リニアかつクリアな音質が魅力の中型PA用コンソールの新シリーズ

YAMAHAIM8-24

最近、現場で使用するコンソールの頻度としてデジタル/アナログが半々となってきた印象を受けますが、まだまだアナログ人気は根強いようです。本番中の急な変更にも対応できるし、何と言ってもアナログ・コンソールには、"音の存在感"があります。私が仕事を始めたころは、32chのアナログ・ミキサーが出回り始めたころで、当時の価格は高級車を買える値段でした。しかし現在では、さまざまなメーカーが競ってコスト・ダウンし、お世辞にも"完ぺき"と呼べる商品が少なくなったのも事実です。そんな中、老舗のYAMAHAより中型で、価格もびっくりするほど低価格なコンソールYAMAHA IM8シリーズが発表されました。その中でも、今回はIM8-24をレビューしていきたいと思います!!

同社30年のノウハウをつぎ込んだ
現場を知り尽くした細かな気遣い


まず、手元に届いたときに驚いたのがその大きさです。一昔前の同社のコンソール、PMシリーズを少し小さくした感じなのですが、内容やボリュームは全くPMシリーズのひけをとりません!むしろIM8の方が洗練されているし、重さも断然軽い!!このIM8シリーズは、今回レビューするIM8-24のほかに、32モノ+4ステレオ仕様のIM8-32(オープン・プライス/市場予想価格520,000円前後)、40モノ+4ステレオ仕様のIM8-40(オープン・プライス/市場予想価600,000円前後)がラインナップされています。さて、IM8は、“YAMAHAの30年に及ぶ業務用PAコンソールのノウハウと技術をつぎ込み、原音に忠実で高い解像度の音質を、国内製造による高い製造品質と信頼性で実現”とうたい文句にもあるように、パネルを見渡すだけで私たちPAマンすべてが納得のいくようなコンソールに仕上がっているようです。基本的な仕様としては、24モノラル・イン/4系統ステレオ・イン、8バス、8AUXアウト、4マトリックス・アウト、2ステレオ・アウト、1モノラル・アウトとなっています。個人的にまず驚いたことはIM8シリーズ専用のパワー・サプライ、PW8(オープン・プライス/市場予想価格80,000円前後)があること。最近の小中型コンソールは本体内蔵タイプが多い印象でした。しかし現場をよく知るYAMAHAだからこそ“電源は別”なのでしょう。もちろん、リダンダント(トラブル時に予備の電源へ自動的に移行する二重化システム)も可能で、不意の電源供給ダウンといったトラブルを回避することができます。しかも消費電力は200W前後と、かなりの省電力。このサイズで容量のことを考えずにコンサートのプランニングをできるのも魅力です。

各チャンネルにコンプを実装
分かりやすく妥協の無いトップ・パネル


トップ・パネルのレイアウトは、IM8シリーズ共通のセンター・マスター仕様。左からモノラル入力16ch、ステレオ入力4系統、そしてマスター・セクションを挟んで、残りのモノラル入力8chが右側に並びます。見た目やつまみなどの配色もカラフルで分かりやすく、パネル上を触りやすいのがうれしいです。モノラル・チャンネルにはファンタム・スイッチ(+48V)、PAD(−26dB)、ゲイン・トリム、フェーズ、ハイパス・フィルター(80Hz、12dB/oct)、4バンドEQ(HIGH/シェルビング/10kHz、HI-MID/ピーキング/400Hz〜8kHz、LO-MID/ピーキング/80Hz〜1.6kHz、LOW/シェルビング/100Hz)、EQスイッチ、3セグメントLEDメーター、さらに以前私がレビューした同社のコンソール、EMX/MGシリーズから開発され登場したコンプ、“1ノブ・コンプレッサー”も各モノラル・チャンネルに装備。これはつまみ一つでコンプレッサーの設定を調節できるもので、ちょっとコンプを使いたいときや、現場で急にインプットが増えて、アウトボードのコンプレッサーが足りなくなったときにも大いに役立つことでしょう。またステレオ・チャンネルにはゲイン・トリム、4バンドEQ(HI/シェルビング/10kHz、HI-MID/ピーキング/3kHz、LO-MID/ピーキング/800Hz、LOW/シェルビング/100Hz)、EQスイッチ、3セグメントLEDメーターが用意されています。さらに、全チャンネルで100mmフェーダーを装備し、ミュート・グループを4つまで組むことも可能です。マスター・セクションのグループ・アウトにも100mmフェーダーを、またAUXセンドには60mmフェーダーを採用し、両者ともに3セグメントLEDメーターまで装備と、大型コンソールと全く変わらない充実した仕様と言えます。通常この価格帯の製品では、細かい部分でいろいろと妥協されてしまう機能がありがちですが、IM8-24を見る限り、全くそのような印象を受けませんでした。8系統のAUXセンド出力にインサート端子(TRSフォーン)が装備されているのもその一つでしょう。この端子によって、モニター用にグラフィック・イコライザーなどを通す場合、AUXセンドにインサートすることで、変化後の音をヘッドフォンなどで確認することができます。ささいなことに思えるかもしれませんが、これができるかできないかはステージ上のミュージシャンにとっては大きな問題なんです! さらに、すべてのチャンネルにダイレクト・アウト(TRSフォーン)が実装されているのも好印象です。

