原音に忠実なサウンドと抜群の装着感を誇るモニター・ヘッドフォン

KRKKNS8400
今回KRKからヘッドフォン発売の知らせを聞いてまず思ったことは、"あっそういえば無かったかな......"。もはや説明も要らぬほどの実績、歴史を持ったスタジオ・モニター・スピーカー専門ブランドの新たなる挑戦。エンジニアのみならずすべての音楽ファンから注目を浴びることでしょう。その期待、プレッシャーにどう答えてくれるのでしょうか? KRKユーザー歴8年の筆者がチェックしたいと思います。

音量調節付きケーブルも用意
心地良く耳にフィットする装着感


基本的なスペックは、密閉型のダイナミック型式で、周波数特性は5Hz〜23kHz、定格インピーダンス36Ω、40mm軽量ネオジム・ドライバー搭載です。ちなみにドライバーは黄色くありません(笑)。2.5mの着脱式ケーブルが付属し、もう一本60cmの音量調節付きケーブルも付属します。このケーブル、エンジニアには必要ないかな?と思っていたのですが、あればあったで便利ですね。ただ若干音場が狭くなるのでミックス、マスタリングなどのシビアな音作りのときは外して作業した方が良いでしょう。プレイヤーの方が素早く手元で音量を変えたいとき用でしょうかね。重量は232gと軽く、イア・パッドも90度回転しますので、持ち運びにも便利です。付属品として、専用のポーチも用意されています。さて、まずはヘッドフォンにとって音質と同じくらい大切な装着感をチェック。Uの字が頭上からかぶさるというよりは頭頂部2点を支点とし、丸みのあるバンドが頭を包むといった感じでしょうか。頭上のクッション、イア・パッドのスポンジはちょっと固めです。そして製品自体それほど大きくないのですがイア・パッドの中に耳がすっぽりと収まる設計。これにより外部音の遮断性が結構あります。クリック漏れ、ハウリングなどのトラブルもよほどのことがない限り大丈夫でしょう。また余分にボリュームを上げ過ぎて、耳の疲労を早めてしまうのを防ぐにも一役買ってくれます。フィット感は強く、演奏中も安心な装着感ですが締め付けが強いわけでもなく絶妙な感じです。

無駄な色付けがない自然な音
長時間にわたる作業でも疲れにくい


肝心の音質に移りましょう。試聴する前は勝手なイメージで低音がふくよかに再生されるのかな?とか、最近のコンシューマー向けのヘッドフォンに多いギラギラでイケイケなアメリカン・サウンド(笑)かな?と考えていたのですが、そうではありませんでした。むしろ逆で、スゴい素直な出音。ギラッとした帯域はちょっと抑えめで、中低域の解像度はなかなかのものです。振動として感じるような超低域、空気感として感じるような超高域にはフォーカスがいかず、音として聴こえている周波数に自然と耳がいきます。再生音をEQしたりしてみると違いは分かるので、その帯域が再生されていないわけではないようですが、一聴しただけではちょっと地味かな?とも取れる印象でした。ネガティブな意味ではなく、色付けが少ないという賛辞です。かまぼこ型とまではいかないまでも、この周波数特性は音楽として大事な帯域に耳を集中させてくれます。バス・ドラムとベースの位置関係、ドラムの奥行き感、ピアノの左右の広がり、リバーブの余韻が溶けていく様子に嘘はなく、非常に分かりやすいです。レンジ感にだまされず実音に耳がいくことでしょう。さらにミックス作業をしてみると、超高域が誇張されてない分、響きの余韻に集中でき、リバーブでの奥行きの付け方がとてもやりやすかったです。普段筆者は音作りではヘッドフォンを使用し、ボーカルのバランス、オートメーションを調整する際は、必ずスピーカーで作業します。その方が間違いが少ないからです。その際のセンター定位のスピーカーで聴いたときとの違和感も気にならず、コレならいけるかも......とも思えました。それと設計的な部分ですが、"耳の疲労が少ない"というのが一番のポイントかもしれません。エンジニアやプレイヤーなど神経を研ぎ澄まして長時間装着することが多い方にはとても大事なことですよね。KRKスピーカーと言えばあの特徴的なケブラー・ウーファー。そのイメージでクセがあるのかな?と思っている読者の方もぜひ試聴してみてほしいです。できれば一日作業してみるといろんな良いポイントに気が付くと思います。これが嫌いという人はいないと思います。ここまで使用してみて、まさに"スタジオ・モニター・ヘッドフォン"と呼べる製品だと思います。エンジニア、アレンジャー、プレイヤー、すべての音楽制作者にお薦めします。コンシューマー・リスニング用にはちょっと物足りない部分もあるかもしれません。筆者がスタジオ用に幾つか同じヘッドフォンを購入するとなったら第一候補になるでしょう。音質は好みや慣れが必要ですが、現場で必要とされる基本性能と音質以外の部分も考えられた製品だからです。次世代スタンダードも狙えるヘッドフォンだと思いました。

▼KNS8400(左)と同時にリリースされた一部仕様が異なるモデル(右)のKNS6400(12,800円)




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年2月号より)

撮影/川村容一(メイン写真)

KRK
KNS8400
19,800円
▪形式/密閉ダイナミック型▪感度/97dB SPL/mW▪周波数特性/5Hz〜23kHz▪インピーダンス/36Ω▪外形寸法/245(W)×268(H)×94(D)mm▪重量/232g(ケーブル除く)