8chマイク入力を含む16インのオーディオ/MIDIインターフェース

TASCAMUS-1641

日々進化するDAWの世界。最も核となるオーディオ・インターフェースの進化も、プロフェッショナル向けからアマチュア向けなどさまざまな製品が各社から発売されています。筆者もそうですが、日々どの製品が自分のシステムに最適なものか頭を悩ませている読者の方も多いはず。そんな中、TASCAMからUSB 2.0接続のオーディオ/MIDIインターフェース、US-1641が発売されました。今回は本機を練習スタジオに持ち込んでドラムやギターを録音する、といったケースを想定してレポートしていこうと思います。

ライン&Hi-Z入力を2系統フロントに装備
4系統の出力に加えモニター出力も完備


まず、簡単に外観と仕様から見ていきたいと思います。製品の箱を開けて目に飛び込んできたのは、1Uサイズの鮮やかな濃いブルー・メタリックのフロント・パネル。従来、黒を基調としたボディと洗練されたパネル・レイアウトで、スタジオなどでも見かけることが多いTASCAM製品ですが、本機はブルー・メタリックを基調とし各種ノブはシルバー。見ただけで仕様を理解でき、操作しやすそうなシンプルなレイアウトです。コンピューターとの接続は冒頭でも述べた通りUSB 2.0。最近のコンピューターであればほとんど搭載されているので安心ですが、念のため自分のコンピューターが対応しているかどうかチェックしておきましょう。ちなみにバス・パワーには対応していないので、付属の電源ケーブルで電源を供給する必要があります。入力は、フロント・パネルに8ch分並んだファンタム電源対応のマイク入力(XLR)とHi-Zにも切り替え可能なライン入力(TRSフォーン)が2ch用意されています。このライン入力がフロント・パネルに用意されているのはうれしいポイントです。またリア・パネルには+4dBv/−10dBuを切り替え可能な4chのライン入力とデジタル入力(コアキシャル、S/P DIF)があり、合計で最大16chの同時入力が可能。非常に充実した入力部となっています。出力はライン出力4ch(TRSフォーン)とデジタル出力(コアキシャル、S/P DIFとAES/EBUを切り替え可能)、それにモニター出力L/R(TRSフォーン)とヘッドフォン出力という構成。デジタル出力はch1/2もしくはch3/4を切り替えることができます。この入出力の仕様から考えると、本機が最もパフォーマンスを発揮するのは、多チャンネルで同時録音し、DAWソフト上でミキシングするといった作業ではないでしょうか。なお、サンプリング・レートは44.1/48/88.2/96kHzの中から選択可能で、ビットは24ビットに対応。24ビット/96kHz時も16イン/4アウトが可能なので高音質のレコーディングにも挑戦できそうですね。では、“いざ練習スタジオへ!!”といきたいところですが、その前にコンピューターのセットアップと曲のベースとなる素材を仕込んでいこうと思います。本機にはDAWソフトのSTEINBERG Cubase LE 4(Windows/Mac対応)がバンドルされているので、付属ドライバー・ソフトとともに筆者のノート・パソコン(INTEL Pentium M 1.1GHz、768MB RAM)にインストールしました。その後、Cubase LE 4を立ち上げデバイス設定からUS-1641を選択し、コントロール・パネルで各種設定を行います。これは非常にシンプルで、設定が必要な個所はレイテンシー設定(Highest、High、Normal、Low、Lowest)、デジタル出力のチャンネル設定(ch1/2もしくはch3/4)とフォーマット設定(S/P DIFもしくはAES/EBU)、クロック・ソース設定(AutomaticもしくはInternal)の4点だけ。初めてDAWに挑戦する人にも分かりやすく、基本的には何もしなくてもOK。もし変更するとすればレイテンシー設定くらいでしょう。次は、サンプリング・レートとビットをCubase LE 4で設定します。今回は24ビット/96kHzを選択しました。あとは曲の素材としてベース、エレピ、シンセ、ボイス・ネタなどのACIDファイルをインポートし、簡単に4分ほどの構成を作って1時間くらいで下ごしらえは終了。トート・バックに本機とノート・パソコン、それにUSB接続タイプの外付けハード・ディスクを入れて身軽な装備でいざ練習スタジオへ!

