音質が向上し実作業を踏まえた機能満載の新型MBox最上位モデル

AVIDPro Tools MBox Pro
2カ月前、コンピューターを古いAPPLE MacBookからiMacにバージョン・アップしました。しかし、それまで使っていたオーディオI/Oの初代MBox(ペンギン型?)がMac OS X 10.6に非対応であることが発覚。そんなときに本誌で新しいPro Tools MBoxシリーズの記事を見て、どうせ買い替えるのなら一番いいものをと、後先考えずにFireWire接続のPro Tools MBox Proを買ってしまいました。でも"やっぱりこれにして良かった!"と思える機能が満載。このレビューを読んで、皆さんも思い切っちゃってください。

ダイナミックでワイドな再生音
豊富な入出力端子を装備


まず再生の音質ですが、私が初代MBox(2001年発売)からの乗り換えということもあり、音質の向上には自宅のモニター・システムでAPPLE iTunesからの再生を聴くだけでも気付きました。高域も低域も間違いなく初代MBoxよりも伸びていてダイナミック! ワイド感が増した感じもあります。ジャズやクラシックなど、レンジの広い音楽をじっくり聴いてみると、今まで見えにくかった中低域の押し出しがクリアに聴こえる印象。ドンシャリでもなく、ただハイファイなだけでもなく、すべて見通しが良くなった感じです。デザインも従来のプラスティック筐体からアルミ製で重厚なデザインと大きく変更。パネルのデザインと押し出し感もカッコ良く、その重さから安定感もあり、上に物を置いても不安な感じはありません。Pro Tools MBoxファミリー最上位機種ということもあり、入出力はかなり充実しています。端子群が集中しているリア・パネルからチェック。アナログ入力はch3/4のマイク入力と基準レベルを切り替え可能な(+4/−10dB)4系統のライン入力(TRSフォーン)に加え、RCAピン入力(ステレオ)、APPLE iPodなどのオーディオ・プレーヤーを接続するためのステレオ・ミニ端子も装備。ほぼすべてのアナログ・ソースを入力できます。アナログ出力端子は6系統装備。3系統のステレオ・スピーカーを切り替えることが可能なほか、5.1chサラウンド環境を構築することもできます。このほかにフット・スイッチ端子と、D-Sub端子にまとめてあるS/P DIFコアキシャル入出力、ワード・クロック入出力、MIDI IN/OUTも用意。コンピューターとの接続用&バス・スルー用にFireWire端子が2系統接続されています。フロント・パネルにはch1〜4までのプリアンプのゲイン調整ノブを装備。このノブを引っ張り出すことにより入力ゲインを−20dBするPADも実装しています。入力端子は、ch1/2のXLR/フォーン・コンボ・コネクターを用意。これはマイク/DI(エレキギターなど)用で、リア側のライン入力とスイッチで切り替える仕様です。また、ヘッドフォン端子は独立2系統装備されているので、2人での作業も容易に行えます。

クリアだがひずませても使えるプリアンプ
ソフト・リミットでテープ・サウンドも


新しくなったプリアンプは、はっきり言ってものすごく良いです。マイクで普通に拾った声がクリアでダイナミック・レンジも広く聴こえます。聴き慣れた自分のギターであっても、とにかく音の太さとクリアさが全然違います。中低域の音の抜けは旧モデルとは全く別物と言っていいでしょう。ギター直結で特筆したいのは、ゲインを上げていったときの、ギター・アンプに近いウォームなひずみ具合。単体のギター・アンプ・シミュレーターと組み合わせて、シミュレーター側ではひずませず、オーバー・ドライブの成分をPro Tools MBox Proのプリアンプで生むというサウンド・メイキングで結構楽しんでいます。また、フロント・パネルの各入力チャンネルには、ソフト・リミットのスイッチ(Sft-lmt)があります。これはMBox Pro内部で入力にリミッターをかけ、過大入力でクリッピングを起こさないように自動的にリミッティングしてくれるというもの。前述したギターのセッティングでいろいろと弾き倒しています。アタック/リリースは早めで、音質は少々ハイ落ちした感じが出ますが、ギターで試してみるとデジタルっぽさが少々減った音色になります。そして大きなレベルが入りリミッティングがかかると、アナログ・テープで録音したような音が張り付く感じが出てきます。使いようによっては非常に楽器的な使用ができ、プリアンプのゲインと併せて個性的なサウンドが作れるでしょう。

モニター音量のコントロールや
スピーカー切り替えが手元で行える


さて昨年末にPro Tools MBoxファミリーが大きくリニューアルされたわけですが、それぞれのモデルには特徴があります。極めてコンパクトで初心者からモバイル・レコーディングを視野に入れた2イン/2アウトのPro Tools MBox Mini、4イン/4アウトでMIDI端子やDSPエフェクトなどを搭載するスタンダード機Pro Tools MBox、そして今回レビューしている最上位機のPro Tools Mbox Proがあります。私がその中でPro Tools MBox Proをチョイスした理由は、24ビット/192kHzという完全プロ仕様のオーディオ・スペック(付属DAWソフトPro Tools LE 8では96kHzまで対応)などの点でした。また、私は現在でもDATや古いデジタル機器を同期して使うことがしばしばあり、そのために必要なワード・クロック端子などが装備されていることは、選択の大きなポイントとなりました。そして何と言ってもアナログ6イン/6アウトというのは魅力的。ADコンバーター搭載の2chマイクプリなどがあればアナログ8イン/8アウトでの使用も可能になります。ちなみにCore Audio/ASIO環境での安定性も強化され、Pro Tools以外のDAWソフトでも安心して使えるようになりました。また新しいMBoxファミリーはすべて、マスター・ボリューム・ノブを備えていますが、Pro Tools MBox Proにはその左側にあるDim/Muteスイッチも装備。モニターから出ている音を瞬時に小さくしたり(Dim)、消音(Mute)可能。さらにSpkrスイッチでは、モニターする入力ソースの切り替え、あるいはAUX入力端子に接続したソースをセレクトしてモニターすることが可能です。この機能によって、今まで机の上にあったソース・セレクト用のオーディオ・プリアンプが要らなくなったので机の上が広くなりました。また、ヘッドフォン・ボリュームの横にあるMultiボタンは、Pro Tools Softwareと連動して録音や再生の開始/停止、トラックの追加、ループ再生のオン/オフ、前後のマーカーへの移動、アンドゥ、セッションの保存といった機能がアサインできる便利なスイッチです。

