新素材を採用したクリアでブライトな音のボーカル用リボン・マイク

CROWLEY AND TRIPPStudio Vocalist

今回はCROWLEY AND TRIPPからボーカル・レコーディングに焦点を絞って開発されたマイク、Studio Vocalistを紹介していく。このブランドはSOUNDWAVE RESEARCH LABORATORIESという、数多くの医療用計測機器を開発、特許を取得している会社を母体としている。本機はそんな同社ならではの医療機器レベルの品質管理がなされており、そのテクノロジーが惜しみなく投入されている。

マイク・プリアンプを選ばない
ダイナミック・マイクと同等のゲイン


リボン・マイクは基本的にゲインが低く、構造上取り扱いがとても難しい。しかし音質的にはこれらのデメリットを払拭する“魅力”があり、それが現在でも重宝されている理由である。Studio Vocalistは従来の非常に薄いアルミ箔に代わり、カーボン・ナノチューブと言われる炭素の同素体によるリボン・トランスデューサーを採用している。カーボン・ナノチューブとは1991年に日本で発見された新素材で非常に軽く、鉄の数百倍の強度を持ち伝導率も高い。これにより高い耐久性と繊細なリボン・マイク・サウンドを両立。さらに音質的にも今までのリボン・マイクで言われていた“質感は良いがどうしてもブライトさが足りない”という欠点も払拭している。また、CROWLEY AND TRIPPオリジナルのトランスを採用しハイゲイン、ローノイズを実現。さらにダイナミック・マイクと同等のアウトプット・ゲインなのでマイク・プリアンプを選ばない。ボディはステンレスの一体形成で、キラリとしたシルバーの質感から本機の生み出す音を想像させる。重量はサイズの割にはかなり重い。ボディ自体の鳴りを押さえ、カーボン・ナノチューブへきっちり音を伝えるために設計されている。付属の専用木製ケースも細心の心配りがなされているのには驚いた。振幅の大きいリボン・マイクは“立て置き”保管が必須なのだが、本機のケースは縦型なので、上ぶたを開けて垂直にマイクを収納できるようになっている。

細かなタッチの再現力で
ひずみ感の無い明るい音


今回はドラム、アコギ、ボーカルでチェックした。ドラムはドラマーの頭上からキット全体を狙う感じに立ててみたが、まずシンバルのブライトさに驚いた。通常はコンデンサー・マイクと比較してどうしても却下されてしまうリボン・マイクだが、本機はそん色ないクリアさを見せてくれた。むしろ適度にコンプレッションされた音はアナログ・テープでドラムを録った音に酷似している。プレイが安定して聴こえ、太さも申し分なかった。テンポの早い曲や楽器が多く重なるアレンジよりも、アコースティックな楽曲のほうがその良さはさらに伝わると思う。ステレオ・ペアでのアンビ・マイクとしてもかなり使えそうだ。次はアコギに試してみたが、今回のチェックで一番好感触だった。特に際立つのがアルペジオでのプレイ。リボン・マイクとは思えないほど細かなタッチの再現力があり、ここで本機の真価を見た気がする。ちょうどネックの12フレット辺りを狙うと、弦のタッチとボディの響きのバランスがとても素晴らしい。ドラムに試したときと同様、プレイが安定して聴こえた。通常アコギを録る際にはかなりマイクプリのゲインを上げるのだが、とてもリボン・マイクとは思えないほど圧倒的にS/Nが良かった。次は本機の本来の使用用途、ボーカルに試してみた。最初の印象はやはりリボン・マイクとは思えないほどのブライトさ。明るいのだが、かといってギラギラしたひずみ感は皆無で、とても滑らかで太さも際立っていた。リボン・マイクは通常のセッティングだと少し太くなりすぎるので、少し離して使用することが多い。明るさと太さのバランスをマイクとの距離で調節するのである。その時、どうしても双指向性の特性差で細くなったり、妙に遠くなったりしてしまうのだが、本機では位相特性がうまく考えられており、それが無いのである。ボーカリストが多少身体を動かしても、とても安定して聴かせてくれる。ボーカル向けに開発されただけのことはあり、録る側だけでなく、歌う側も歌いやすいマイクである。今回はチェックできなかったが、ほかにもピアノやブラス、そしてブライトさを生かしFENDER Stratocaster系のクリーン・ギターなどにも試してみたい。今回使用してみて、あらためてリボン・マイクの質感に好感を持った。一般的にはコンデンサー・マイクやダイナミック・マイクを使用するのが常識となっているが、実はダイアフラムの振幅量に制限があるため、振幅の大きいリボン・マイクが特にピーキーな楽器には向いているのである。ハード・ディスク・レコーディングが主流の中、次々に高性能でスピード感のあるハードウェアも発表されている。それらの音はワイド・レンジな故、今まで定番とされてきているマイクや、いわゆるビンテージ系のリボン・マイクがうまくハマらないことがある。このStudio Vocalistは時代に合わせたチューニングが施されているので、そんなギャップを埋めつつ、曲の中に温かさやぬくもりのあるテイストを注入してくれるのであろう。
CROWLEY AND TRIPP
Studio Vocalist
オープン・プライス(市場予想価格/273,000円)

SPECIFICATIONS

▪指向性/双指向
▪周波数特性/30Hz〜15kHz
▪最大入力音圧レベル/126dB
▪外形寸法/44(φ)×150(H)mm
▪重量/610g