フロント・パネルの豊富な接続端子が
スピーディな録音セッティングに効果的


近所の練習スタジオに歩いて到着。友人のドラマーとセッティングを開始しました。小さなテーブルの上に本機やノート・パソコンなどを置いて接続してみると、場所を取らずに非常にコンパクトにセッティングできました。続いて、US-1641に接続したマイクでドラムのマイキングを行います。使用マイクはキックとスネアにそれぞれSHURE SM57、トップにRODE NT5を2本、アンビエンスにAUDIO-TECHNICA AT4060の計5本。AT4060を除きすべて練習スタジオでレンタルしたものです。本機はフロント・パネルにマイク入力があるので、ケーブルの接続も簡単に行えるし、とっさのマイク・チェンジやワイアリングの確認を楽にできる点は好印象でした。マイク入力にはch1〜4とch5〜8の4chごとにファンタム電源が装備されているので、コンデンサー・マイクのNT5にファンタム電源を送ってドラムのセッティングは終了。なお、今回は練習スタジオでドラムをマルチ録音するケースを想定しているので、セッティングにあまり時間をかけないようマイクは5本だけにしましたが、本機には8chのマイク入力があるのでお好みに応じてマイクの数を増やしていくのもいいでしょう。またライン入力も6chあるので手持ちのマイクプリや練習スタジオ常設のミキサーを使って入力数を増やすことも可能です。次はギターをセッティング。今回はフロント・パネルにあるギターなどの接続に使用するHi-Z入力を使い、ラインのみで録音していこうと思います。この入力は2系統用意されているので、ベースなどを同時に接続してもいいでしょう。インプット系の接続が完了したので、次はモニターやキュー送りなどのアウトプット系をセッティングしていきましょう。まずはプレイバック時にスピーカーで確認できるようモニター出力をリハーサル・スタジオに置いてあったミキサーにつないでみました。このモニター出力は4系統のライン・アウトのうちch1-2が出力されます。また、フロント・パネルのMONITORノブでボリューム調整が行えるので自宅ではパワードのスピーカーなどに接続して使うのに便利です。続いてドラマー用にキュー送りのセッティングを作ります。まずドラマーの脇に小さなミキサーを置いてこれを簡易的なキュー・ボックスに見立て、US-1641のライン出力のch1/2から2ミックスを、またch3からクリック、ch4からベースを送りました。自宅でボーカルなどを録音する際にも同じような設定でボーカリストに快適なモニター環境を作ってあげることができます。欲を言えばヘッドフォン出力も2系統欲しかったところですが、最近のリハーサル・スタジオにはキュー・ボックス・システムを完備しているところもあるので、上記のようなセッティングをすればバンド全員でモニタリングすることもできます。これで準備は終了。ここまでわずか1時間ほどです。非常にスピーディにセッティング可能な点も本機の優れた特徴の一つだと思います。

音量に応じて色が変化するLED
ゼロ・レイテンシー・モニタリングにも対応


さて、いよいよ録音開始です。Cubase LE 4を立ち上げて入出力の設定を行い、録音レベルを確認していきます。ドラマーに試しにたたいてもらい、US-1641のフロント・パネルにある並んだ各入力チャンネルのゲインつまみを回しながら、その隣にあるLEDでレベルを確認。このLEDは各チャンネルに1つしかありませんが、音量の小さい方から順に、緑〜オレンジ〜赤と色が変化してレベルを示してくれるので、これだけでも十分にゲインを調整可能です。個人的には、一瞬赤く光るくらいでもクリッピングせず十分なヘッド・ルームがあるように思えました。また音質的には緑くらいではノイズの少ないクリーン・サウンドを得られ、オレンジの辺りでは太めのサウンドを得られるといった印象を受けました。このレベル設定を行っているときに、ドラマーからヘッドフォンのモニターが遅れて聴こえるという指摘を受けたので、コントロール・パネルでレイテンシーの調節を行うことに。デフォルトの設定では“Normal”だったので、よりレイテンシーの少ない“Low”に設定したところ問題は解決。コンピューターの性能がもっと良いものであれば、よりレイテンシーの少ない“Lowest”にしてもいいでしょう。また本機のヘッドフォン出力やモニター出力でモニタリングする場合はゼロ・レイテンシー・モニタリングが可能です。これらの出力では、コンピューターからの再生音と入力音のバランスをフロント・パネルにあるMIXつまみで取ることができ非常に便利です。レイテンシー問題も解決したので2人でヘッドフォンを装着してファースト・テイクを録音していきます。筆者の非力なノート・パソコンが少し心配でしたが、何とか無事録音完了。リハーサル・スタジオのスピーカーで確認してみたところ、非常にしっかりとした音でいい感じに録音できていたので2人とも大満足。数テイクを録音してリハスタではおなじみの終了ランプが点滅したのでここで録音終了。持ち込んだ機材も少ないので撤収作業もスピーディに行えました。

