EMIの名機を現代に再現し独自機能も加えた2chリミッター/コンプ

CHANDLER LIMITEDTG12413 Zener Limiter

1968年、東芝EMIに入社したとき真っ先に使用したコンプはTELETRONIX LA-2AやFAIRCHILD 660、670で、後にUREI 1176がメインとなった。660と670はかなり音色作りができるコンプであったが、アタック/リリース・タイムがやや遅い印象があった。これがザ・ビートルズのドラムの音色作りなどに貢献した最大の要因でもあったのである。さて、今回紹介するTG12413 Zener Limiterは、1960年代にザ・ビートルズなどで知られるアビィ・ロード・スタジオで活躍したEMIのコンプ/リミッター、TG12413のリイシュー。幾つかの素材でそのサウンドをチェックしてみたい。

コンプ/リミッターは3モードを用意
オリジナル機の設定も再現可能


検証の前にフロント・パネルのパラメーター群を説明しよう。本機は2ch仕様で、入力インピーダンスは切り替え可能。HIGHは1,200Ω、LOWは300Ωとなっている。またHIGHでは+12dBのゲイン・アップとなる。INPUTノブとOUTPUTノブはどちらも21ポジションのゴールド・コンタクト・ロータリー・スイッチが採用されており、接触不良を最小限に抑える設計となっている。またOUTPUTノブでは±10dBのゲイン・コントロールが可能で1ステップは1dBである。コンプ/リミッターには3つのモードがある。COMP1モードはレシオが2:1で、ATTACKノブとRELEASEノブで設定する各タイムは遅めとなる。これはALTEC 436のエミュレートであるとのこと。またLIMITモードはアタック/リリース・タイムがCOMP1モードより早い設定となりFAIRCHILD 660のレスポンス・カーブを再現しているそう。さらにCOMP2モードは、COMP1とLIMITの中間に位置する設定となるが、リリース・タイムはLIMITモードに近い早めの設定になる。またSIDE CHAINも装備されており、一般的なコンプでは100Hzからのものが多い中で、本機のフィルターは30〜300Hzから選択できる。特に30Hzや50Hzといった低い周波数帯域は、バスドラに対してコンプが効き過ぎる際などにスムーズな効果を得られ、うれしいポイントである。さらにTHDと呼ばれるモードも用意されている。これはコンプ/リミッターをオフにして使用する機能で、ビンテージ風の倍音を増強し、入力ゲインを上げることにより適度のひずみ感も生み出すことができるというものだ。なお、パネルにプリントされた表記の中で、白色はビンテージのTG12413と同様であることを表し、黄色はオリジナルにはない拡張機能を示す。中でもRELEASEノブの白色数字は、EMI製リミッターで採用されていた6つのリリース・タイムを忠実に再現した設定であるとのこと。

リンゴ・スター風のドラム・サウンドから
自然なコンプ感のベースまで演出


それでは検証に移ろう。今回はDIGIDESIGN Pro Tools上の素材に対し、DIGIDESIGN 192 I/O経由で本機をインサートして試聴した。まず、ドラムはEQを施した状態で試したが、最も効果的でアグレッシブな効き方となったのはLIMITモードであった。現代風な音色作りが行える点が特徴であり、レシオは表示されていないが20:1以上の設定に感じられる。また、個人的に大好きになったのはCOMP1モードでのスロー・アタック/リリース。この設定では往年のリンゴ・スター風ドラム・サウンドを作ることができるのがうれしい。また入力ゲインでスレッショルドを微調整することにより、さまざまな音作りが可能である。さらにCOMP2モードも試したところ、滑らかにつぶれたドラム・サウンドを作ることができた。リリース・タイムは早めとなるが自然なコンプ感を演出できる。次にエレキベースを通してみた。ミックスでは多くの楽器、そして歌が入っているのでエレキベースの役割は重要だ。コンプをかけて一定の音量感にしてあげることがテクニックの一つとなる。本機ではCOMP2モードを使うと自然なコンプ感が得られ、曲全体が安定し重量感が出てくる感じである。 最後にボーカルでチェックしてみたが、LIMITモードはクラシック系で使用するのが良いかと思われた。ピークを見事に抑えてくれ、しかも自然にリミッティングしてくれるのだ。また、ポップスではCOMP2モードを使用するのが良いであろうと思われる。アタック/リリース・タイムともに早めなので、音のつながりが良くなり、自然な効果を得られる。本機も含め、最近のコンプ/リミッター製品は、設定ポジションが多数用意されていて複雑なものがほとんどである。論理的な判断と理解が必要で使いこなすのはなかなか大変ではあるが、ぜひいろいろなパラメーターを試してもらいたい。そうすればこのTG12413 Zener Limiterはさまざまな音楽ジャンルで大いに役に立つことは確かである。

▲リア・パネル。左からRIGHTチャンネルの出力(XLR)と入力(XLR)、LEFTチャンネルの出力(XLR)と入力(XLR)、別売パワー・サプライ・ユニット、PSU-1(オープン・プライス/市場予想価格26,040円前後)の接続端子

CHANDLER LIMITED
TG12413 Zener Limiter
オープン・プライス(市場予想価格/659,400円前後)

SPECIFICATIONS

■外形寸法/482(W)×132(H)×316(D)mm
■重量/約7.5kg