斬新なミックス機能からエフェクトまで新境地に切り込むDJミキサー

PIONEERDJM-2000
フルデジタル・ミキサーの最高峰

PIONEER DJM-2000 オープン・プライス (市場予想価格/290,000円前後)1996年のDJM-500から始まったPIONEER DJミキサーの歴史も今年で14年。中でも、完全にワールド・スタンダードとなったDJM-1000&DJM-800は、その音質や使用感によって世界中のDJとクラブから愛され続けています。そんな中、100単位ずつDJM-1000まで刻んできた同シリーズに突如現れたフルデジタルDJミキサーの最新作、DJM-2000。先だって登場したCDターンテーブル、CDJ-2000が驚異の普及率で日本中、いや世界中のフロアを席巻する中、その母船とも言えるモンスター・ミキサーの登場ッス!!

7つの帯域別ミックスなど3つのパフォーマンス・モードを用意


DJブース内の機材構成が複雑になってきた近年、それをひとまとめにしてやろうという気合いがDJM-2000からビシビシと伝わってきます。どこから書けばいいのだろうと思うくらい、まさに具全部入りというか、PIONEERの培ってきたアイディアがてんこ盛りで、本機が同社の英知の結晶であることは間違いありません。中央に鎮座するのは業界初となる5.8インチの大型LCDマルチタッチパネル・ディスプレイで、これは多くのAPPLE iPhoneユーザーをも虜にするでしょう。このセクションには3つのパフォーマンス・モードが用意されており、"たたく" "なぞる"などのさまざまな操作でサウンドにアレンジを加えることができ、より感覚的にライブ感のあるパフォーマンスを可能にしています。
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▲画面① FREQUENCY MIXモードは、ミックスする2つのチャンネルを7つの帯域に分け、それぞれミックスすることができる。もちろん操作はこのタッチ・パネルで行える。これは斬新!


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▲画面② SIDECHAIN REMIXモードは、一方のチャンネルをトリガーにして、もう一方のチャンネルにエフェクト効果を与えられる。PITCHやGATEに加えてSAMPLERエフェクトが面白い


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▲画面③ MIDIモードはディスプレイにボタンやフェーダーの操作子を表示させ、そこをタッチすることで外部MIDI機器やDJソフトが操れる。計4種類のコントロール画面を用意する


パフォーマンス・モードの一つ目はFREQUENCY MIX(画面①)。これは楽曲の周波数帯域を7つに分けたバーチャル・クロスフェーダーでミックスできるモード。チャンネルの帯域を7つにスライスし(ダミアン・ハーストの作品のような感じで・笑)、その楽曲の周波数の多い帯域、少ない帯域がディスプレイで一目りょう然となります。そして画面上にある7帯域のクロスフェーダーでミックスできるのがスゴ過ぎで、音だけでなく、ディスプレイのビジュアルを見ながら操作できるというところがまたヤバイです。その混ざり方も絶妙で、サウンド&パフォーマンス共に新感覚。この機能の紹介だけでもこの原稿の文字数を埋められるほどです(笑)。従来の3バンドEQツマミよりももっと繊細なミキシングができるというだけで新感覚なのですが、操作がタッチ・パネルなので、従来両手を駆使してやっていたミックスが指先一つで瞬時に行えるようになりました。とにかくディスプレイで音の状態を確認できるので、片方のボーカルの帯域だけを残して次の曲に移行していったり、ハイハットやベース・ラインなどを小節ごとに切り替えていくなど、中指と人差し指だけでサウンドを操る感覚はまるで楽器のようで、触っていてワクワクします。二つ目はSIDECHAIN REMIX(画面②)という、指定チャンネルの音をトリガーにして、他チャンネルにエフェクトをかけることができる機能。これもまた癖になるでしょう。4種類の異なったエフェクト=OSCILLATOR/PITCH/GATE/SAMPLERが選べ、トリガーとなるチャンネルに合わせてOSCILLATORは本機内で作り出した音を出し、PITCHは音程を変え、GATEはゲート処理を施します。SAMPLERに関しては、トリガーとなるチャンネルのサウンドをサンプリングした後、その音がほかのチャンネルにミックスされるというもの。さらにLIVE SAMPLER機能というものもあり、本機のMIC入力やMASTERから出力した音をサンプリングして、CDJ-2000やCDJ-900で再生できます(後述のPRO DJ LINK機能で機材をつないだときのみ有効)。CDJでサンプルのプレイバックをするCUEボタン連打は一度やったら病み付きになるでしょう(笑)。シンガーやMCの居るクラブ・ユニットにはたまらない機能だと思います。そして三つ目はMIDI(画面③)のモードで、本機のディスプレイをMIDIコントローラーとして使うことができます。さすがDJブースを熟知したPIONEERならではで、画面のフォーマットも4つから選択可能。ボタンが並ぶ画面、フェーダーが付いた画面、XY軸のパッド画面など、さまざまなMIDI対応機材に対応する気マンマンの仕様です。クラブを主戦場にライブをする人には間違いない機能だと思います。とにかく、そのすべてをビジュアルとして確認できるのがスゴイです。