S/Nも良くリニアな音質
USB端子付きでデジタル録音も可能


次に、現場での使用感や感想をレビューしていきましょう。まずはSHUREのダイナミック・マイク、SM58を入力してしゃべってみました。純粋な感想として、音量を上げたら上げた分だけ“距離感が近くなる”という印象です。これは余裕のある良いヘッド・アンプにしか出せない感じと同じです。単純に音量の上げ下げではないリニアな音質ですね。ちなみにびっくりすることに、SM58のS/Nが気になるほど本機のS/Nは良好でした。このサウンドの透明度によって、これから行うミックスへの期待が膨らみます。続いて実際にPAの現場で使用してみましょう。今回はスタンダードなジャズ・バンドのライブで本機の使用感をチェックしてみました。軽くサウンド・チェックを済ませ、リハーサルに突入です。途中で急きょゲストが入ることになったのですが、これだけ多くのアウトを備えているので、もちろん問題ありません! しかも“本番前にリハーサル音源を確認したいので録音したい”と注文がありました。そんなときのためにIM8シリーズでは、最近YAMAHAのお家芸になりつつあるUSBオーディオ入出力機能が装備されています。本機とDAWなどをインストールしたコンピューターをUSBで接続するだけで、録音や再生が簡単に行えるのです。しかも、DAWソフトのSTEINBERG Cubase AI4もバンドルされています。このように、本機では簡易デジタル・ライブ録音も可能なので、今回のアーティストからの要望にも二つ返事で応え、レコーディングすることができました。なお本機のリア・パネルに搭載されているマトリックス・アウトなどの充実したアウト群を利用して、従来通りのライブ・レコーディングももちろんへっちゃらです。また、細かいことになってしまうかもしれませんが、最近は、バンド側からの要望で開場ぎりぎりのタイミングで急にMP3プレーヤーなどから客入れ用BGMを出さなければいけなくなることがよくあります。そんなとき、本機は2トラック・イン(ステレオ・ミニ)なるインプットが、フロントのヘッドフォン端子の隣に用意されているので、ここに接続してしまえばいいというわけです。イライラしながら卓の裏側に回ることはありません。なんて素晴らしい心遣いなのでしょう!“あったらいいな”レベルの細かいことまで受け入れつつ、財布に優しいIM8。“こんなことなら今PAを始めれば良かった”と思わせてくれるコンソールです!!20081001-02-002

▲IM8のリア・パネル。モノラル入力は右側にch1〜16、左側にch17〜24をレイアウト。各モノラル入力は上からインプットA(XLR)、インプットB(TRSフォーン)、インサート(TRSフォーン)、ダイレクト・アウト(TRSフォーン)で構成。ch16の左に見えるステレオ入力×4は上からインプットB L/R(RCAピン)、インプットA L/R(TRSフォーン)を用意。その左上段はステレオAUXリターンL/R(フォーン)×4。その下はグループ・アウト×8(TRSフォーン)でインサート(TRSフォーン)×8も装備。その下はAUXセンド(XLR)×8でこちらもインサート(TRSフォーン)×8を実装。その左は上からトークバック用マイク入力(XLR)、2トラック・イン(RCAピン)とRECアウト(RCAピン)、モノ・インサート(TRSフォーン)とモノ・アウト(XLR)。さらに左は上からモニター・アウトL/R、ステレオ・インサートL/R(TRSフォーン)とステレオ・アウト(XLR)、マトリクス・アウト(TRSフォーン)×4、USB端子。LAMP 12V端子(XLR)×2も用意


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▲IM8-24、IM8-32、IM8-40の3機種で使用できるオプションの専用パワー・サプライ、PW8のフロント・パネル。POWERスイッチの右にあるのが、ミキサーの4系統の電源の状況を確認できるオペレーション・モニター(+48V、+12V、+15V、-15V)


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▲PW8のリア・パネル。接続端子は左からPW8を並列するためのDCパラレル・インプット、ミキサー本体と接続するためのDCアウトプット端子、AC IN端子

YAMAHA
IM8-24
オープン・プライス(市場予想価格/450,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz
▪全高調波歪率/0.1%以下
▪クロストーク/−70dB以下
▪消費電力/200W(PW8使用時)
▪外形寸法/1,716(W)×219(H)×739(D)mm
▪重量/37.5kg
▪付属品/オーナーズ・マニュアル、パワー・サプライ・リンク・ケーブル(3m)、USBケーブル、STEINBERG Cubase AI4