リアルなコーラス/ハーモニーを自動生成するボーカル・プロセッサー

ROLANDVP-7
ボコーダー機能も内蔵したコーラス/ハーモニーに特化したボーカル・プロセッサー

ROLAND VP-7 オープン・プライス(市場予想価格/65,000円前後)VP-7はコーラス/ハーモニーに特化したボーカル・プロセッサーです。鍵盤の弾き語りなどで重宝するコーラス/ハーモニーを、お手持ちのMIDIキーボードに接続するだけで簡単に生み出すことができるばかりか、何とボコーダー機能まで装備されているというちょっと変わりダネであります。ポップスからテクノまで幅広く使えそうなVP-7。早速、検証してみましょう。

持ち運びやすい小型軽量マシン専用ヘッドセット・マイクも付属


VP-7を箱から取り出して最初に引かれたのは800gという軽さとコンパクトなボディです。これなら持ち運びが苦にならないですし、設置スペースを考えないで済むのも大変ありがたいですね。それでは、VP-7のスペックから見ていきましょう。入出力系統は、MIC IN(XLR/フォーン・コンボ)×1、LINE INPUT(ステレオ・ミニ)×1、OUTPUT(L/モノ、R:フォーン)×2、ヘッドフォン(ステレオ・ミニ)×1、MIDI IN×1、FOOT PEDAL端子×1となっております。
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▲写真① 同梱されるダイナミック型ヘッドセット・マイクDR-HS5。ボーカル・プロセッサーやボコーダーと好相性で、ハウリング耐性が高いことから、ライブでの演奏時もVP-7の性能を十分に発揮させる


では、実際にVP-7をセッティグしつつ、基本的な機能を確認していきましょう。 初めに、キーボードのMIDI OUTと本機のMIDI INをMIDIケーブルで接続します(MIDIキーボードが無くても音は出ますが、本機の各機能を使うにはMIDIキーボードと接続して使用する必要があります)。次にマイクを接続するのですが、うれしいことにVP-7には高性能なダイナミック型ヘッドセット・マイクDR-HS5が同梱されております(写真①)! もちろん他のマイクも使用できますが、やはりキーボードを演奏しながら歌うにはヘッドセット・マイクが最も有効でしょう。次に、つまみ類の機能を確認しておきます。まず、最も左側に位置するVolumeつまみではVP-7全体の音量を調整することができます。隣のMicつまみではマイクから入力された声の音量を、中央のHarmonyつまみではマイクからのダイレクト音と本機で生成されたコーラス/ハーモニーの音量バランスを調整することができます。最も右側のAmbienceつまみでは、ダイレクト音やコーラス/ハーモニーにリバーブをかけることができます。つまみを右に回すほど残響が深くなり、中央より右側へ回すとディレイ効果も加わるというスグれものです!

目玉機能のボーカル・デザイナーはピッチ検出の精度の高さが何より魅力


セッティングが完了したところで、いよいよVP-7の核心であるコーラス/ハーモニー生成にチャレンジ! VP-7には大まかに分けて、ヒューマン・ボイス、ボーカル・デザイナー、ボコーダー/バリエーションという3つの機能があり、それぞれを用途に合わせて選択します。ちなみに、複数の機能を組み合わせて使用することはできず、同時に使えるのは1つの機能のみとなります。まずはヒューマン・ボイスからいじってみましょう。パネル下方に位置するHuman Voiceと示された4つのボタン群がヒューマン・ボイス用の音色ボタンとなります。そのいずれかを押し、インジケーターを緑色に点灯させます。ヒューマン・ボイスはマイクからの音声が無くても、キーボードを弾くだけで4種類のリアルなヒューマン・ボイスを演奏することができる機能です。バリエーションの豊かさもさることながら、ベロシティによって音色自体が変化するなど、リアリティに富んだコーラス・アンサンブルを演奏することができます。音色は、女声コーラスが気持ちいいFemaleChoir、少年合唱サウンドのKids Choir、教会で歌われるような大編成合唱のGregorian Choir、ジャズのスキャットをサンプリングしたJazz Scatの4種類が内蔵されております。これらのサウンドはマイクからの音声と一緒に出力することも可能です。個人的にはFemale Choirが好印象でした。サウンドに適度なビブラートがかかっており、実際に使ってみると周りに女声コーラス隊がいるような臨場感を味わうことができ、ゾクゾクしました。
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▲図① Cメジャー・スケールの場合にボーカル・デザイナー各音色で自動生成されるハーモニー。黒色の音符はマイクから検知されたピッチを、白い音符は生成されるハーモニーを表している。マイナー・コードの場合は、3度上の音が長3度ではなく、短3度になる


