新たにソフト音源2種を搭載したループ・シーケンス型DAWの最新版

SONY CREATIVE SOFTWAREAcid Music Studio 8
バンドマンからダンス・ミュージックまで使えるオーディオ・ループ・シーケンサー

SONY CREATIVE SOFTWARE Acid Music Studio 8 14,490円思えば1998年、僕が最初に手にしたDAWソフトがAcid Music Studioでした。当時はまだまだオーディオを普通に扱うには、高価なコンピューターとソフトが必要な時代。しかしこのソフトは当時(INTELのCPU、Pentiumの名前がテレビCMで聴かれ始めたころ)、Pentium 150MHzのCPUで普通に動くほど動作が軽快だったのです。そんな手軽さから当時ベース、ギターしか弾いたことのなかった僕にDAWで音楽を作る楽しみを教えてくれたソフトです。その後幾つかのDAWを使ってきましたが、実際Acidにしかできないことも結構あったなーと思い出しながら、最新版Acid Music Studio 8をレビューしていきたいと思います。

操作性が格段にアップした分離可能なドッキング・ウィンドウ


Acid Music Studio 8は、1998年の登場から音声素材のテンポやピッチを自在に操り音楽を作っていく、オーディオ・ループ・シーケンサーとして定着していったDAWです。その最新バージョンに当たるAcid Music Studio 8の主な新機能として最初に挙げたいのが、MICROSOFTWindows 7への正式対応。実際に今回のレビューはWindows 7の64ビット版にQuad CoreのCPUで行いました。そして分離可能なドッキング・ウィンドウ、操作手順チュートリアルの強化、ZPLANEが開発したアルゴリズムであるElastique(ProとEfficientの2つのモードから選択可)を搭載し従来よりさらに高品質なタイム・ストレッチやピッチ・シフト、テンポ・カーブ機能の搭載、ノーマライズ、位相逆転、ロックなどのスイッチ、ASIOデバイスとの連携、プラグイン管理の強化やAACおよびFLAC形式のサポートといった具合です。新機能として筆者が最もうれしかったのが、ギター・アンプ・シミュレーターのSTUDIO DEVIL British Valve Custom(BVC)とピアノ音源の4FRONT TruePianos AmberLiteが付属されたことです。それでは実際に立ち上げて使っていきましょう。インターフェースは従来通りシングル・ウィンドウですが、本バージョンからミキサーなどのドッキング・ウィンドウが分離可能です。これにより作曲時はメイン・ウィンドウで行い、ミックス作業をするときはミキサー画面に切り替えられるようになりました(画面①)。acid_1▲画面① ミキサー画面に切り換えた様子。メイン・ウィンドウから独立させて表示することが可能になったので作業効率がアップするだろうこのミキサー画面は完全にメイン・ウィンドウとリンクしており、拡大してループ単位でサンプルをエディットする場合、すぐに自分の作業しているトラックがフォーカスされるので便利です(画面②)。acid_2▲画面② メイン・ウィンドウ内でのミキサー画面(右下)。サンプル・エディットを行う際にどのトラックを加工しているのかが一目で確認できるちなみに、久しぶりに使ったソフトでしたが、相変わらずのシンプルさと操作手順チュートリアルが何でも教えてくれてすぐに使えるようになってきました。このチュートリアルがあれば解説本などは要らないくらいです。

