バンド練習からフィールド録音まで対応可能なポータブル・レコーダー

SONYPCM-M10
無指向性ステレオ・エレクトレット・コンデンサー・マイク内蔵のポータブル・レコーダー

SONY PCM-M10 オープン・プライス(市場予想価格/30,000円前後)冬の冷たい空気は、なんだか音まで引き締めてくれるような気がします。そんな冬は、私にとって、絶好のフィールド・レコーディングの季節。ポータブル・レコーダーを持って外へ出かけていきたくなります。そんな中、SONYから手の平に収まるサイズのポータブル・レコーダーPCMM10が発売されました。そんなわけで、早速チェックしていきたいと思います。

物理的なボタンで分かりやすく突然の録音チャンスにも対応


SONY PCM-M10は、無指向性のステレオ・エレクトレット・コンデンサー・マイク内蔵のポータブル・レコーダーです。WAV(非圧縮)とMP3(圧縮)形式での録音に対応。WAV形式であれば、最高でサンプリング周波数96kHz、量子化ビット数24ビットというプロ・スペックでの録音が可能です。しかも4GBのフラッシュ・メモリーを内蔵し、前述のWAV形式(96kHz、24ビット)で1時間50分も録音が可能。単三乾電池2本だけで動作し、録音モニター不使用設定なら28時間も動くというのも経済的です。実際手に取ってみると、乾電池を入れた状態で187g程度と軽量。大人の片手にピッタリ収まるちょうど良いグリップ感の上、しっかりとした外装が安心感を与えてくれます(ストラップも付けられるので、落下防止もばっちり!)。何より、ポケットにすっぽり入ってしまうサイズはすごく便利です。フィールド・レコーディングにも出かけて
みましたが、ポケットからすっと出して録音ができます。カラー・バリエーションもありますし(写真1)、他人からも携帯音楽プレーヤーを操っているようにしか見えません。

▲写真1 カラー・バリエーション豊富なPCM-M10。ちなみにホワイトはWebサイト、ソニースタイル限定モデルとのことなので、早めにチェックしてほしい


さてさて、本体の横にある電源スイッチをONすると数秒で瞬く間に起動します。表面部には、昔ながらのレコーダーと同様、"録音" "再生" "一時停止"といったボタンが大きく並び、背面にはマイク感度切替と録音レベルのオート/マニュアル切替スライド・スイッチがあって、すごく分かりやすい! こういう風に、物理的なボタンがあることって結構重要で、現場での突然の録音チャンスや誤操作防止に役立ってくれるので
す。これに慣れちゃうと、面倒な電子式は使えません。液晶画面は比較的大きめで、録音残量や電池残量、ピーク・メーターが表示されます。ピーク・メーターは、十分に長いレンジで表示されるのでとても実用的です。バック・ライトを常時点灯しておくようにも設定できるので、暗闇での録音でもばっちりです。

現場で活躍しそうなオート録音レベル機能


録音は、マイク感度と録音レベルを設定した後、録音ボタンを押すとスタンバイ状態になるので、さらに一時停止ボタンを押すことでスタートします。ワンタッチで録音がスタートしないのは、少しややこしいのですが、これは慣れの問題でしょう。マイク感度は高/低の2種類から選べます。また録音レベルは、オートとマニュアルが選べるのですが、SONYのリニアPCMレコーダーでは初搭載になる"オート" がかなり使えます!
急な大音量入力にもきちんと追従し、ひずみませんし、現場で大活躍しそうな機能です。これなら失敗もありません。一方、ダイナミクスのあるサウンドを高音質で録音したい場合には、マニュアル・モードがお勧めです。マニュアルの場合はピークを超えないよう、右側にある大きなレベル調整ノブで録音レベルを調整します。電子式ではなくノブで用意されているのはすごく重要で、直感的に調整ができる上、録音中でもいじれるのがうれしい。床に直接置いた場合も、つまみが浮いた状態になって操作ができ、"おまけ"じゃなく、しっかり現場での操作を考えているなと感じました。また、ピーク・レベル合わせは、本体上部にあるピーク・メーター・ランプを使うと簡単です。−12dBランプが点灯し、OVERランプが点灯しないようにレベルを調整すれば良いので、液晶をのぞき込まなくても、直感的に合わせることができます。マニュアル時に使えるリミッター機能も優秀で、突然の大音量でも、不快なデジタル・クリップを防いでくれます。録音されたファイルは、"日付+番号"という名前で保存されるので、後で見ても、簡単に日付で探せます。