次に、ボーカル・デザイナーをいじってみましょう。パネル下方に位置するVocal Designerと示された3つのボタン群がボーカル・デザイナー用の音色ボタンとなります。本機能は音色ボタンのインジケーターを赤色に点灯させると、VP-7へ入力したボーカルに対して自動的にバック・コーラスを付けてくれるというものです。これは本機の目玉機能と言ってもよいでしょう。音色は、マイクからの音声に対して高いピッチで1声生成されるDuet、高いピッチと低いピッチで1声ずつ生成されるTrio1、高いピッチで2声生成されるTrio2、これら3種類が用意されております(図①)。  本機能はマイクから検出されたピッチとMIDIキーボードから読み取ったコードを元にハーモニーを自動生成してくれるわけですが、特筆すべきは、一度でもコードを読み取らせればあとはボーカルのメロディにハーモニーを合わせてくれるという点です! 例えばキーがCのメロディを歌う場合、"ド、ミ、ソ"と鍵盤を押さえれば、それ以降はメロディに合わせてCメジャー・スケール上のハーモニーを作り出してくれるわけですね。素晴らしい! 転調する場合なども、コードを変えればそれに合わせて変化していきます。そして何より、ハーモニーの生成精度が高い! 筆者のような微妙な歌唱力でもうまく聴こえてしまうくらいです(汗)。肝心の音質もすこぶる良く、楽曲制作にも意欲的に取り入れていけるでしょう。曲頭で一度コードを押さえるだけで自動的にハーモニーが追随してくれるので、ピアノ弾き語りのライブなどではかなりの威力を発揮するのではないでしょうか。筆者個人としては、生成されるハーモニーのラインを参考にしてコーラス・パート作りを研究する、といった使用法も勉強になるのではないかと思います。

ライブ・パフォーマンスに強いハイクオリティなボコーダー機能


最後に、ボコーダーに触れていきます。前述までの機能から、VP-7はピアノ弾き語り系アーティストなどをターゲットにした"コーラス/ハーモニー特化型製品" かと思いきや、このボコーダーもオマケ程度では済まされないクオリティに仕上がっております!まず、パネル右に位置するVocoderボタンのインジケーターを点灯させます。音色は、金属的で抜けのよいトークボックス系サウンドのVocoder1、ビンテージ感が魅力的でオールマイティに使えそうなサウンドのVocoder2、和音は出ないながらもエレクトロなどのトガったジャンルにぴったりな金属的サウンドVocoder3の3種類が用意されております。ボタンを押すたびに音色を変更することが可能で、それに合わせてインジケーターの色が赤色、緑色、オレンジ色と切り替わる仕様になっております。ハービー・ハンコックの音楽を聴いてボコーダーにハマった筆者としては、どうしてもVocoder2の甘くて哀愁漂うサウンドに反応してしまいますね。いずれも完成度が高く感心しますが、何よりもレイテンシーをほぼ感じることなく演奏できる点に感動! ライブではレイテンシーの大きさが致命的な問題になりますので、この点からも本機がライブ・パフォーマンスに特化した製品だということが伺えますね。ちなみに、ボコーダーは完全なウェット音で使用するのがポピュラーなことから、筆者は本機のボコーダー機能を使用するとき、意図しない限りHarmonyツマミを右いっぱいに回してマイクからの生声を出力しないよう設定しています。ボコーダーのセクションにはバリエーションとしてさらに7種類の音色が用意されております! Vocoderボタンを押しながらヒューマン・ボイスやボーカル・デザイナーの音色ボタンを押すとバリエーション音色を選択することができます。ザっと音色を見ていくと、男声/女声パートを独立して持った混声合唱で重厚感あるサウンドのMale&Female、変声期の少年のような女声パートを持った混声合唱で透明感が魅力のKidsChoir、クラシック向け大編成合唱のClassic、メリハリのあるはっきりした音色のJazz Scat、シンプルなバック・コーラスのBackground、少数コーラスのPop、ゴスペル風サウンドが特徴のGospelといったラインナップになっております。バリエーションの特徴は、ボコーダー機能と前述のボーカル・デザイナーのようなハーモニー音色をミックスさせることができる点でしょう。例えば"ボーカルのピッチを鍵盤で演奏したいけど、ボコーダーよりもっと人間味ある音色でやりたい......"といった方などに向いているのではないでしょうか。透明感が大変気に入ったKids Choirで実際に歌いながら鍵盤で演奏してみましたが、完全に人間的なフィーリングは得られないながらも、リアルなフォルマントは素晴らしく、ボコーダーとは違った面白い使い方が期待できそうです。また、ボーカル・デザイナーで思い通りのハーモニーが得られなかった際は、バリエーション音色を使って自らハーモニーを演奏する方が良い結果が得られるかもしれません。個人的にボコーダーやボイス・プロセッサー系エフェクターは、ハード/ソフトにかかわらずいろいろと試してきましたが、ここまでお手軽感があり、なおかつ音質面のクオリティが高い製品にはなかなか出会えません。付属マイクも非常に良く、ハウリングしにくいばかりか、大音量で流れるバックのサウンドを拾うこともほとんどありませんでした。"とにかくコーラス/ハーモニーが欲しい!"といったボーカリストには必須アイテムになるのではないでしょうか。vp7_rear

▲リア・パネル。左から電源スイッチ、DC IN、MIDI IN、フット・ペダルといった端子群、中央にチューニングつまみ、ファンタム電源スイッチ、さらに右にMIC IN、ライン・インプット(ステレオ・ミニ)、アウトプットR&L/MONOといった端子群を配置する


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年7月号より)


撮影/川村容一
ROLAND
VP-7
オープン・プライス(市場予想価格/65,000円前後)
▪最大同時発音数/64音(音源負担に依存) ▪電源/DC9V(ACアダプター) ▪外形寸法/240(W)×144(D)×64(H)mm ▪重量/800g