MIDI機能やV-Vocalを強化し追加プラグインも充実のDAW最新版

CAKEWALKSonar 7 Producer Edition

21世紀の幕開けとともにさっそうと登場した、CAKEWALK Sonarは、まさに未来志向のDAWソフトだった。メイン画面であるトラック・ビューだけでほぼ全作業が可能となる明快な操作性、オーディオ・ファイルのテンポをトラックのBPMに自動的にアジャストする機能などを備え、それまでのDAWの概念を覆す構成は、コンピューター・ミュージック・シーンにも大きな影響を与えることになる。さらに、その後の成長も目覚ましく、毎年のように行われた着実なバージョン・アップによる使い勝手の向上の結果、現在、Windowsプラットフォームにおいては絶大な支持を集めている。筆者の周辺でもユーザーはますます増加している。それも、これまでDAWを使っていた人たちだけでなくDAWには縁遠かった人、どちらかというとパソコンで音楽を作ることを敬遠していたような人がSonarユーザーになり、快適に使いこなしているケースが多いようだ。ほかのDAWで挫折した人が、Sonarなら使えたという声もよく聞く。そんなSonarがバージョン・アップされて、この度Sonar 7となった。新しく搭載された機能を中心に、早速チェックしていこう。

リズム・マシン感覚で入力可能
待望のステップ・シーケンサー装備


Windows専用ソフトのSonar、今回のバージョン・アップの目玉とも言えるのが、ステップ・シーケンサー(画面①)の装備だ。画面の縦軸はスネアやキックなど、ドラム・キットのパーツ、横軸は拍とビートとなっており、交差する四角い枠内をクリックしてドットを打ち込むだけというシンプルな操作で、ドラム・フレーズが作れてしまうのだ。本誌連載の“リズプロ”の例の画面が、そのまま装備されたようなもの。入力はループにしたままノリノリで行えるし、つまみでハネ具合を加減してグルーブを調節するのも思いのままだ。20080101-07-002▲画面① 今回のバージョン・アップの目玉とも言えるステップ・シーケンサーの画面。縦軸はインストルメンツ、横軸が拍となっており、リズム・マシンを操作している感覚で打ち込みが可能となっている。画面下部に見えているのはMIDIコントローラー。ピッチやベロシティ、ベンドを書き込むことも可能となっている そこで気になるのはベロシティの入力だが、これがとてもよくできている。打ち込んだドットをクリックして選択したら、マウスのホイールを回せばいい。上げればベロシティ↑、下げればベロシティ↓とつまみ感覚、実に快適かつ迅速だ。ステップ数(ビートの数や細かさ)も自由自在なので、変拍子やポリリズムも思いのまま。ドラム・パーツ数も自由に増減できるので、パーカッションなどを追加することも可能だ。さらに、ステップ・シーケンサーの縦軸を、音程表示にして、ベース・パターンの入力をするのも面白い。ポルタメントをかけたり、下のコントローラー表示部でピッチ・ベンドを加えたり……。適当にマウスでクリックしているだけで、アシッドなフレーズが次々にできてしまう。とにかく、このステップ・シーケンサーは楽しいし、実用性も高く。これだけでもバージョン・アップの価値があるほど。“グッジョブ!”と言いたくなる新装備だ。

拡大鏡モードが追加され
操作性が向上したピアノロール


ウワモノやコードなど、フレーズの打ち込みでメインになるのが、ピアノロール。ここでも、実用的な機能強化が行われている。まず、目を引くのが拡大鏡モード(画面②)の追加。まるで四角い拡大鏡を置いたかのように、マウス・カーソル付近だけを自動的に拡大表示してくれる優れた機能だ。音域の広いフレーズなど、画面のズームを下げているときでも、わざわざ拡大/縮小を繰り返す手間を省いて精密なエディットが行える。20080101-07-003▶画面② MIDIの打ち込みを手助けしてくれる拡大鏡モード。MIDIデータが小さく表示されていても、細かい編集が可能となる また、ピアノロールのエディットのためのツールだが、書き込みや消去など20種類の機能を3つのツール・ボタンそれぞれに割り当てて使用できるようになった。3つのツール・ボタンは、マウスのどのボタンにでも割り当てられるので、3ボタン以上のマウスを使った操作は実に快適だ。また、ベロシティやコントローラーなどのデータをグラフ表示するレーンも、複数同時に表示可能となった。ベンドでグニャグニャさせながら、フィルターをウネウネ、といった入力も見た目で確認しながら簡単に行える。そのほかにも、ドラッグするだけでクオンタイズできるドラッグ・クオンタイズなど、ピアノ・ロールでの操作機能の強化は充実している。しかも、その多くがカユイところに手が届くような、使って納得できるものになっているのはさすがだ。

