多機能と簡便な操作性を実現したPA用小型デジタル・コンソール

YAMAHALS9

ここ数年、大物海外アーティストの来日コンサートや国内で毎年盛り上がりを見せる夏の音楽フェスティバル、果てはライブ・ハウスに至るまで、さまざまなシーンで導入され始めてきたPA用デジタル・コンソール。その一つであるYAMAHA M7CLの弟分とも言えるモデル、LS9がこのたび発売されました。M7CLで培った技術を踏襲し、よりコンパクトに、より軽量に開発され、LS(ライブ・サウンド)と命名されたのが本機です。早速レビューしていきましょう。

M7CL譲りの多機能を踏襲しながらも
さらに軽量/コンパクト化を実現


それでは、まずはLS9の主なスペックを紹介しましょう。ラインナップはアナログ・インプット(XLR)の搭載数に応じて16chと32chの2モデルを用意。今回は32chモデルを使用し説明していきます。アウトプットはメイン・アウト、AUXアウト、マトリクス・アウトなどを任意で割り当てられるオムニ・アウトを16系統(XLR/16chモデルは8系統)用意。また、Mini-YGDAIカードを装着できる拡張用スロットを2基(16chモデルは1基)装備しているので、ユーザーの使用環境や必要性に応じてアナログ入出力やデジタル入出力を拡張することが可能。それによりLS9同士のカスケード接続や、デジタルならではの長距離、多チャンネル伝送を使用したシステム構築が行えます。また重量も19.4kgと軽く、サイズもコンパクトなので、簡単に持ち運ぶことができるでしょう。さらに、インプット・チャンネルについて詳しく見ていきましょう。本機がM7CLと違うところに、インプット・チャンネルをレイヤー構造にしている点があります。これにより本機では64モノラル+4ステレオで72chを実現。レイヤーはch1〜ch32、ch33〜ch64とに分かれ、ディスプレイ左下のLAYERボタンによって瞬時に切り替え可能。フェーダー上にあるSELECTボタンを押すことで、操作したいインプット・チャンネルを選べます。各インプット・チャンネルにはフル・パラメトリックの4バンドEQ、2系統のダイナミクス系エフェクトを標準装備。それらは、ディスプレイ右にある専用ツマミを使ってアナログライクに調整することが可能。同様にアウトプット部にも4バンドEQ、1系統のダイナミクス系エフェクト、最大600msまで設定可能なディレイが標準で備わっています。さらに、インプット・チャンネルの信号をモニターやエフェクトへ送る際に、ツマミではなくフェーダーでセンド量を調節することができる"センズ・オン・フェーダー"機能もM7CLから踏襲。フェーダーが32本ある本機ではch1〜ch32のセンド・パラメーターがフェーダーに立ち上がり、各インプット・チャンネルのセンド量を一度に見渡すことができます。また、ディスプレイ部の右側面にUSBポートを搭載。USBメモリーに任意の出力信号をMP3として2tr録音。再生も可能で、BGMや効果音のポン出しなどに使えます。LS9本体に記録したシーン・メモリーなどの保存も可能です。

