手軽にパソコン録音できるコスト・パフォーマンスの高いオーディオI/O

STEINBERGCI1
ハイコストパフォーマンスを実現したオーディオ・インターフェース

STEINBERG CI1 オープン・プライス(市場予想価格/9,980円前後)低価格オーディオI/Oが各社から発売される中、その基本機能をほぼ満たしているSTEINBERG CI1は、初めてオーディオI/Oを購入する方から、Ustream放送やモバイル用にもう一つ購入を考えている方にまで幅広いニーズに応えられる仕様になっている。高性能なマイク/ライン・アンプも2ch仕様となっている上、ギター・プレイヤーにはうれしいHi-Z入力も準備されている。そしてこの価格帯には省略されることの多い、コンデンサー・マイク用のファンタム電源も用意されているのだ。入門機とうたわれてはいるが、本格的DAWユーザーにとっても不足の無いオーディオI/Oになっている。そして、驚くべきはこれだけのスペックで市場予想価格が1万円を切る価格となっていることだ。ひと昔前では考えられないコスト・パフォーマンスである。"低価格=音が悪い"といった偏見も、CI1の音質を一度聴いてもらえれば払拭されると思う。既に発売中である上位機種のCI2とオーディオI/O部分はほぼ同じ仕様になっているので、音質については実証済みと言っても過言ではない。そんなCI1をバンドル・ソフトも含めていろいろな角度からレビューしたいと思う。

入門機ながら高音質なボーカル・レコーディングも可能


既に発売中のCI2はたくさんのユーザーに使われているが、CI2のコントローラー部は必要ないというユーザーの方にはこのCI1はかなりお買い得だ。同社はCI1を入門機と位置付けているが、その仕様はこの種類のオーディオI/Oの中では倍以上の価格帯のものと大きな差はほとんど無い。中でも特筆すべきはマイク・プリアンプだ。入門機でもキチンとファンタム電源が装備されているCI1は、高音質なボーカル・レコーディングもすぐに行える。一昔前は高価で、初心者には手に入れることが難しかったコンデンサー・マイクも、今や1万円を切る価格で手に入れることができる時代だ。入門機といえど、ファンタム電源が装備されていることはオーディオI/O選びでは重要なポイントとなる。実際に初心者の方でも手に入れやすいAKG C3000Bを接続して試してみたところ、低域から高域まで自然な高音質サウンドが得られた。もちろん代表的なダイナミック・マイクのSHURE SM58、SM57でも低価格オーディオI/Oとは思えないくらいレンジの広いサウンドが得られた。しっかりとダイナミクス・レンジを取ったレコーディングを行えば、かなり高音質なサウンドがレコーディングできる。ちなみに入力端子はコンボ・タイプになっており、XLR端子に接続すればマイク・アンプとなり、フォーン端子(TRS)に接続すればライン・アンプになる。すなわちフォーンで接続すれば、シンセサイザーやサンプラーなどのサウンドも取り込める。そしてエレキギター・プレイヤーの方であれば、Hi-Zスイッチを入れれば、バンドルされているSequel LE(後述)のアンプ・シミュレーターを使ってすぐにオーバードライブ/ディストーション・サウンドがレコーディングできるのだ(このときエレキギターは1/L端子へ接続。2/RはHi-Z接続はできないので注意)。"マイクを接続するときはXLR接続、シンセやサンプラー、ギターといったものを接続するときはフォーン接続"と覚えておけばよい。特にマイク/ラインの切り替えスイッチなどは無いので、操作もとても簡単だ。作曲のアイディアをカタチにするツールとしてCI1は申し分ない入力セクションを備えている。