伸びのあるサウンドが印象的な
ピアノ・ソフト音源もバンドル


録音した素材を持ち帰り、自宅のモニター・スピーカーで再度チェックしてみたところ、リハスタで聴いたときと同じしっかりとした音で録音されているという印象。満足のいく結果となりました。ちなみに、本機のマイクプリはTASCAMのプロ用デジタル・ミキサーと同等とのこと。また音質を左右する重要部品についてはあえてリード部品を使用し、ノイズ特性の良い被膜抵抗を使用するなど、随所にこだわりの設計がされているそうです。 最後に、本機にもう一つバンドルされているソフト音源、TASCAM Continuous Velocity Pianoを使ってアレンジを行ってみました。これはピアノ音源なのですが、TASCAMの世界的に定評のあるソフト・サンプラー、GVI(Giga Virtual Instrument)をベースにした製品です。その特徴は、元波形自体は単一のベロシティ・サンプルでありながら、スペクトラル・モーフィング・フィルターのSIVモード(Spectral Interpolate Velocity)を活用し、少ない波形容量でピアニシモからフォルテシモまでの幅広いダイナミクス・レンジをカバーしているというもの。US-1641にはMIDI IN/OUTも装備されているので、マスター・キーボードを接続してContinuous Velocity Pianoを演奏してみたところ、非常に伸びのあるサウンドでした。このソフト音源はスタンドアローンあるいはプラグイン(VSTi/RTAS)でも動作するので、これがバンドルされているのもとてもうれしい点でしょう。本機は、自宅での音楽制作からリハスタでの多チャンネル同時録音、さらにはライブ・レコーディングに至るまでなど、さまざまなケースへ柔軟に対応できる製品だと思います。総合的に見て非常によく考えて作られています。とてもリーズナブルなのにフットワークにも優れ、高音質で充実した入力部とバンドル・ソフトも装備されているので買ったその日からレコーディングが始められることでしょう。オーディオ・インターフェース購入でお悩みの方、お薦めします!!20080101-06-002

▲フロント・パネルの接続部。左からマイク入力端子1〜8(XLR)、ライン/GUITAR入力×2(TRSフォーン)、ライン/GUITAR切り替えスイッチ×2


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▲リア・パネル。左からUSB 2.0端子、デジタル入出力(コアキシャル)、MIDI OUT/IN、中央上段左からライン入力×4(TRSフォーン)、LEVEL切り替えスイッチ×2、中央下段左からライン出力×4(TRSフォーン)、モニター出力×2(TRSフォーン)、ACインレット


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▶バンドルされるソフト・ピアノ音源TASCAM Continuous Velocity Piano。スタンドアローンもしくはプラグイン(VSTi/RTAS)での使用が可能だ

TASCAM
US-1641
オープン・プライス(市場予想価格/39,800円前後)

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/ノーマル・サンプリング周波数時20Hz〜20kHz@±1dB、ハイサンプリング周波数時20Hz〜40kHz@+1/−3dB
▪サンプリング周波数/44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz
▪ビット・レート/24ビット
▪最大入力レベル/1.1VRMS
▪入力インピーダンス/MIC入力2.2kΩ、ライン入力10kΩ(GUITAR入力に設定時700kΩ)、INPUTS入力10kΩ
▪外形寸法/430(W)×44(H)×280(D)mm
▪重量/3.3kg

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP SP2(32bit)/Vista(32bit)、WDM/ASIO/ASIO2/GSIF2、512MB RAM以上、1GB以上のハード・ディスク空き容量
▪Mac/Mac OS X 10.4以上、Power MacおよびINTEL Mac、Core Audio、Core MIDI、512MB RAM以上、1GB以上のハード・ディスク空き容量