
16フェーダーを使いやすくレイアウト
ほとんどのDAWソフトで使用可能
まず箱から出してみると、さすがSSL、しっかりとした重厚な作り、高級感漂うデザインにうっとりします。フェーダーのストロークも十分で、デザイン的には同社のMatrixと近く、非常に操作しやすそう。いざテーブルの上にセッティングしてみると、非常にいいです。絵になります! 今までいろんなDAWコントローラを使ってきましたが、何かしっくりこないことが多かったんです。単にコントローラー自体が大き過ぎたり、奥行きがあり過ぎて無理な体勢になったり、フェーダーとフェーダーの間が狭過ぎて使いにくかったり、モニタリングの音がいまいちだったり......。それに対しNucleusはセッティングした感じからして非常に使いやすそうです。そのポイントの一つが、16本のフェーダー。今までは8ch分あれば十分だろうと思っていたのですが、こうやって16chを目の前にするとやはり楽だと思います。しかも左右の手を軽く開いて置いたときにぴったりとくる間隔。そして、真ん中に位置する大きめのトランスポート。この辺りはさすがだなと感心します......と感心ばかりしてないでセッティングを続けましょう。まずはドライバーのインストール。Nucleusはオーディオ信号とキーボード・コマンドをUSBで、DAWコントローラーの信号をイーサーネットでやり取りするので、2種類のドライバーをインストールすることになります。このドライバーの設定設定はそれぞれ、Nucleus USB Control PanelとNucleus Remoteという2つのアプリケーションで行うので、それらもインストールします。あとは電源ケーブル、USBケーブル、イーサーネット・ケーブルを接続すれば完了。Nucleus本体には4ポートのUSBハブ機能が付いているので、DA
Wソフト&プラグイン用のUSBキーなどもスマートに接続できます。そして電源を入れてから、ネットワーク設定でイーサーネットの設定をしてあげると準備は完了です。
今回は僕がいつも使っているAVID Pro Tools 9で検証していこうと思います。接続が確認できたら、先ほどインストールしたNucleus Remoteを立ち上げ、Profile Setupで"Protools Default"を選びます(画面①)。▲画面① コントローラー機能の設定を行うNucleus Remote。左上のProfile Setupで使用するDAWソフトに合わせたテンプレートを読み込んで使用するのが基本ここにはほかにもLogicやSonar、Nuendo/Cubaseなどに対応したデフォルト設定も用意されているので、大抵のソフトですぐに使えます。後述する、コマンドを任意のボタンにアサインするSoft Key機能もすべてこのアプリケーションで設定します。ではようやく、Pro Toolsを立ち上げます。今度はPro Tools側で"設定→プレイバックエンジン..."の"現在のエンジン"でNucleusを選べば、オーディオ・インターフェースとして認識されます。そしてセッション・ファイルを立ち上げると、自動的にPro Toolsの設定がNucleusに反映されます。
スイッチ兼用のロータリー・エンコーダー
プラグインのパラメーターも展開可能
それでは各セクションごとに機能を見ていこうと思います。まずはコントローラーの機能から。コントローラーはipMIDIと呼ばれるSSL独自のバーチャルMIDIポート技術を駆使してコントロールされ、プロトコルとしてはHUI、またはMackie Control Universalに対応しています。チャンネル・ストリップを見ると、一番上がチャンネル・メーターとレコード・ステータス・インジケーター。その下がモード・スイッチと呼ばれ、左側8chのこの部分でモードを切り替えます(写真①)。

