多彩なグルーブを容易に生成可能なバーチャル・インストゥルメント

DIGIDESIGNTransfuser

高い信頼性を誇り、良質な音源を数多く発表してきたDIGIDESIGN/A.I.R.がリリースしたバーチャル・インストゥルメント=Transfuser。Pro Tools専用“リアルタイム・ループ/フレーズ/グルーブ・クリエイションのRTASワークステーション”とのことで、これまで同社の製品群において未開拓とされていた分野の補完がまた一つ前進しました。さて、その実力やいかに?

高品質のオーディオ・ファイルが付属
プレビューの操作性も良好


Transfuserは、店頭のほかDIGIDESIGNのWebサイトよりダウンロードで購入が可能。まさに思い立った数分後には使えるようになります。パッケージにはインストーラー、オーディオ・ファイル(ループ素材)、その他の書類が同梱されていて、気になるオーディオ・ファイルの容量は約2GBと必要十分。最近では何十GBもの巨大ライブラリーが付属する製品も見かけますが、さまざまな状況に即対応しなければならないプロの現場でもない限り2GBで十分ですし、むしろこのくらいの方がストレス無く楽しめます(笑)。また“量より質”が求められる現場においても、特筆すべきクオリティを持った音源が数多く収録されているので、安心して購入できると思います。では早速、本製品を触りながらトラックを組んでみましょう。DIGIDESIGN Pro Toolsのセッションにインストゥルメント・トラックを作成し、Transfuserをインサートします。メイン画面の左にブラウザーがあるので、そこに表示されるフォルダーをダブル・クリックしていくと、ドラム/フレーズ・ループ、もしくはオーディオ・ファイルにたどり着き、それをクリックしたままの状態にするとサウンドがプレビューされます。このプレビュー再生の時点で、ブラウザー下部の“SYNCボタン”を点灯させれば(デフォルトでオンの状態)Pro Toolsセッションのテンポにシンクした状態で再生します。ほかにピッチ/ボリュームを変更できるフェーダーも搭載されているので(画面①)、プレビューの時点で、例えばドラムを非常に高いピッチで試聴できるなど、多彩な再生が可能となっています。決して派手ではありませんが、いったん仕上がった楽曲にスパイス的な要素を加える場合など、瞬時にクレイジーな設定と試聴が可能なこの機能は見逃せません。20081001-01-001▲画面① メイン画面左にあるブラウザー下部のPREVIEWボタンをオンにすると、選択したファイルをその場で試聴できる。右のSYNCをオンにするとPro Toolsセッションと同期したテンポで再生。PITCHのフェーダーを動かすことで、思わぬ音色が得られることも!

使えるフレーズを自動作成する
M.A.R.I.O.機能


プリセット音源ですが、ヒップホップ畑の筆者からすればドキドキしてしまいそうな音源も随所に散りばめられてます。かなり笑えるし使えるしで、それはもう大変な騒ぎです(笑)。かくして自分にピタッとくるループ/オーディオが見つかったら、そのファイルをそのまま右側のトラックにドラッグ&ドロップすると、瞬時にそのループのコントロール画面が展開されます(画面②)。Transfuserでは読み込んだオーディオ・ファイルを解析して、任意もしくは自動的にスライスしてくれます。同時にシーケンスも生成されるので、シーケンサー・モジュールを駆使すれば非常に多彩なグルーブを生み出せます。20081001-01-003▲画面② Transfuserにオーディオ・ファイルを読み込むと同時に展開されるモジュール群(左からトラック、シーケンサー、インポートしたオーディオでフレーズを生成する際に使用するシンセ、エフェクト、ミックス)。これらのモジュールを駆使して、サンプルの精密なエディットが可能だ 本機は各操作子のレイアウトも本当に分かりやすく、実際に欲しい機能が“まさにそこに配置されている感じ”は賞賛に値するのではないでしょうか。ライブでのリアルタイム演奏を意識しているのか反応も非常に速く、実際に使っていると、曲作りを忘れてリアルタイムで音をどんどん変化させるのに没頭してしまいました。その多彩なグルーブの生成に一役買っているのが、シーケンサー・エディターに搭載された本製品のウリとも言える“M.A.R.I.O.”機能です(画面③)。Targetランチャーで対象(ノート/ベロシティ/カットオフ/ディケイなど)を選択し、APPLYボタンを押すだけで、瞬時にランダマイズされたパターンが生成されます。“ランダムなアルペジエイター”に似た機能なのですが、その名の通り(M.A.R.I.O.のMはMusically)結果が非常に音楽的。ターゲットによって柔軟にパターンを生成できます。筆者のようにあまり音楽的ボキャブラリーの無い人間には、うってつけの遊び道具が用意されているわけですね(笑)。20081001-01-004▲画面③ M.A.R.I.O.は多彩なパターンを生成できるランダマイズ・アルゴリズム。ドラムの場合は選択したノートだけに適用されるなど、使い勝手も抜群こうしてドラムからウワモノ、ベースといった楽曲の根幹をなす素材から、スパイス的な要素としてエフェクティブなSEやパーカッションをサクサクと選んでいきます……と容易にはいかないはずの楽曲制作ですが、Transfuserはいとも簡単にそれを実現してくれます。そのアドバンテージを確実なものとするために大きな役割を担っている機能が“Groove”。各ループのシーケンサー・モジュール、マスター・セクションにそれぞれノブが用意されていて(画面④)、これらを操作することで曲全体のグルーブまで制御できるようになります。このGrooveのコントロールは、デフォルト状態ではトラックによって全自動で設定される仕様になっており、これがスムーズに楽曲を構築する秘けつとなっているように思います。この機能のおかげで、突拍子のないサウンドでも元曲のグルーブに合わせて再生することができ、流行の音色の組み合わせなど、意図せずとも簡単に実現可能となるわけです。20081001-01-005▲画面④ Grooveノブは各トラックのシーケンサー・モジュールのほかマスター・セクションにも装備。設定に応じてグルーブのタイミングを0〜100%で細分できる

