センターが"点"に凝縮されるほど位相の良いデジタル・スピーカー

M-AUDIOStudiophile DSM3
センターのボーカルが中央に張り付く、中高域にかけての位相の良さ。

M-AUDIO Studiophile DSM3 オープン・プライス(市場予想価格/128,100円前後/1本)今回ご紹介するのは、M-AUDIOとDIGIDESIGNの共同開発によるスタジオ・モニターStudiophile DSM3です。写真を見ていただければお分かりの通り、なにやら語るべきところの多そうなスピーカーですね。早速見ていきましょう。

デュアル・ウーファーのユニット構成。EQで細かな調整が可能


本機はスタジオ用のモニター・スピーカーとしては中くらいの大きさで、YAMAHA NS-10Mの一回り大きいサイズ。当方が使用しているGENELEC 1031Aと同等の大きさで、スタジオなら普通、自宅などではそこそこ大きなクラスに入るパワード・スピーカーです。本機の特徴は、まずご覧の通り目を引く正面のユニット構成。最近ちらほらと目にするようになってきましたが、ミッドウーファー/ツィーター/ミッドウーファーというデュアル・ウーファーのユニット構成になっています。そして音の内部処理にDIGIDESIGN製オンボードDSPを使用、DSP制御のデジタル・クロスオーバーとEQ、さらにClass Dデジタル・パワー・アンプを採用しています。入力はアナログ/デジタル両方の入力端子を装備していて、アナログ入力はXLRとTRSフォーン(ともにバランス入力、入力感度を+4dBu/−10dBVで切り替え可能)、デジタル入力はAES/EBU、S/P DIF端子を装備、最高24ビット/192kHzまで対応しています。 リア・パネルでひときわ目を引くのが音質補正用のDIPスイッチ。計12個のスイッチの組み合わせで、ハイシェルフ/ミッド/ローシェルフ/ハイパス・フィルター、そして"デスクトップ・フィルター"と呼ばれる175Hz/200Hz/220Hzの計7カ所のポイントすべてを、4段階でかなり細かく調節できます。マニュアルによると、縦置きで設置する場合は左右のツィーターがそれぞれ外側になる向きにし(R側のスピーカーは上下逆さに置くことになります)、横置きの場合はツィーターが上側にくるように置くとあります。なるほど、デュアル・ウーファーで上下に線対称な構造なので、逆さにしても上下の位置関係は変わらないということですね。それによって、5.1chサラウンド・セッティング時のように複数本必要な場合でも、問題なくセッティングできるであろうことがうかがえます。

実音とリバーブ成分がにじまずにハッキリと見える


早速セッティングして、EQをすべてフラットの状態でチェックしてみましたが、まず中高域にかけての位相の良さに驚きました。これはすごい。センターのボーカルがビシッ!っと中央に張り付きます。パンニングされた音もそれぞれの場所にカチッと聴こえます。その後ろにリバーブ成分がワイドに広がっているのも見える。位相が良いので、必然的に実音と空間処理成分(リバーブなど)のメリハリが、にじまずにハッキリと出ています。同軸系のユニットのように指向性が特に強いというわけでもないのに、ここまで位相が良いのは本当に驚きました。自分が今まで思っていた"センター"よりもっと限りなく"点"に凝縮したセンターの音像で、ものすごく新鮮です。これだけ位相がいいということは、当然ユニット駆動のレスポンス精度/スピード感なども良いはずで、内部デジタル処理の優位性を感じます。当方の環境だと少々低域が出過ぎる傾向だったので、前述のDIPスイッチで細かく調節してみます。いろいろいじってみて思ったのですが、EQが7ポイントでそれぞれ4ステップもあると、これ、どうにでもなるじゃん!という感じです。アナログ回路でこれをやろうとすると、かなりの数の接点/素子になりロスが増えてしまうところでしょうが、これもDSP処理のおかげでバイパス・ポイントを完全に無いものにできたり、左右の素子による微小なレベル差/時間差で位相が崩れる心配もなく、かなりフレキシブルに設定できます。低域があまり多過ぎると中高域が聴きづらくなるので、本機のように低域の調整が細かくできるのはとても助かります。依然として超低域がスピーカーの後ろの方で響いている感じがしたので、ハイパス・フィルターで40Hz以下をカットし、ローシェルフを−1.5dB、デスクトップ・フィルターの200Hzを−1dBにしたあたりで落ち着いてきました。中低域にもう少しパンチが欲しいとも感じましたが、本機はデフォルトで豊潤な低域を、EQやフィルターで削っていくことで音を作るタイプのスピーカーということなのでしょう。Studiophile DSM3には"かなり新鮮な音像"という印象を受けました。実際、個人的にあったデジタル・パワード・スピーカーに対しての若干の抵抗感が払拭されたと言っても過言ではありません。"デジタル臭い"と言われてしまえばそれまでですが、ここまで十分な性能を有していれば、むしろ有利な点の方が多いのではないかと思います。この先、世の中はどんどんこの方向になっていくのではないでしょうか。ある程度大きなサイズのモニターをお探しの方は、ぜひ候補に入れてみてください。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年10月号より)撮影/川村容一
M-AUDIO
Studiophile DSM3
オープン・プライス (市場予想価格/ 128,100円前後/1本)
▪周波数特性/37Hz〜27kHz▪入力インピーダンス/20kΩ▪最大入力レベル/18dBu▪外形寸法/270.3(W)×404(H)×262(D)mm▪重量/10.6kg