自然に伸びる低音域が魅力の自宅作業に適したパワード・モニター

KRKVXT4

米国KRKよりパワード・モニター・スピーカーの新シリーズが発表されました。VXTシリーズと名付けられたこのシリーズは同社Vシリーズの最新型と言える製品です。筆者は前身のV8、V8 Series 2とかれこれ5年程KRKのスピーカーで作業しています。当時、他社製品を使用していた筆者にV8は音の広がり、奥行きというものを気付かせてくれました。長時間聴いていても疲れないというのにも引かれたことを覚えています。KRKサウンドと言えば見た目も特徴的な黄色いユニット、ケブラー・コーンから再生される柔らかな低音が大きな特長です。そして音の奥行き、ニュアンスまでもリアルに再生してくれる音楽的なスピーカーだと私は思っています。

丸みを帯びた独特な形状の
シリーズ最小モデル


今回は1インチ・シルク・ドーム・ツィーターと、新しい4インチ・ウーブン・ケブラー・ウーファーを搭載した本シリーズ最小のVXT4をチェックしてみます。まずはその独特な形状から。同社フラッグシップ・モデルのExposé E8Bに近い丸みを帯びたエンクロージャー・デザインは、角を無くすことで余分な共振を防ぎ伸びやかなローエンド、幅広いスイート・スポットを実現しているようです。何より見た目に高級感がありますね。背面を見てみるとインプット・トリム、クリップ・インジケーターのON/OFF、スピーカー保護のためのリミッターのON/OFF、約20分間信号が入力がないと自動的に電源が落ちる、節電のためのオート・ミュート機能のON/OFFスイッチがあります。このサイズで自宅作業レベルの音量ではクリップ・インジケーターもリミッターもOFFでよいと思いました。また、音場調整用のイコライザーなどは装備されていません。確かに、部屋の影響を受けにくい小音量で聴くことを前提としている本機には必要ないかもしれませんね。潔いです。あと細かいことですが、これらのスイッチにカバーが付いているのには好感が持てました。筆者のV8は移動も多くその際、背面のスイッチが変わってしまうという事故が何度かありました。今では作業前に必ず自分で確認しています。底面にはゴム・マット状のシートが敷かれ、これも余分な振動を軽減するのに一役買っているそうです。そのほかオプションでスピーカー前面を保護するネット、自由な設置を可能にするOMNI MOUNT製の金具も用意されています。周波数特性も拡大し、スペック的にも改良された本シリーズ、KRKの本気を感じます。

スッと伸びる高域は
部屋の広さを充実に再現


早速ビクタースタジオの302Stにおいて、アコースティック系バンドのセッションで使用してみました。メンバーがコントロール・ルームの後ろにいる状況で、大音量ではなく適度なボリュームで鳴らしていると、“これ、ホントに小さいモデルですか?”との声が。このサイズから再生されているとは思えない自然に伸びた低音にメンバーもビックリしていました。バスドラの量感やベースとの位置関係などがちゃんと分かります。高音域もスッと伸びていてシンバルの余韻、部屋の広さを忠実に再現してくれます。当たり前ですがこのサイズのミニ・コンポとは比較になりません。特にリバーブを多用する筆者にとって残響の種類、楽器の距離感がはっきり分かるので奥行きを演出する際助かりそうです。ちょっと驚きです。ただこのサイズからは意外とも思える低音/高音の高い再生能力の影響からか、エレキギターなど中音域に固まった楽器を処理する場合には慣れが必要かもしれません。ちょうどボーカルを中心としてその少し上と下辺りのフォーカスが甘い感じがしました。悪く言うとドンシャリ、しかし作られた音ではなくあくまで自然なのですが。ミックスにおけるコード感をつかむのに多少慣れが必要だと思います。どんな低域なのか、どんな高域なのかといった辺りのフォーカスはばっちりなのですが、そちらに耳がいきがちでした。それも慣れの問題だとは思います。そのほかのジャンルはCDを再生して確認してみました。ギター・ロックでは、やはりひずんだギターは一歩後ろにいる感じですが、ドラムのルーム感をはっきり確認することができました。前述と同じ傾向です。また、音数少ない系のヒップホップやエレクトロニカなどではさらに好印象です。複数のバスドラをちゃんと聴き分けることができますし、ハイハットとシェイカーのすみ分けもばっちり、女性ボーカルの歯擦音がリアルに響きます。でも作られた感じはありません。音の隙間も感じられリバーブの種類、量がはっきり分かります。こちらのジャンルの方が向いているかもしれませんね。今時な感じがします。自宅で打ち込みメインで作業されている方に本気でお薦めします。特にパッシブ・タイプのスピーカーで、フロアでの鳴りを予想しながら作業されている方はぜひ一度試聴してみてください。ちゃんと耳で確認することができミスやストレスも減ると思います。最後に面白い話を。このスピーカーを3組のアーティストの方々に試聴してもらいました。皆さん“あ、いいねぇ”と言った後、必ず(!)“で、おいくらなんですか?”と聞いてきました。価格も性能の一部、何かの売り文句でありそうですが、価格も抑えられたこのシリーズ、決して高くないと思います。筆者の心も揺れに揺れました。VXT8も試聴してみたいなと思わせる内容でした。値段的にもサイズ的にも自宅作業に最適なのではないでしょうか? なにより音楽が楽しく聴こえるスピーカーです。
KRK
VXT4
93,450円/ペア

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/56Hz〜22kHz
▪ツィーター/25mm
▪ウーファー/100mm
▪アンプ出力/30W(低域)、15W(高域)
▪外形寸法/186(W)×256(H)×177(D)mm
▪重量/6.4kg(1本)