“鼻歌入力”も可能
V-Vocalもバージョン・アップ


本誌読者ならご存知のとおり、Sonarの日本での販売はROLANDが行っており、開発元であるCAKEWALKと密接な関係にある。そのコラボレーションの成果と言えるのが、搭載プラグインのV-Vocal(画面③)だ。その名の通りのボーカル・エフェクターでピッチ補正や、ハモリの追加といった、ボーカル(などのオーディオ素材)の高度なエディットが行える。今回、そのV-Vocalもバージョン・アップされ、入力されたボーカルなどの単音オーディオ素材から、ピッチやサステイン、ベロシティなどを検出し、MIDIデータに変換する機能を搭載した。操作は至って簡単。V-Vocalに任意のファイルを取り込んでから、MIDIトラックへドラッグ&ドロップするだけ。鼻歌でMIDIデータを入力したり、ボーカルや管楽器に、シンセをユニゾンさせるなどの使い方が考えられる。20080101-07-004◀画面③ ROLAND V-Vocal。オーディオ・ファイルの単音フレーズのピッチなどを検出し、それを補正することができる優れもの。今回は、検出した情報をMIDIデータに変換する機能が新たに追加されている さらに、マスタリングに最適なエフェクトが3種類追加されたので紹介しておこう。マルチバンド・コンプのLP-64 Multiband CompressorとEQのLP-64 Linear Phase EQおよびマキシマイザーのBoost 11 Peak Limiterだ。LP-64が冠に付けられた2機種は特殊なプログラミングにより音声処理の際の位相ひずみ(帯域ごとの位相ズレ)を全く排除している。実際に使ってみると分かるが、色付けが極めて少ない。狙った帯域だけを持ち上げたり、たたいたりできる。これらは最後の最後、仕上げに使うのにピッタリ。

4種類のソフト音源を追加
充実のラインナップがそろい踏み


バージョン・アップを紹介してきたが、ソフト音源の増加が最後になってしまうところが、Sonarの堅実な機能強化ぶりを示しているとも言えるだろう。今回は一気に4機種が追加されている。D-Pro LEは、PCMシンセ/プレイバック・サンプラー。さまざまな楽器音のプリセットを装備する上に、高品位オーケストラ・ライブラリーとして知られるGARRITAN Personal Librariesから抜粋した音色も収録する。Rapture LEはウェーブ・テーブル・シンセ。浮遊感を持った動きのあるパッドやエアリーなベルなど“デジタルっぽい”サウンドが得意だ。ZETA+は、高度なアナログ・シミュレート/ウェーブ・シェイピング・シンセ。温かみのあるアナログ・シンセ風サウンドや、つんざくようなリード・サウンドなどに向いている。DropZoneはシンプルなサンプラー。個人的には、これが最も気に入った。何と言ってもトラック上のオーディオ素材をドラッグ&ドロップで即座に演奏できるのがいい。SEを加工したり追加したいときなど、ちょっとした思い付きが即座に音になる小気味よさがある。従来から搭載されている、GM音源のTTS-1やROLAND GrooveSynthなどの機種と併せ、幅広い音楽制作に対応できるだろう。このほかにも、バージョン・アップで強化されたポイントは多い。録音中などに、選択したトラック以外の音量を一時的に数dB下げるディマー機能やEQ設定のドラッグ・コピーといった、現場で即座に役立ちそうな使い勝手の向上には、ユーザーの声を地道に吸い上げている様子がうかがえて好印象。また、外部ハードウェアをプラグインのように扱えるエクスターナル・インサート機能も追加されており、Sonar自身によるCDの作成や、インターネット上にあるWebサイトなどへ楽曲を簡単にアップデートできるパブリッシャー機能など、外部との連携を密接にする機能が増えているのも見逃せない。さらに、目に見えない部分でのバージョン・アップも行われている。取り扱えるWAVファイルが、これまでのRIFF形式に加え、SonyWAVE-64対応形式もサポートするようになった。いずれもWAVファイルに変わりはないのだが、RIFF形式では1ファイルは2GBまでしか扱えない(多くのDAWでも同様)のに対しSonyWAVE-64では、1ファイルで8,388,608TBまで使用可能となる。通常そこまで巨大なサイズは必要ない。しかしハイビット/ハイサンプルやサラウンド・ファイルを活用するのに、2GBでは心もとなかったのも事実。将来に向かって、十分な器が用意されたと言えるだろう。今回のSonar 7へのバージョン・アップでは、MIDI機能の増強がうれしい。ほかのDAWでは実質的にMIDI機能のバージョン・アップが止まっているものも多いが、Sonarは着実に進化し、使いやすくなっている。ステップ・シーケンサーなどは使い始めれば、もうそれ無しの環境には戻れないほどだ。さらに、ミックス、マスタリング関係の機能増強も着実に行われており、これだけで最終段階のパッケージング/CD作成まで行えるのもポイント。ファースト・チョイスとしてはもちろん、既にSonarユーザーの諸君にも、Sonar 7へのバージョン・アップをお勧めしたい。なお、今回のレビューではProducer Editionを紹介したが、追加音源/プラグインのラインナップが制限されたStudio Edition(オープン・プライス/市場予想価格50,000円前後)も発売されている。
CAKEWALK
Sonar 7 Producer Edition
オープン・プライス(市場予想価格/85,000円前後)

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP Professional/XP Home/Vista X64/Vista、INTEL Core/Pentium/Celeron 1.4GHz以上のCPU、512MB以上のRAM(2GB以上を推奨)