音の質感までもコントロールするゲルマニウム回路内蔵1chコンプ

CHANDLER LIMITEDGermanium Compressor

久しぶりに出会った、僕の心を揺るがすじゃじゃ馬コンプ!、CHANDLER LIMITED Germanium Compressor。以前からすごく気になっていた同社のGermaniumシリーズ。ゲルマニウムという言葉を今世紀になって耳にするとは非常に不思議な感じで(温泉だったら分かるのですが)、オーディオ機器でゲルマニウムというのは、鉱石ラジオをほうふつさせる、何とも半世紀ぶりの驚きのネーミング、そしてオーディオ・デザインではないでしょうか。安定性やスペック的に、時代の流れに消えていってしまったパーツを復活させてビンテージ・サウンドを表現しようという、非常に画期的でユニークな素晴らしい発想だと思います。

3種類のダイオードの特性で生み出す
6種類のコンプレッション・カーブ


さて、本機はとにかく操作子が多いのです。説明書を読むだけでは理解できなかった部分もあるので、使用した感想と併せてフロント・パネル左から説明していきます。まずIN/OUTはバイパス・スイッチ。そしてCLEAN/DIRTY COMPは、倍音感を切り替えるもので、DIRTYではFETコンプ特有の倍音の質感が得られ、CLEANでは非常にクリーンなサウンドになります。続くINPUTは本機がスレッショルド固定のため、どのくらいコンプさせるかの調整も兼ねます。しかし、ツマミを10にしたからといって、ひずみ過ぎて音にならないことはありません。その右のSIDE CHAINは、目を見張る非常に素晴らしい機能。低域にコンプレッションが反応しないようにするために、コンプの動作用信号にハイパス・フィルターをかけられます。カットオフ周波数は30/60/90/150/300Hzが選択可能です。その次にRATIOがありますが、これは一般的なレシオの調整とは感覚が違いました。マニュアルによれば数学的計算によるものではないとのことなので、"11段階で調整できるという微調整可能なツマミ"と解釈した方がよさそうです。続くCOMP CURVEは本機の大きなポイント。ゲルマニウム/シリコン/ツェナー(定電圧)という3種のダイオードを駆使して、6つのコンプレッション・カーブが選べます。効きの緩いカーブからハードなものまでが選べるのですが、単純に"効き方"とは呼べない、奥深いサウンド・キャラクターの違いが得られます。まずこのCOMP CURVEの1つを選び、それからほかを微調整するという使い方がよいでしょう。さて次のMIXは、WET/DRYのバランス。これには目からウロコというか、かゆいところに手が届くというか、感謝感激雨あられという感じ......あくまで自分的にですが。というのも、ミックスで、コンプレッションしたサウンドと原音を混ぜることが多いのです。それがこのツマミひとつで、ミキサーのバスなどを使わなくてもできてしまいます。その右のATTACKとRELEASEは説明が要らないと思いますが、レシオ同様、数学的数値の標示は一切無く、無段階に調整可能になっています。耳で聴いていい感じ!というところにセッティングしてください、ということでしょう。続くLINKを使うと、ステレオもしくはサラウンドなどで複数台のリンクも可能になります。とはいうものの、追従するのはスレッショルドとアタック、リリースのみですので、ノッチで選べるものはいいとしても、連続可変のパラメーターがどこまで同じにできるかは微妙と言えば微妙です。さて、最後は同シリーズのほかのモデルにも搭載されている、GERMANIUM DRIVEとFEEDBACKです。実際のところ、これを理解するには時間が必要で、単なるアウトプット・ゲインではなく、サウンドのキャラクターを調整するためのものと考えた方がよさそうでした。この2つのツマミは相互関係があり、ゲイン以外に倍音やひずみ率のほか、サウンドの明暗、EQ的効果、トーン・カーブ、さらにはコンプレッション感やドライブ感なども、この2つのツマミだけで変わってきます。

トータルの奥行き感を自在に変化
数々の名機に似た多彩なキャラクター


機能の説明だけでもかなりの文章量になってしまいましたが、それが証とも言えるほど、本機は単純なコンプレッサーではなく、"サウンド・キャラクター調整マシン"と呼んだ方が的確だと思えるくらいの多彩な音が得られます。ドラム、打楽器、ボーカル、ベース、ギター、トータル(モノラル)と、さまざまなソースで使いましたが、何に適していて何に不適かということはありませんでした。あまりにも素晴らしく、感激です。特に驚いたのはトータルにかけたとき。単音にコンプをかけるなら予定調和的にイメージもわきますが、トータルで使うとこの1Uのボディの中に何人もの小人のエンジニアが入っているのではないかと思ってしまうほどです。まるで各トラックのレベルを調整してミックスをしているかのようにサウンドが変化し、マジックをもたらしてくれます。それも、各ツマミの設定次第でさまざまなミックスが楽しめるのです。メインのボーカルに作用するというよりは、バッキングのリズム、コード、カウンター・フレーズといった奥行きの聴こえ方が恐ろしく変化していきます。久しぶりに、コンプって面白いなと再発見しました。とは言え、どんなコンプなのかということをお伝えしなければレビューが成り立ちません。あくまでも主観ですが、UREI 1176、愛用しているFEDERALのビンテージ機AM864Uのほか、GATES STA Level、NEVE 33609、SUMMIT AUDIO TLA100などに近いキャラクターを生み出せる、多彩で素晴らしいマシンだと感激しました。ただし、本機にもウィーク・ポイントがあります。あまりにも調整できるポイントが多いので、神経質なまでに微調整していく使い方に向いていないのです。恐らくギター・アンプをセッティングするような感覚で、大ざっぱにサウンドを感じられるエンジニアに向いているかもしれません。最後に、本機をデザインした設計者ウェイド・ゴーク氏の素晴らしい音楽感に敬意をもって、購入を検討させていただきます。

▲リア・パネル。左からリンク端子(TRSフォーン)、出力端子(XLR)、電源端子(XLR4ピン)、入力端子(XLR)

CHANDLER LIMITED
Germanium Compressor
オープン・プライス(市場予想価格/210,000円前後)

SPECIFICATIONS

■外形寸法/482(W)×44(H)×297(D)mm
■重量/4.8kg
■別売りオプション/PSU-1(電源ユニット):オープン・プライス(市場予想価格/31,500円前後)