ビートマップ・モード選択時は高音質を保ったタイム・ストレッチが可能


今回は付属のループ素材であるAcidized-WAVと付属のソフト音源を使い作曲していこうと思います。扱うオーディオ素材は16ビット/48kHzクオリティのもので、それらのリズム・トラックを置いてテンポを決めるだけ。すると自動的にタイム・ストレッチが始まりました。クリップのプロパティからモードが設定でき、ループ・モードのほかにワンショット・モード(ループ再生を目的としない)、それからビートマップ・モードがあります。これは30秒を超えるファイルにテンポ情報やキー情報を追加してループと同じようにテンポやキーに追従させることができるというものです。ちなみにビートマップ・モードでのみタイム・ストレッチ/ピッチ・シフトのエンジンとしてElastiqueのアルゴリズムを使い細かなモード設定が可能です(画面③)。acid_3▲画面③ ビートマップ・モードを使用したタイム・ストレッチ。このモードを選択しているときのみAcidに搭載されたアルゴリズムのElastique(ProまたはEfficient)で、高音質を保ちつつタイム・ストレッチやピッチ・シフトを適用することが可能これで元の素材と比較するなど、より音楽的な設定が可能になっています。というのも筆者はテンポやピッチを変えたらやっぱり別モノだと思うのです。なので元の素材と比べてどうかなのではなく、ピッチやテンポを変えた状態でいい音なのかどうかで判断すればいいと思います。その中でElastiqueのProモードはCPUに多少負荷がかかりますが好印象でした。これまでループとして情報を登録していたファイルもビートマップ・モードで変化を細かく調整することが可能です。MIDIトラックも同じようにループ単位で属性を設定すればイベントを横に引っ張るだけでループがコピーされていきます。シンセのオートメーションに関しては、外部MIDIコントローラーがあった方が自由度は高く生きのいい感じで作れると思います。MIDIでのレコーディングは上書きしかできないので、シーケンスだけ先に作ってフィルターなどのオートメーション専用のMIDIトラックを作ってあげればいいでしょう。また付属音源のTruePianos Amber Liteも使ってみました(画面④)。リバーブとダイナミクスの調整が可能で、優しい音からメリハリのある音まで出せるようになっています。同時にシンセ・ベースにSTUDIO DEVIL BVCもかけてみましたが、優しい音で使えます。また、リバーブにUNIVERSAL AUDIO UAD Plate 140を鳴らしてみると、奥に逃げない感じで鳴っているといった印象でした。そのほか内蔵エフェクトのディストーション・サウンドは何とも言えない危険なひずみで良かったです。acid_4▲画面④ バージョン8で新搭載されたTruePianos Amber Lite(画面右)。高品質なVSTiのピアノ音源で、ダイナミクスとリバーブをコントロールしながらリアルなピアノの音色を奏でることができるそして、曲をよりドラマチックに演出するためのテンポ・カーブ機能。これは曲中で変更したいテンポがカーブ設定できるというものです。設定方法も簡単で、テンポ変更したい個所のBPMの始点と終点を決めて、徐々に変化させるか突発的にするかなど、カーブの設定に比例したテンポ・チェンジが可能となります。

バーション8で音質も向上、柔らかい音はまとめやすい印象


ところで、Acid Music Studio 8の音質ですが、ASIO経由であることやソフト自体の音質の向上でかなり印象はいいです。少し密度が少なく輪郭のない音も柔らかくてまとめやすいですし、フェーダーの動きも音が混ざっていく感じがぬるっと滑らかな印象を受けました。トラックが増えた場合はちょっとミックスが難しそうですが、多分これで完結できるように作曲することでアレンジや無理のない音の配置も学べるかと思います。僕は音圧高めでパーツ少なめのドラムンベースやゆったり鳴らすヒップホップが作りたくなる音に感じました。ジャンル問わずミックスCDをこれで作るのもいいかと思います。そうこうしているうちになんか曲っぽくなってきましたので、そのままCDに焼いてみましょう(画面⑤)。acid_5▲画面⑤ トラックアットワンスによるオーディオCDの書き込み画面Acid Music Studio 8はバンドをやっている方からほかのソフトでダンス・ミュージックを作っている方まで使えるDAW。Acid Proのように上位機種があるので、もっと制限があるかと思いきや、工夫次第でいろんなことができて深いところまで作り込めそうです。しかも、3,000以上あるファイルや多数用意されたデモ・ソングを立ち上げて、そのジャンルの音楽がどういう作りなのか分析するといった使い方もできるでしょう。そうするうちに音楽制作に対する興味がわくかもしれません。このソフトであればそうした気持ちにも十分に応えてくれるでしょう。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)
SONY CREATIVE SOFTWARE
Acid Music Studio 8
14,490円
▪Windows/Windows XP/Vista/7、1GHz以上のプロセッサー、200MB以上のハード・ディスク空き容量、1GB以上のRAM、DirectX 9.0c以降、Windows互換サウンド・ボード、DVD-ROMドライブ(DVDからのインストール時に必要)、CD-Rドライブ(CDへの書き込み時に必要)