自由度の高いDSPミキサー
モニター用エフェクトも搭載


Pro Tools MBox Proには、DAWソフトのPro Tools LE 8(画面①)201103_mboxPro_01.jpg▲画面① 付属のDAWソフトはPro Tools LE 8(Windows/Mac対応)。自動遅延補正の搭載やトラック数増強などが図られた最新のPro Tools 9にクロスグレードすることもできるのほかに、コントロール・パネルのアプリケーションが同梱(画面②)。201103_mboxPro_02.jpg▲画面② Pro Tools MBox Proのコントロール・パネル。ステレオ3系統のアナログ・アウト、1系統のS/P DIFコアキシャル・アウト、2系統のヘッドフォン・アウトといったそれぞれの出力ごとに、異なるバランスの信号を送ることが可能。モニター信号にかけられるリバーブ/ディレイなどのエフェクトも用意されている。そのほかチューナー機能も内蔵するこれはPro Tools MBox Proの内蔵DSPミキサーなどの設定を行うものです。ゼロ・レイテンシーでのレコーディングやモニターのセッティングができます。ミキサーの表示も非常に分かりやすく、左半分がPro Tools MBox Proに入力されたソース、右半分がDAWソフトからの入力される信号です。各ステレオ出力ごとに16chのミキサーとなっていて、それぞれのレベルとパン、ミュート/ソロ、内部DSPエフェクトへのセンド/リターンとエフェクトのセレクトと、すべてのパラメーターが操作できます。隣接したチャンネルとステレオ・リンクすることも可能です。また、マスター・フェーダーにはL/Rのバランスやミュート、入れ替えのほか、Widthというパラメーターも用意。これを絞っていくと、出力される音がだんだんモノになっていくというものです。録音時に左右に偏った音像をモノにしてモニターしたり、ミックス時に位相のチェックをしたり、あるいは実験的にステレオ感を少々狭めてみようとか、用途はいろいろありそうです。内蔵DSPエフェクトは1系統装備されていて、リバーブ(Hall/Room/Plate)やディレイなど、8種類のプログラムから選択して使用します。このエフェクトはモニター音にのみ有効で、DAWソフト内部でのミックス時に使用することはできません。その点は少々残念に思いますがなかなかよくできたエフェクトで、特にリバーブのPlateは、ディケイ・タイムを短くした場合は派手なルームっぽい感じ、長くするとEMTの鉄板リバーブのようなリッチなサウンドに。個人的にはECHO(ディレイ)の音色も気に入っています。リピート音の劣化感、少々変則的に聴こえるリピート時のアタック音など、音色にちょっとした癖があるのが好印象でした。また、6系統あるアナログ出力端子をステレオ・ペア×3とみなし、このDSPミキサーで3系統の独立したモニター・システムを作ることができます。同じようにヘッドフォン・アウトも2系統別々のモニター環境を作ることができます。非常に柔軟な使い方ができるので、例えばiTunesの再生に合わせてギターを鳴らしたりなど、DAWソフトを立ち上げない状態でもいろいろな用途に使える、よくできた製品です。
最新のPro Tools 9ではいろいろなオーディオI/Oが使えるようになりましたが、利便性や安定さを求める意味でも、特にPro ToolsユーザーにはPro Tools MBoxファミリーがお薦めできます。もちろん財布の事情にもよると思いますが、MBox MiniよりはMBox、MBoxよりはMBox Proにした方がいいということも、しつこく言っておきます(笑)。なお、現在Pro Tools MBoxシリーズに付属しているのはPro Tools LE 8ですが、最新のPro Tools 9へ安価でクロスグレードできるということもポイントです。201103_mboxPro_03.jpg▲Pro Tools MBox Proのリア・パネル。左からフット・スイッチ端子(フォーン)、D-Sub 9ピン端子(S/P DIFコアキシャル入出力、ワード・クロック入出力、MIDI IN/OUT)、FireWire(400)×2、ライン・アウト×6(TRSフォーン)、Auxインプット(RCAピン×2とステレオ・ミニで後者が優先)、ライン・イン×4(TRSフォーン)と基準レベル切り替えスイッチ。インサート入出力(TRSフォーン)×4、ch3/4のマイク・イン(XLR)
AVID
Pro Tools MBox Pro
オープン・プライス (市場予想価格/79,000円前後)
▪アナログ入出力/6イン&6アウト▪デジタル入出力/2イン&2アウト▪量子化ビット数&サンプリング周波数/24ビット/192kHz(最高)▪外形寸法/349(W)×61(H)×192(D)mm▪重量/2.8kg(本体)

▪Windows/Windows XP 32ビット SP3、Vista 32ビット SP2、Windows 7 32/64ビット。1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、5GB以上のディスク空き容量、FireWireポート▪Mac/Mac OS X 10.5.8または10.6.1〜10.6.4。INTEL製プロセッサー搭載のMac、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、6GB以上のディスク空き容量、FireWireポート