インピーダンス可変で現代のプリアンプにも対応するリボン・マイク

GROOVE TUBESVelo-8

昨今のDAW中心の録音システムの音質傾向は、アナログ卓とアナログMTRといった組み合わせに比べると、かなり立ち上がりの速い音が録れるシステム構成になってきた。こうなると音の入り口であるマイクロフォンに求められる特性も変化してきて当然であり、より立ち上がりがソフトなリボン・マイクが今、再注目されている。Velo-8はGROOVE TUBES初のリボン・マイク。オールド・タイプの復刻ではないが、新しい技術を投入しながら、適度に過去の技術も尊重されているバランスの良さが魅力となっている。

交換用リボン・ユニットをはじめ
縦型ケースやポップ・ガードも付属


編集部から届いたパッケージを開けると、まず最初に交換用リボン・ユニットが付属しているのに驚いた。リボン・マイクを使っていてとにかく気を使うのが、このデリケートなリボン部分なのだ。中をのぞいて見ると薄いアルミニウム・リボンが頼りなくぶら下がっているので、ちょっと強い風圧がかかるとすぐ伸びてしまいそうで怖い。実際に音が出なくなったり、こもって高域が無くなってしまったり、逆に低域が無くなってしまったりという状態の悪いリボン・マイクも見かけることが少なくない。リボンの交換といっても、既にリボンが張ってある状態のユニットをまるごと交換するだけなので、説明書を見ながらなら初めてでもできそう。パーツとして扱われる真空管のメーカーとしても知られるGROOVE TUBESならではの発想が盛り込まれたパッケージと言えよう。付属の専用ハード・ケースはなんと取っ手が上方に付いた縦型。リボン・マイクはリボン部分が伸びないよう立てた状態で保存する必要があるからだ。付属の金属製ポップ・フィルターもしっかり風を防いでくれ、磁石式で着脱の簡単な優れもの。2種類のサスペンションも同包され、これら豪華な付属品には大満足。本体の仕上げもかなり美しく、安っぽい感じは全くない。

リボンならではのマイルドな立ち上がり
豊かな低域が打楽器系にマッチ


さて実際に音を録ってみると、オンマイクでは一聴しただけで音が太いのが分かる。取り扱い説明書に周波数特性表が見当たらなかったのが残念だが、DAWソフト上のアナライザーで見てみると100〜200Hzあたりを中心に低域全体がかなり豊かである。もしコンデンサー・マイクであれば、これだけ低域が多いとオケ中ではかなり扱いづらいはずなのだが、本機では比較的大丈夫。変なピークが無く音量も平均化されて出てくるので、バランスも取りやすい。もちろんリア側で50Hz設定のローカットを入れれば、低域もだいぶすっきりする。しかも細くはならないので、これは積極的に使いたい。また低域が豊かに感じるのは高域側の特性も要因だと思われる。例えばRCA 44BX、77DXといったビンテージ・リボン・マイクの場合でも、双指向モードであれば耳につきやすい高域の周波数が下がったかなり特殊な特性になっているのだが、本機にもその傾向を感じる。このディップしている場所がどこかで機種ごとに“ボーカルにはいいがギターにはいまいち”など得意楽器が決まってくる。今回のチェックでは特に打楽器系がかなり良い印象を受けた。ボーカルやギターも温かいサウンドであるが高域が少なめなので、大きめにバランスを取りたくなる音質である。遠ざかると途端に音が遠くなるのもリボンらしい特性。とくに生音が大きく無い楽器はたぶんオン気味で拾いたくなるだろう。本機は双指向性なので背面にある近距離の音源は正面と同じだけ拾ってしまうが、ある程度の距離以上の環境音は拾いにくい。これは自宅録音にはかなり有利な特性でもある。ちなみに、リボン・マイクは出力が低いと言われているが、本機には出力インピーダンスが2つ用意されており、現代的な特性の300ΩモードではなんとSHURE SM57よりも少し高い出力が得られる。パワフルな磁力を持つネオジム・マグネットの威力だろう。60dBほどゲインの上げられるマイクプリであれば、弱めに弾くアコギなどでも全く問題ないだろう。一方リボン・マイク本来のモードである75Ωではぐっと出力が下がる。音質はちょっと暗めだが、比較的味わい深くなるようだ。同社のマイクプリであるVipreやSupreを使えばこの75Ωにも正しく対応可能なので、リボン本来の特性を堪能できるようだ。一般的にリボン・マイクは人間の耳に近い自然なサウンドが魅力だ。特にアタックの鋭いブラスや打楽器のような音源に対してはかなりいい結果が期待できる。逆にコンデンサーのつややかさや、ダイナミックのエネルギー感といった部分には欠けるわけで、これをどう使い分けるかの判断が重要となるだろう。特に自然で太めのサウンドを求めている人はぜひ本機を試してもらいたい。
GROOVE TUBES
Velo-8
オープン・プライス(市場予想価格/80,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪指向性/双指向
▪周波数特性/20Hz〜16kHz(±3dB)
▪推奨ロード・インピーダンス/300〜600Ω(出力75Ω時)、1.2〜2.4kΩ(出力300Ω時)
▪感度/50dBv(1V/Pa)
▪最大SPL/138dB(THD=0.5%)
▪外形寸法/47(φ)×205(H)mm
▪重量/590g(本体)