Hシリーズ最新モデルの96kHz対応デジタル・マルチエフェクター

EVENTIDEH7600

皆さんご存じのEVENTIDEのマルチエフェクターの最新モデルです。プラグインが普及し、コンピューター上で何でも処理できるこのご時世でもアウトボードのマルチエフェクトを追求し続けるEVENTIDEの心意気に興味をそそられますが、プラグインをあまり使わないアウトボード多用派の筆者にとっては大歓迎なツールです。個人的に大好きな同社のDSP4000との比較を含め、チェックしていきます。

膨大なプリセットに素早く到達できる
新しい検索機能を搭載


H7600は計1,000以上のプリセットに加え、ステレオで最大87秒のサンプリング機能まで搭載したステレオ仕様のマルチエフェクターです。フロント・パネルは従来のHシリーズ同様のデザインですが、従来と違う点と言えばTAPボタンが追加されたこと。これは以前から欲しいと思っていた機能で、リアルタイムでテンポ情報を入力できるのは作業効率上も大きな魅力です。さらに、膨大なプリセットに素早くアクセスできる検索機能は特筆すべき進化でしょう。“プリセット番号”“プリセット名”“エフェクト”などの用途別にソート機能が選べるのです。ただ1つ、バンク別に分かれた表示方法の却下は惜しまれます。この辺りは好みもありますが、使い慣れてプリセット群を大まかに把握するまでは一覧表が手放せません。また、入出力部はアナログ入出力×2に加え、デジタル入出力としてAES/EBUとS/P DIFを用意しています。さらにBNCでのワード・クロック入出力とMIDI入出力などを搭載し、イーサーネット・ケーブル経由でのエディットも可能です。

85のプログラム・バンクを搭載し
ミックスで必要なエフェクトを網羅


同社のフラッグシップであるH8000FWはマルチチャンネル対応ですが、H7600はステレオ仕様の最上級モデル。というわけでDSP4000などよりも処理能力、パフォーマンス共にパワー・アップしています。85ものプログラム・バンクにサンプリング・レートを選択できる1,000以上のプリセットという、てんこ盛りの大サービスで、ミキシング時にこれで表現できないことは無いというくらいの充実ぶり。きっと一生使われることの無いプログラムもあるでしょう(笑)。なお、ポストプロダクションなど向けのプリセットも新搭載されています。まず、定番のリバーブものをドラムやボーカル・トラックなどにアナログ入出力経由で試します。全体的な印象は、DSP4000と比較しても、よりキメ細やかで広がりと奥行きのあるリアルなサウンドで、進化を感じさせます。今回試したのはスロー・バラード主体のバンドなので、ハイサンプリング・レートのルーム系やプレート系がとてもよく合います。個人的にはジャンルや楽曲の種類によって故意にサンプリング周波数を落として粗悪に汚すことがあります。特にロック・バンドなどでは粗めの空間系の方がなじむのですが、そういった用途でもH7600はしっかり表現できます。良い意味で伝統の“ガッツある音”を受け継いでいると言えるでしょう。なお、個人的には“UK Ambience”“Big Room”といったプログラムが使いやすく、気に入りました。フェイザーやフランジャーなどの飛び道具系にも今まで聴いたことが無いような変なプログラムがあったりと、よりエグいプログラムが増えているのもうれしい点です。次に、96kHz対応ということで本機とDIGIDESIGN 192 I/OをAES/EBUで接続し、マスタリングも行ってみます。プログラムは“Mastering Suite”の“Bigger and Brighter”“Class A Distortion4”をラフと本チャンの2ミックスの両方に試したのですが、大ざっぱにパラメーターをいじってもアナログ的な質感で音質が変化するので大胆な音作りも可能です。私が普段使っているどのプラグインよりもナチュラルかつ、パワフルなサウンドで表現できたのはとても驚きです。同時に、アナログ出力の音質とも比較したのですが、両方とも申し分なく、用途によって使い分けても良いでしょう。このようにプロの現場から個人でマスタリングを手掛けるクリエイターまで、幅広く対応できるクオリティだと言えます。さらに、ちょっと変わった使い方としてH7600をワード・クロックのマスターとして使ってみましょう。今回試したのは96kHzのみですが、輪郭がハッキリしてダイナミクスが豊かになり、温かいサウンドに変化します。デジタルで処理している限りレイテンシーの問題は常にありますが、ジャンルや状況に応じてコンプやEQなどを活用できるA/D&D/Aといった使い方も考えられそうです。今回の現場で使用してみて、想像以上のクオリティを維持しているという点と、多くの用途でさまざまな使い方ができる点に大きく魅力を感じました。デュアルDSPを搭載したH8000は別格だとしても、やはり専用DSPを搭載しているという点でプラグインとはまた違った最高音質の機種と言えるのではないでしょうか。今度はぜひ実際のミックスの現場で試してみたいです。

▲リア・パネル。左からSERIAL、REMOTE、MIDI THRU/OUT/IN、RELAY、PEDAL×2、ワード・クロック入出力(BNC)、デジタル入出力(S/P DIFコアキシャル、AES/EBU)、アナログ出力(XLR)×2、アナログ入力(XLR/TRSコンボ)×2

EVENTIDE
H7600
787,500円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96kHz
■周波数特性/20Hz〜20kHz(44.1kHz)、20Hz〜22kHz(48kHz)、20Hz〜41kHz(88.2kHz)、20Hz〜44kHz(96kHz)@+0/−0.1dB
■デジタル入出力/AES、S/P DIF
■入力インピーダンス/20kΩ
■ダイナミック・レンジ/105dB
■SN比/105dB、A-weighted
■外形寸法/483(W)×89(H)×317(D)mm
■重量/5.5kg