充実したプリセットで的確かつ素早い設定が可能な2chコンプ/ゲート

T.C. ELECTRONICC300

T.C. ELECTRONICから2chデジタル・コンプレッサー/ゲートのC300がリリースされた。同社のGold ChannelやFinalizerを愛用してきた筆者にとっては興味津々。同社製品でいつも感心するのは、コンセプトの強く感じられる独自のアウトボードをリリースしていること。C300はどうだろうか?

2基のプロセッシング・エンジンは
モノ×2/ステレオ直列処理に対応


まずフロント・パネルから。一番左に見えるのが、デュアル・モノ/ステレオ・シリアル処理の切り替えができるroutingスイッチ。本機には2基のプロセッシング・エンジンが用意されており、入力ソースを1chずつ独立してコンプレッションできるほか、各エンジンはステレオ処理も可能なので、ステレオ入力ソースを直列でエンジンにルーティングして2段階のコンプ処理、もしくはゲート処理もできるのだ。その右に見えるのが、入力ソースに応じて16種類のプリセットが選べるツマミ。本機にはコンプ用のアタック/リリース・ツマミが無いのだが、このプリセットによって自動的に適した値になるため、設定に頭を悩ます必要が無いのは逆に利点。またプリセットによっては、マルチバンド処理を行うものもあり、この辺は後ほど実際に試しながら使用感をレポートしていこう。なお、このプリセットはコンプ/ゲートの両モードに対応する。入力レベル/リダクション・メーターを挟んで、4つ並ぶツマミがthreshold、ratio、makeup│release、mix│amount。その上には、comp│lim/gate│expスイッチがあり、そこでコンプ/リミッターとゲート/エキスパンダーの機能を切り替えることになる。なお、makeup│release、mix│amountの両ツマミは、それぞれ左の表示(makeup、mix)がコンプ時、右の表示(release、amount)がゲート時に働くパラメーターとなっている。このセットがパネル上にエンジン2基分、用意されるという構成だ。一方のリア・パネルは、アナログ入出力×2(TRSフォーン)、デジタル入出力×1系統(S/P DIF)、MIDI IN/OUT、ペダル端子を用意。ちなみにMIDI端子はパラメーターを操作するものではなく、内部ソフトのアップデート用だ。

ボーカル系のプリセットが秀逸
マスタリング・ツールとしても使用可


早速使ってみよう。DAW上の素材へ本機をインサートして、コンプ・モードで各プリセットの効きを試してみる。デジタルI/O装備なので、DAWからデジタルのまま接続できるのが便利だ。まずアコギ・トラックを、プリセットの“acoustic guitar”に通して聴いてみる。そのままではミックスの中で埋もれがちだったアコギが、自然と前へ出てきた。次に男性ボーカルに“male vocal”をかけてみる。このプリセットはマルチバンド処理なのだが、これはいい。一発で気に入った。アナログ・コンプ的にかなりつぶしても輪郭が前へちゃんと出てくれるのだ。特に倍音の多い男声に合うだろう。試しに同じ男声を“female vocal”のプリセットに通してみたところ、ゴリゴリした感じが薄れシルキーになった。この辺はプリセットの表記に関係なく、いろいろ試してみるといいと思った。続いて女性ボーカルを“female vocal”で聴いてみる。このプリセットもマルチバンド処理で、EQ的な処理も含めて上手に歌をまとめてくれた。本機は男声/女声問わず、とにかくボーカルに試してみる価値ありのコンプという印象だ。さらにスネア・トラックを“snare dm”で聴いてみる。ボーカル系と違い、打楽器系のプリセットは通常のフル・レンジ処理なので、聴き慣れたコンプ・サウンドが出てきた。やや遅めのリリースでつぶされたあのスネア音だ。ここで少し話題がそれるが、C300には先ほどちょっと紹介したmix│amoutツマミという、通常のコンプにはあまり無い操作子が用意されている。これはいわゆるドライ/ウェット・ツマミで、コンプされた音と原音の混ぜ具合を調整できるもの。実際にツマミを回して、コンプレッションしたスネアに原音を混ぜてみると、なるほど、つぶれた感じが和らぎ、サステインもずっと自然になる。通常、原音とコンプ処理後の音では位相ズレの問題が起こりやすいため、コンプでは珍しいツマミだが、今回試した限りでは、位相的な問題が起こることは無かった。これはすごいことだ。続いて、最近手掛けた2ミックスをアナログ入力して、本機をマスタリング・ツールとして使えるかどうかも試してみた。肝心の音だが、マルチバンド処理の“composite”で試してみたところ、なかなかいい感じでマスタリングができた。帯域セレクトに当たるパラメーターは無いが、いい具合にハイとローが強調された今風の音になった。リダクション量を増やすと音にエッジ感が付き、ドンシャリ傾向になるのがはっきり分かる。コンプレッサーは通常つぶすほど音がこもりがちになるが、これは全く逆だ。宅録の最終段階で本機を通すだけで、ミックスがかなり良くなった気分が味わえるに違いない。コンプのパラメーターは難しい。しかしプリセットを選ぶだけでさまざまな場面で使えるのが本機の利点だ。また、瞬時に設定できるコンプという意味では、レコーディングだけでなく、PAの方にも支持される製品だと思う。何しろ安いし、筆者も欲しくなってしまった。

▲リア・パネル。左からアナログ入力×2、アナログ出力×2(ともにTRSフォーン)、S/P DIFデジタル入出力×1系統(コアキシャル)、MIDI IN/OUT

T.C. ELECTRONIC
C300
36,750円

SPECIFICATIONS

■最大出力レベル/+21dBu
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0/−0.1dB、アナログ出力)
■全高調波歪率/typ<−94dB(0.002%)@1kHz、+21dBu(アナログ出力)
■対応サンプリング・レート/44.1/48kHz
■外形寸法/483(W)×44(H)×105.6(D)mm
■重量/1.5kg