▲写真① 左側8ch分のディスプレイ上にはロータリー・エンコーダーに割り当てる機能を切り替えるモード・スイッチが並ぶ。LED付きのロータリー・エンコーダー(V-Pot)はプッシュ・スイッチ(V-Sel)を兼ねている。その下にはCUT(ミュート)、SOLO、SEL(選択)スイッチ
次がディスプレイ。上下2段に表示され、上にトラック名が、下にモード・スイッチで選ばれたモード名が表示されます。そしてその下にあるツマミは、押すとプッシュ式のスイッチ(V-Sel)、回すとロータリー・エンコーダー(V-Pot)になるという優れもの。例えばモード・スイッチでPANやSENDを選択しているときはロータリー・エンコーダーとしてパン・ポットやセンド・フェーダーになり、MUTEを選択しているときはミュート・ボタンとして機能します。もちろんここでプラグインのパラメーターもコントロール可能。Pro Toolsの場合はPARAMボタンを押すと、このV-Pot/V-Selにプラグインのパラメーターを展開することができます。そのV-PotとV-Selスイッチの下にあるのがCUT/SOLO/SELボタン。これは見ての通り各チャンネルのカット(ミュート)、ソロ、セレクトをするものです。モード・スイッチのDEFAULTを押しながらSELボタンを押すとそのチャンネルのボリューム・フェーダーが0の位置まで戻ります。これはかゆいところに手が届く、結構使える機能だと思いました。そして、最後にフェーダー。もちろん各チャンネルのボリュームをコントロールするのですが、センター・セクションにあるFLIPボタンを押すことで、先ほどのV-Potと入れ替わり、フェーダーがセンド送りなどに置き換わります。ボーカル・トラックすべてに同じ量のリバーブを送るときなどに便利でしょう。フェーダーの使用感はとても良く、しっかりと作られています。ストロークも十分長くて、本当に操作していて気持ちいいです。センター・セクションにあるBANKとCHANNELでチャンネル・アサインができるので、コンピューターの画面を見ずに音楽的にどんどんボリュームを決めていけるのが単純に気持ちいいです。これはすごく大切な要素であり、Nucleusを使う一番大きな意味であるような気がします。
キーボード・ショートカットを
任意のボタンにアサイン可能
Nucleusには、さまざまなコマンドを任意のボタンにアサインできるSoft Key機能があります。Soft Keyモードに入るには、センター・セクションにあるUSER 1かUSER 2ボタンを押します(写真②)。

▲写真② センター・セクションにあるUSERスイッチを押すと、さまざまなボタンが任意のコマンド用として機能するようになる。その下にはプラグイン・パラメーターの呼び出しやフェーダー・フリップ、EQ/ダイナミクスの起動、RECレディ、オートメーション・モードの切り替えといったボタンが並んでいる(DAWソフトによって機能が異なる場合あり)
Pro Toolsのデフォルトでは、まずUSER 1を押すと、Nucleusの右側8ch分のディスプレイに、上下8つずつ、合計16個のコマンドが現れます。設定されているコマンドは編集ウィンドウとミックス・ウィンドウの切り替え、トランスポート・ウィンドウやメモリー・ロケーション・ウィンドウの表示/非表示、RECレディなど。またオートメーション・イネーブルやエディット・モード(Pro ToolsのSHUFFLE/SLIP/SPOT/GRID)の切り替え、エディット・ツールの切り替えなどもあります。そのほか細かい設定までNucleus上で簡単にアクセスできるようになっています。このコマンドは先述のNucleus Remoteというアプリケーションで自由にアサインできるようになっています。ここで"Protools Default"を見てみるとUSER 1には今見たコマンドが割り当てられています(画面②)。

▲画面② Sofy Keyの設定画面。ツールの持ち替えやDAWソフトの編集モード切り替え、ウィンドウの開閉などがワンアクションで行えるのは便利だ
USER 2には何もアサインされていないので、自分にとって使いやすいコマンドを入れておくと作業の効率アップが期待できるでしょう。このSoft Keyは左右のチャンネルにあるボタンばかりではなく、センター・セクションのボタンにも自由にアサインできるので、自分だけのカスタマイズされたコントローラーとして力強い味方になってくれるでしょう。
大型ジョグ・ダイアルで
リージョン・ナッジやトラック選択も可能
センター・セクションの話になったところで、もう少しこの辺りの機能について見ていきましょう(写真③)。

SuperAnalogue回路のマイクプリ
オーディオI/Oは最高192kHz対応
コントローラー・セクションはこれくらいにしておいて、オーディオ・インターフェースなどの機能を見ていきたいと思います。NucleusにはSuperAnalogue回路を採用したマイクプリが2ch用意されています(写真④)。