レイテンシーを感じることなく録音できるMIXコントロール・ノブの活用


モニター・セクションはフォーンのLINE OUT×ステレオ1系統とヘッドフォン出力が装備されている。LINE OUTについてはDAコンバーターが優秀なこともあり、出音は非常にフラットな印象を受けた。音楽制作用のパワード・スピーカーをそのまま接続すれば、より正確なモニター環境が整うはずだ。ヘッドフォン・アンプは解像度が高い印象で、微妙なフェーダー/EQワークも問題なくモニタリングできる。スピーカーとヘッドフォンの2種類で丁寧にモニタリングすれば、ハイクオリティな楽曲制作も可能だ。LINE OUTをパワード・モニターに接続する場合はモニター側の音量を最大にして、音量をCI1側のマスター・ボリュームで調整した方が、より明りょうなサウンドが得られるので、モニター・スピーカーを接続するときの参考にしてほしい。 レコーディング時に重宝するのがCI1の特徴でもあるMIXコントロール・ノブ。このノブでダイレクト・モニタリングとDAWからの音をミックスできる。INPUT側に振り切るとコンピューター・レコーディングのとき、最も悩まされるレイテンシーを避けることができるのだが、音がドライになってしまい、バック・トラックなどの音が聴こえなくなってしまう。一般的にこのMIXコントロール・ノブを使うときはレコーディング・トラックのモニターをオフにしてINPUTのダイレクト音とDAW側の音をうまく調整してレコーディングするとレイテンシーを避けることができる。ただ、リバーブなどを少し加えてレコーディングしたいときはトラックやエフェクト・センド(Sequel LEの場合はグローバルFX)に深めのリバーブをかけてモニター(Sequel LEの場合はRECボタン)をオンにして、ノブを調整すればリバーブを感じながらレコーディングすることも可能なのだ。もちろんかけ録りではないので、リバーブ量の調整などは後から修正することも可能だ。モニター時にリバーブを足すことができるちょっとしたティップスなので、ぜひ試してほしい方法だ。このときにリバーブを加えない場合、INPUTとDAWをバランスさせるとレイテンシー分のディレイがかかったショート・ディレイっぽいサウンドにもなるので、こちらの方がモニターしやすいということであればリバーブを加えなくても良い。DAWのレイテンシーから生まれるちょっとした副産物だが、上手に使うと効果的なレコーディング方法にもなる。この価格帯のオーディオI/Oだと、多くのトラックやソフト・シンセを重ねた際に、生録の音が途切れたりすることもあるが、CI1の場合にはこのMIXコントロール・ノブをうまく使うことで、レイテンシーをさほど感じることなくレコーディングが可能になる。この方法は初心者には意外と知られておらず、ノブをどの程度調整すれば良いのか迷ったときはこれらを参考にしてほしい。プレイヤーはドライの音だけでモニターすると演奏しにくいという方も多いので、リバーブなどをうまく加えれば、きっとプレイヤーの演奏も変わってくるはずだ。

手軽にレコーディングを始められる2つのバンドル・ソフト


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▲画面1 Sequel LEはレコーディング、編集、ミックス・ダウンが直感的にできるソフト


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▲画面2 WaveLab LE7はポッドキャスト配信などにも対応したオーディオ編集ソフト


バンドルしているソフトウェア、Sequel LEとWaveLab LE7のクオリティは非常に高い。SequelLEはAPPLE GarageBandや、SONY Acidなどと似たアーキテクチャーのループ・ベース・シーケンサーだ(画面①)。LEバージョンとはいえ、1,800以上のループ素材をメディアベイから選ぶことができ、内蔵音源のHalion Oneは360種類の音色から選ぶことができる。作曲を簡単に始めたいというユーザーにとっては十分過ぎる仕様。もちろん将来的にループ素材を購入して増やすことも可能だ。CIシリーズの上位機種にバンドルされているCubase LE/Essentialといったソフトウェアより作曲に対する敷居は低いので、これから作曲を始めたい方にはSequel LEはかなりお薦めだ。そして何よりSequel LEの素晴らしい点は、上位ソフトのCubaseなどと同じオーディオ・エンジンを搭載しているので、音質的にはCubaseと差は無いと言っていいことである。またSequel LEはワンウィンドウ設計になっており、初めて触る方でも直感的に作曲が始められる。オーディオとMIDIを意識することなく、欲しいループやフレーズをメディアベイからドラッグ&ドロップすれば作曲が始められるのだ。もちろんレコーディングも簡単で、ボーカル、ギターなど、CI1に接続できるものであれば、どんな音でも重ねていける。Sequel LEで作曲、ミックスが出来上がったら、次は波形編集ソフトのWaveLab LE7で曲の細かい調整や、いわゆるマスタリング的なこともできる(画面②)。このWaveLab LE7はCubase5などに入っているVST3に準拠したEQやリミッターなども付属しているので、音圧の調整などもコツをつかめば誰にでも可能だ。また今まで処理に困っていたレコードやカセットなどといった古いメディアをCI1を使ってデジタル化もできるので、WaveLab LE7を使ってアナログ・ライブラリーのデジタル・アーカイブ化をするのも良い。ただ一点注意しなければならないのが、CI1にはフォノ・イコライザーがないので、アナログ・レコードを取り込むときにはフォノ・イコライザーを通してライン・レベルにしてから取り込む必要がある。このようにCI1は初心者が始めて使うオーディオI/Oとしても、Ustreamなどで良い音質の放送をしたい方など、いろいろな場面で活躍できる仕様となっている。サイズもさほど大きくなく、USBバス・パワーで動作するので使い勝手も良い。この価格にピンときた方は、ぜひこの機会にCI1を導入されてはいかがだろうか。ci1_rear

▲リアパネル。左からUSB端子、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)、LINE OUT L/R(TRSフォーン)×1系統、MIC/LINE端子×1とMIC/LINE/Hi-Z端子×1(共にXLR/TRSフォーン・コンボ)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)撮影/川村容一
STEINBERG
CI1
オープン・プライス(市場予想価格/9,980円前後)
▪外形寸法/190(W)×44.6(H)×134.5(D)mm ▪重量/640g

▪Mac/Mac OS X 10.5.5以降/10.6.x、INTEL製CPU、1GB以上のRAM、1GB以上のハード・ディスク空き容量 ▪Windows/Windows Vista(32/64ビット)またはWindows XP Professiona(l SP3)/Home Edition(SP3)、2GHz以上のCPU(Dual Coreプロセッサー推奨)、1GB以上のRAM、1GB以上のハード・ディスク空き容量