内蔵と外部のメモリーが併用可能なクロスメモリー機能


本機には、録音した素材のピッチや速度を変更できる機能が付いているのも便利です。カラオケみたいに、テンポはそのままで曲のキーを自由に変えられるので、カバー曲の練習などではキーを上げ下げして練習ができます。また市販のmicroSD/SDHCカードを装着し、録音時間の拡張が可能。今、microSDってすごく安いので、複数ストックしておけば録音時間不足に困ることは無いでしょう。本体がいっぱいになった際、自動でmicroSD側に録音を移行するクロスメモリー機能もついているので便利です。また、本機はMP3/WMP/WAVを再生できる携帯音楽プレーヤーとしての顔も持っています。内蔵スピーカーも付いているので、バンド録音したものを、すぐ聴いてチェックできます。ちなみに、有線(180cm)のリモコンが付いているので、遠隔録音操作も可能。通常、録音のボタン操作で本体を触ると、がさがさしたノイズが入ってしまいますが、そんなノイズを避けられます!さて内蔵マイクの音質ですが、バンド演奏を録音してみたところ、数百Hzのバスドラの音から、数十kHzまで、しっかり録音できていました。レンジが広くフラットな印象。すごく加工しやすそうな音なので、オールラウンドに使えるのではないでしょうか。この価格帯だからといって、あなどれません! LCF(LOW CUT FILTER)機能を
使えば、低い周波数をすっぱりカットできるので、自動車のモーター音などのノイズも除いてくれます。無指向性のマイクなので、ポイントが多少外れても、周りの音をしっかり録音できるのは、すごくうれしいところ。もちろん、プラグイン・パワー対応のマイク端子やライン入力も付いており、別売りの単指向性マイクやウインド・スクリーン(写真2)、キャリング・ケース・スピーカー(写真3)など専用のオプションを付けて拡張できるため、ポテンシャルは高いです。

▲写真2 内蔵マイクにジャスト・フィットするウインド・スクリー
ン、A D - P C M2(オープン・プライス/市場予想価格5,000円前後)



▲写真3 専用のキャリング・ケース・スピーカーCKS-M10(オー
プン・プライス/市場予想価格8,000円前後)


ほかにも、工夫次第でいろいろな使い方が考えられます。例えば人が入れない隙間や小さな箱の中に入れて録音してみたり、廊下に置いて足音や振動音を録音してみたり。筆者のバンドoscillatorでも、自転車の車輪の回転音や冷蔵庫のモーター音など、さまざまな音をEQやエフェクターで加工し楽曲にとりいれています。音声編集のソフトSound Forge Audio Studioも付いているのでエディット作業も可能です(画面1)。ソフト音源だけで作品を作っている人などは、うまくとり入れることで作品の立体感が違ってきますよ。さらに町の雑踏の音でも、高域や低域だけを取り出してみると、普段、認識できない世界が見え、すごく刺激的です。

▲画面1 同梱の音声編集ソフト"Sound Forge Audio Studio LE"。PCM-M10本体で設定したトラック・マークをコンピューター上でも認識可能で、クロスメモリー録音によって内蔵フラッシュメモリーとメモリー・カードにまたがって記録されたデータ・ファイルの結合が可能など、音源の加工、オリジナルCDの作成などもできる


本製品は、小型で長時間の録音ができるので、バンド練習からフィールド・レコーディングまで、どこでも持っていって録音できるフットワークの軽さがあります。さすが、DATなどでノウハウを持っているSONYらしい製品だと感じました。

▲本体上部 左からプラグイン・パワー対応のライン入力、マイク端子



▲本体右側 左からリモコン用端子、ホールド・スイッチ、録音レベル調節ダイアル、マイク(Rch)



▲本体左側 左からマイク、ライン・アウト(ステレオ・ミニ)、USB端子、メモリースティック マイクロ(M2)/microSDスロット、ACアダプター


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年1月号より)
SONY
PCM-M10
オープン・プライス (市場予想価格/30,000円前後)
▪録音方式/リニアPCM(WAV)、MP3▪内蔵記録メディア/4GBフラッシュ・メモリー▪外部記録メディア/メモリースティック マイクロ(M2)/microSD/microSDHC(別売)▪対応オーディオ形式/WAV(24/16ビット、96/ 48/44.1kHz/22.05kHz)、MP3(320/128/64kbps、44.1kHz)▪電源/ACアダプター(AC100V、50/60Hz)、単3形アルカリ乾電池2本(付属)、単3形ニッケル水素充電池NH-AA 2本(別売)▪入出力端子/MIC(ステレオ・ミニ)、ヘッドフォン(ステレオ・ミニ)、LINE IN(ステレオ・ミニ)、LINEOUT(ステレオ・ミニ、ヘッドフォン・ジャック兼用)、DC IN 3Vジャック(極性統一型プラグ)、USB端子、メモリースティック マイクロ(M2)/microSDスロット▪外形寸法/62.0(W)×114.0(H)×21.8(D)mm▪重量/約187g(電池含む)