またDAWソフトを通した入力音にはレイテンシーが起こりますが、これを解決するためにBLENDというノブが付いていて、ダイレクト音とDAW経由の音のバランスが調節できます。ただch1に入力したダイレクト音を直接モニタリングすると、Lch側からしか聴こえてきません。そこでMONO-Lボタンを押すとこれがセンターに定位するという仕組みになっています。ch2に入力したときも同様にMONO-Rボタンを使います。続いてモニタリング・セクションも見ていきましょう。ここにもSuperAnalogue回路が採用されています。出力端子はステレオ・ペアでXLR端子(+4dB)とRCAピン端子(−10dB)が併装されていますが、これはコントロールも含めて同一の信号がスプリットされていて、切り替えて使うことができません。2種類のスピーカーをつなげた場合、切り替えにいちいちアンプの電源を落とさないといけないので、少し残念に思いました。このモニター・セクションはエクスターナル・インが充実していて、XLR(+4dB)のペア1系統に加え、iJackと呼ばれるステレオ・ミニのインプットも付いています。最近スタジオでもAPPLE iPodやパソコンに入ってる曲を聴いてみようなんていうときが多いので、これは便利です。
自宅でもSSLコンソールのサウンドに
純正プラグインも付属
では、SuperAnalogue回路の実力を聴いてみましょう。まず先日自分でミックスした曲の2ミックス・ファイルをPro Toolsにインポートして聴いてみることにしました。最近自宅で使っているオーディオ・インターフェースは、単体でNucleusと同じくらいの価格帯のものですが、これと比較してみます。Nucleusの音は、聴いた瞬間に(当たり前なんですけど)"うわぁSSLだぁ"と思いました。良い意味での"腰高感と明るさ"があり、広がりとリバーブもくっきり見え、スタジオでSSLの卓で聴いてるのと同じ音のフォルム、周波数帯の整理のされ方です。SL4000シリーズの音を思い出しました。自宅でこの音が聴ける時代が来たんですねぇ。すごいっ!これは聴いてばかりでなく、マイクプリの感じもチェックしなくてはと思い、ボーカルとアコギを録ってみました。マイクはAUDIO-TECHNICA AT4050です。音色は使い慣れたX-Logic Mic Preと同じ印象。どんなソースもそつなくこなせるマルチな感じは、安心感があります。途中からコンプレッサーのUREI 1176(シルバー・パネル)をインサートしてみましたが、やはりアウトボードのインサートの有無で全く違います。一般的に、新しいジェネレーションのAD/DAは何となくすっきりしていると感じることが多いので、中域で押していくような感じが薄い分、ミックスのどこかでサチュレーションさせたり、ちょっとひずませたり、倍音を足したりしないと音圧が出にくいと感じています。もちろん以前からそうだとは思いますが、最近オーディオ・インターフェースを買い替えてからより強くそう思うので、こういった簡単にインサートできることが重要になってくるような気がします。
インサートで言えば、NucleusにはMIXDOWNというボタンが付いていて、ステレオ・マスタ
ーにもアウトボードをインサートできるようになっています。先述したインサート・センド/リターンにアウトボードを接続して、INSボタンとMIXDOWNボタンを押すことでインサートできます。またインサート・リターン信号が普通にチャンネル・アウトプットに接続されるので、アウトボードでプロセッシングした音をそのままDAWソフトに録音することも可能です。そしてこのNucleusには、SSLのDSPプラグイン・システム、Duendeで高い評価を得ている専用プラグインのネイティブ版(Audio Units/RTAS/VST対応)がバンドルされています。今回そのプラグインは試すことはできなかったのですが、そこは本家本元のSSLが開発したプラグインなので間違いはないでしょう。本来Duendeを購入しなければ手に入らなかったEQ And Dynamics Channel(画面③)



▲リア・パネル。左の8つの入出力端子がマイクプリ関連で、入力(左下段/XLR/TRSフォーン・コンボ)×2とそのダイレクト・アウト(上段/XLR)、その両脇にセンド(TRSフォーン)&リターン(TRSフォーン)を用意。その右は、上段がエクスターナル・インL/R(XLR)、下段がモニター・アウトL/R(XLR)。その右にヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)×2とモニター・アウトL/R(RCAピン)、APPLE iPodなどとの接続に便利なI Jack(ステレオ・ミニ)。その右にUSBポート、USBハブ(4ポート)、S/P DIFオプティカル入出力、ターミナル端子(D-Sub 9ピン:メーカー診断用)、フット・スイッチ端子(TRSフォーン)、SDカード・スロット(設定保存用)、イーサーネット端子が並ぶ
▪Windows/Windows XP SP3、Vista SP1以降、Windows 7(32/64ビット)。Pentium 4/1GB以上のCPU▪Mac/Mac OS X 10.5.8以降。INTEL製プロセッサー(1.2GHz)▪対応プロトコル/HUI、Mackie Control Universal▪付属プラグイン・フォーマット/Audio Units/RTAS/VST