Pro Toolsとの連携で
サンプリング時も良好な操作性


筆者の場合、こうしたプリセット音源ばかりでなく、煮えたぎるようなアツいネタをサンプリングするのもトラック・メイクにおいて外せない工程の一つ。Transfuserはこの点の使い勝手も制作上好ましいものになっています。そのキモは“速さ”と良い意味での“雑さ”。Pro Toolsのセッション上から直接リージョンをドラッグ&ドロップするだけで音色をアサイン可能なのは、筆者が普段から愛用している同社のソフト・サンプラーStructureゆずりのダイレクト感。Transfuserでは、取り込んだサンプルを“どのように使うか”を選択するだけで(画面⑤)、先に述べた先進の機能を使うことができます。先ほど“雑”という言い方をしましたが、これは良い意味でアグレッシブということ。このサンプリング機能を駆使すれば、ライブ中にPro Toolsセッションに録音したオーディオを即座にTransfuserに放り込んでネタ弾きやプロセッシングが可能となるため、ライブなどでもかなり重宝するのではないでしょうか?20081001-01-006▲画面⑤ Transfuserにオーディオ・ファイルを読み込むと、左のような“Import as...”の画面が表示される。オーディオを自動的に切り分けてシーケンスを生成、タイム・ストレッチする、切り分けたオーディオをサンプル・パッドに自動的に割り振ってシーケンスを生成する、などここでオーディオをどのように扱いたいかを指定する ライブと言えば気になるのが操作系。キーボードやパッドなどのMIDIコントローラーでの操作もかなり簡単に設定できるようになっています。“ここはMIDIでザックリいじりたい”なんて思うノブのほとんどは、右クリックでMIDIラーンが可能(画面⑥/写真①)。フィルターのカットオフやディケイ操作はもはや常識ですが、ほかにも扱えるパラメーターは多岐に渡るため、これまで聴いたことがないような演奏ができるでしょう。20081001-01-007▲画面⑥/写真① Transfuser上でMIDIコントロールしたいパラメーターを右クリックして“LEARN CC”を選択、接続したコントローラーの操作子を動かすだけで、そのパラメーターを制御できるようになる 初めは様子見程度でトラックを組み始めましたが、ザックザクと使える機能やサウンドが飛び出すため、いろいろなことに触れてしまいました。ライバル製品が乱立する中、市場に投入されたTransfuser。これまで述べた機能のほかにも、スライスしたオーディオ・ファイルを自動的にサンプル・パッドに割り振ってくれたり、4系統のエフェクトが使えたりと、“本当に分かってるなコイツ”というのが筆者の感想です。すぐにでもやりたくなったのが“自分専用化計画”。持っている音ネタやドラム音源、ループなどをTransfuserのライブラリー化することで、かなり強力な制作ツールになってくれそうです。ちなみに手前ミソですが、筆者のプログラミングした楽曲で本機のプレビュー版の音色を使用したものが既に2曲ほどリリースされています。もしよかったら探してみてください。結構分かりやすいと思います(笑)。最後になりますが、近年DIGIDESIGNのWebサイトはかなりスタイリッシュにリニューアルされていて、動画でTransfuserの使い方を紹介してくれるコンテンツなどがアップされています。実際、それらを参考にするだけでほとんどの機能を使いこなせるようになるので、筆者と同様の“マニュアル嫌い”には朗報と言えるでしょう。
DIGIDESIGN
Transfuser
34,650円

REQUIREMENT

■Windows/Mac/Pro Tools 7.0以降が動作している、DIGIDESIGNが動作検証を行ったPro Tools|HD、Pro Tools LE、Pro Tools M-Poweredシステム、iLok USB Smart Key(インターネット・アクセスとオーソライズに無償提供されるiLok.comアカウントも必要)