S/Nに優れた高品位なアナログ部
現場を強く意識した操作性


ここからは実際に音を出しながら各部をチェックしていきましょう。今回PA現場では、ジャズ/フュージョン系のバンドの方々に協力を依頼して試させてもらい、スタジオではロック・バンドのマルチテープをプレイバックしてみました。●シーン・メモリー
デジタル卓最大の特長はシーン・メモリー/リコール機能ではないでしょうか? ディスプレイ左にあるSCENE/RECALLボタンがそれです。リハーサルで次の曲が始まる前に、フェーダー位置やEQツマミなどをシーン・メモリーに記録。本番では曲ごとに切り替えました。それだけでリハーサルと全く同じ設定を本番でも復元できる。非常に便利です。フェーダーやEQを急いで切り替えていた今までを思うと、"これぞ、デジタル"です。●ヘッド・アンプ部
どのようなコンソールであれ、その音質を決定づけるほどの一番重要な部分がヘッド・アンプです。まずは、時計の秒針音が持つ微弱なアタック感をどのくらい拾えるかという、筆者独自の方法で試してみました。これによってゲインを上げたときのノイズ感を判断しやすいのです。次にレコーディング卓と比較し、わざとツマミを回し切って入力をオーバーロードさせた音も聴いてみました。こんな使い方をすることはめったに無いとは思いますが、S/Nはかなり良くレコーディング卓よりも美しい(?)ひずみ方をしました。デジタル機器だからこそアナログ部分にこだわった、卓越した性能バランスのヘッド・アンプだと感心しました。また、アナログのような無段階可変ではなく1dBステップ可変となっており、音が入力された状態で変化すると、音の変化が階段状になりますが、これによってヘッド・アンプもシーン設定が可能となっているわけです。●EQ部
EQは2種類のタイプがあり、通常の"Type I EQ"と、各バンド間の相互干渉を減らした"Type II EQ"を任意で選べる形で、とても通好み。マイクやスピーカーの周波数特性の補正に使う場合はType IIを選ぶと良いと思います。色付け的な使い方をしたい場合はType Iを選択するとよいでしょう。EQの効きはブーストしてもヒステリックにならず、実にスムーズで使いやすいです。●ダイナミクス部
インプット信号はEQ部の後に、この2系統のダイナミクス回路へと送られます。1系統目には、ゲート、ダッカー、エクスパンダー、コンプを用意。2つのチャンネルをステレオ・リンクさせた場合、自動的にダイナミクスもステレオ・リンクします。またゲートは外部キー・インが可能。キー・イン信号としてほかのチャンネルの信号やミックス・アウトのch13〜ch16などを選択できます。マイクのカブリが多いライブ現場を考慮しているのでしょう。続く2系統目にはコンプ、コンパンダー、ディエッサーを用意。個人的には2系統目にゲートがあると良かったのでは?と少し思いました。しかし、コンプのスペックだけを見てもアタック・タイムをゼロにすることができますし、42秒という超ロング・リリースもできるし、まさに至れり尽くせり。●バーチャル・ラック部
エフェクトは、ディスプレイ左にあるRACKボタンを押しディスプレイに表示される8Uラックにアサインしていく、というちゃめっ気があって楽しいもの。その内容は高品位なリバーブREV-Xやタイプの豊富なディレイなど48種類のライブラリーを内蔵。グラフィックEQは31ポイントすべて操作できるものと、15ポイントに限定して操作できるものの2種類があり、特に後者はポイントを15カ所に絞ることで、最大16台分のグラフィックEQとして使用できるのです。このRACKはよくできていて、RACK1〜4はグラフィックEQ専用、RACK5〜8はグラフィックEQまたはマルチエフェクトの中から選べるようになっています。例えば、RACK1と2を31バンド・グラフィックEQ、RACK3〜6に15バンド・グラフィックEQ、残りのRACK7と8に空間系エフェクトを入れる......とアサインしていくと、メイン出力、モニター、エフェクトと実際にメイン卓の脇に置いていたラックを再現できます。しかもエフェクトは全パラメーターが表示されていて、分かりやすい。ここだけを単体で発売してもいいのでは?と思わせるほど音質のクオリティも高いです。ちなみに、グラフィックEQの各ポイントの設定をフェーダーへ立ち上げて操作をすることもできます。続いて重宝したのがセンズ・オン・フェーダーです。ディスプレイ左のMIX/MATRIXボタンを押してモードに入り、各チャンネルのセンドをフェーダーに立ち上げた後、モニターやエフェクト送り量を調整。HOMEボタンを押して再度チャンネル画面へ戻り、微調整をツマミで行うやり方が、一番現場で使いやすく筆者には向いていました。全体的な出音はアナログ卓と比べても違和感が無く、特にキックやベースなどの低域では音のフォーカスがしっかりした、自然な音像でした。また操作も思っていたほど難しくはなく、慣れることでより素早く使うことができます。ライトなルックスに秘めた高機能と高音質の両立から、デジタル・コンソールも熟成期に入ったことを実感しました。

▲ディスプレイ部周辺に配置された各種ボタン。一番左には、シーン・メモリーやUSBメモリー・レコーダー、内蔵エフェクトなどを表示するためのDISPLAY ACCESSキー、レイヤー階層を切り替えるLAYERキー、ディスプレイ右にはヘッド・アンプやパン、EQなどのパラメータがあらかじめアサインされたツマミを配置している。ディスプレイ右下にあるHOMEキーを押せば、いつでもメイン画面に戻れるのも特長



▲LS9-32のリア・パネル。左から電源スイッチ、ACイン、イーサーネット端子、ワード・クロックOUT/IN、2TRデジタルOUT/IN、MIDI OUT/IN、オムニ・アウト×16(XLR)、ライト用端子、アナログ・インプット×32(XLR)という配列。下段にあるのがMini-YGDAIカード拡張用スロット×2



▲LS9-32よりもさらにコンパクトなLS9-16

YAMAHA
LS9
LS9-32(写真)/1,354,500円
LS9-16/724,500円

SPECIFICATIONS

■内部処理/32ビット
■サンプリング周波数/インターナル:44.1/48kHz、エクスターナル:39.69〜50.8kHz
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+4dBu)
■シグナル・ディレイ/2.5ms以下
■消費電力/170W(LS9-32)、95W(LS9-16)
■外形寸法/LS9-32:884(W)×220(H)×500(D)mm、LS9-16:480(W)×220(H)×500(D)mm
■重量/LS9-32:19.4kg、LS9-16:12kg