単体機をしのぐエフェクト・セクションオーディオI/O機能も便利


付属のエフェクト・セクションも強烈。サウンド・カラー・エフェクトの進化系と言えるINSTFXですが、DJM-800でおなじみのフェーダー上のFILTERツマミのほか、パネル左にPARAMETERを新設。ソフト~ハードまで自分好みにエフェクトのかかり具合を調節可能になり、ここでもDJの個性が出せそうです。そしてDJMシリーズの代名詞でもある、BEAT EFFECTも完全に継承しつつ、さらなる進化をしています。これはもう同社のエフェクト・ユニットであるEFXシリーズが入っているも同然ですね。エフェクトはNOISE/ZIP/CRUSH/JET/HPF/LPFの6種類。しかもEFXシリーズには無かった、3バンドの帯域ごとにエフェクトをかける量を決められるEFFECT FREQUENCYも搭載。そして同期系エフェクトは拍のセレクトがEFX-1000と同様にボタン式になったので(1/8~4/1まで7個用意)、瞬時にエフェクトのノリを変えられるようになりました。これらの機能プラス、前記のSIDECHAIN REMIXモードがありますから、エフェクトは既に無限と言っていいでしょう(笑)。これまで僕は、DJM-1000またはDJM-800を使うときは常にセンド&リターンでEFX-1000につないでいましたが、もうその必要は無いかも......と思ったのですが、本機を見ると依然センド&リターン端子が。今後、まさか"EFX-2000"のリリースがあるのか!?さらに、先ほど少し触れましたが、PIONEERがCDJ-2000で提示したスタイルが"PRO DJLINK" 機能です。1枚のディスクやSDカード、1本のメモリー・スティックの楽曲を複数(最大4台まで)のCDJから操れるこの機能は本当に衝撃でした。この機能がCDJ-2000の驚異の普及につながったのは間違いありません。この"PRODJ LINK"が、ミキサーのDJM-2000に搭載されてどう機能するのか気になるところでしょう。本機のリア・パネルには6つのLANケーブルの差し込み口があります(そのうち4つはCDJ用、2つはコンピューター用!!)。そしてUSBオーディオ・インターフェースも内蔵しています。つまり、コンピューターをダイレクトにつなぐことができて、1台のコンピューターから最大4系統のオーディオ信号を各チャンネルに割り当ててミックス可能。ついに来ました。来ちゃいましたね。これで思い出すのは、SONY PlayStation(プレステ)が出たてのころ、プレステのことを"ファミコン"と呼んでいた感覚......もはやCDJはCDを使っていないのです。楽曲制作をしている側からも言わせてもらえば、CDのフォーマットである16ビット/44.1kHzはもはや窮屈な時代なのかもしれません。しかも本機は24ビットADコンバーターはもちろん、32ビットDAコンバーターまで装備しています。また、本機に最大2台のコンピューターを接続できるので、音楽ファイル管理ソフトRekordbox(Mac/Windows対応)をインストールしたパソコン同士であれば、オーディオ・インターフェース接続の問題から解放され、コンピューターを使用するDJ同士の交代がスムーズに行えます。マスター・チャンネルの出力音声もダイレクトに本機からコンピューターに出力できるので、ミックスの録音はもちろん、Ustreamなどの使用でも非常に便利でしょう。
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▲写真① "HouseBeat 24HRS"は小生が24時間ぶっ通しDJをするパーティで、今年は5月22日に敢行。DJM-2000 とCDJ-2000×2という最強セットでプレイ


早速、小生が1年に一度、24時間プレイをするクレイジー・パーティ、"House Beat 24HRS"@京都WORLDに、本機を持ち込んで使い倒してまいりました(写真①)。さすがの長丁場でしたので、随分とDJM-2000と仲良くなりました(笑)。当然、必殺技も幾つか編み出しました。本機はものすごく繊細なこともできるし、ものすごく大胆なこともできる。現時点で思い付くことは全部できると思いました。そしてFREQUENCY MIXをはじめとした新機能は、触っていてとにかく楽しいし、面白いです。自分でも驚くようなアレンジになることも多々あり、ミキシングやサウンドも非常に感覚的に、そのときの気分に応じて楽器のように演奏できる振れ幅がとにかくヤバイです。DJM-2000の使用によってDJの個性がブーストされることは間違いないでしょう。これは新時代の幕開けです。 DJM2000_rear▲リア・パネル。上段は主にインプットで、CH1&CH4はPHONO/CD、CH2&CH3はLINE/CDと、各チャンネルごとに2系統の入力を用意(RCAピン)。CH2&CH3には同社製プレーヤーとのコントロール端子も付属。さらに上段にはS/P DIFコアキシャルのデジタル入力×4系統とデジタル出力×1系統も備える。下段は左からマスター出力1(XLR)、マスター出力2(RCAピン)、REC出力(RCAピン)を1系統ずつレイアウト。さらにブース出力、センド&リターンも1系統ずつ用意されている。下段右側にはCDJシリーズやコンピューターとつなぐLINK端子、MIDI OUT、USBがスタンバイ『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年7月号より)
PIONEER
DJM-2000
オープン・プライス(市場予想価格/290,000円前後)
▪周波数特性/20Hz~20kHz▪全高調波歪率/0.004%以下▪SN比/107dB(LINE)▪サンプリング・レート/96kHz ▪チャンネルEQ/HI:-26~+6dB(13kHz)、MID:-26~+6dB(1kHz)、LOW:-26~+6dB(70Hz)▪クロストーク(LINE)/82dB ▪外形寸法/430(W)×107.9(H)×409(D)mm ▪重量/8.5kg