール可能。まず、キーエディター上で調整したいノートを ダブル・クリックすると編集ウィンドウが開く(画面中央)。次に、キーエディターの"パラメーター"(画面左)から調整したい項目を選ぶと、鉛筆ツールで 編集ウィンドウ内にパラメーターの変更内容を直接書き込める


ほかにも新機能が満載。まだ数日しか試用していないのに、もうCubase 5には戻りたくない! そんな進化を見せたCubase 6なのでした!

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年4月号より)
STEINBERG
Cubase 6
通常版:オープン・プライス(市場予想価格/79,800円前後)Cubase 4/5からのバージョン・アップ:20,300円
▪Windows/Windows 7、INTEL/AMD Dual CoreのCPU、2GB以上のRAM、8GB以上のハード・ディスク・ドライブの空き容量、DVDドライブ▪Mac/Mac OS X 10.6、INTEL Dual CoreのCPU、2GB以上のRAM、8GB以上のハード・ディスク・ドライブの空き容量、DVDドライブ