どうも最近、気になってしまうことがあります。理由は仕事柄なのか、はたまたそういった機会が多くなったためなのか、必ずと言っていいくらい真剣になってしまうのが、何気なく見ていたはずの音楽番組やビデオ・クリップ。“このボーカルのマイクは○○の○○で歌っているぞ”といった独り言が日課となっているのです。確かに最近は使われるマイクに随分変化が生じているようで、録音用ではなくライブ用モデルにもコンデンサー・マイクが増えてきました。これまでもライブ用として使われていたモデルは何種類かありましたが、高価で特性的に難しく（フィードバックを起こしやすい＆ポップ・ノイズに弱い……など）、一般的にPAの現場ではダイナミック・マイクがまだまだ主流だったのではないでしょうか。そんなことを考えていたら面白いもので、奇遇とも言えるタイミングでダイナミックの名門、SHUREの新しいコンデンサー・マイクKSM9のレビューをというお話が。早速、チェックしていきましょう。
２種類から選択可能な指向特性や
高品位なデュアル・ダイアフラム
KSM9は高品位な音響特性を備えたライブ用のハンドヘルド・コンデンサー・マイクです。資料を見るとSHUREは以下のように書いています……“透明感のある抜群の音質は、アーティストを満足させるだけでなく、オーディエンスを引き付け、より一層一体感のあるライブ・ステージを演出します”と。さて、このような自信満々のコメントの根拠だと思われる部分を４項目に分けて列挙していきましょう。
①24金メッキを施した超薄型／軽量のマイラー素材のダイアフラムを２枚使用した、デュアル・ダイアフラムを採用。
②高品位Ａ級トランスレス・タイプの増幅回路を採用。加えて、各部に厳選された経年劣化の心配の無い高品質のパーツを使用。
③２種類の指向特性（カーディオイドとスーパー・カーディオイド）が選択でき、グリル内部のスイッチで簡単に切り替えが可能。
④ポップ・ノイズやブレス・ノイズを低減させる三層構造のポップ・フィルターや外部振動からダイアフラムを守るショック・マウントを内蔵。
以上のように、優れたトランジェント特性や耐久性など、基本的な性能の向上が期待できるようです。また、シャンパン・ゴールド（写真：KSM9/SL）とチャコール・グレー（KSM9/CG）のカラー・バリエーションが用意されているほか、アルミニウム製キャリング・ケースも付属しています。
はっきりとした輪郭があり
力強く抜けてくるサウンド
さて、実際に使用してみましょう。まず一番の印象としては、“スッキリとした透明感のあるリッチな音質”。これは男性／女性ボーカルどちらにも言えますが、確かに繊細で高品位な印象です。何もしなくてもボーカルの輪郭がはっきりして、なおかつ力強く抜けてくる感じがあります。ささやく歌はもちろんですが、張り上げたときによくある中高域のザラつきやギラギラ感は少しもなく、優しくストレートなサウンド。また、特に男性ボーカルのときに強く感じる豊かな低音が魅力的で、こもった感じが少しもなく、なおかつ太い男性ボーカルが表現できます。レコーディングでも十分に活躍しそうなので、機会があればぜひ試してみたいですね。
次に指向性を変えて試してみましたが、音質的にはほとんど違いがありません。ただカーディオイドで使用した場合の方がアンビエンス的に空気感を感じます。指向性は用途に合わせて、例えばアコースティック編成はカーディオイドで使用、また音量のあるバンド編成のときはスーパー・カーディオイドで使用するなど選択できるのがうれしいです。指向性切り替えは実に簡単に操作ができますが、切り替えスイッチがグリル内部にあるなど安全性も考えられています。さらにこのマイクの特長ですが、ハンドリング・ノイズやポップ・ノイズには非常に強い印象を受けました。
KSM9は、ボーカル・マイクの老舗SHUREならではの素晴らしいライブ用コンデンサー・マイクと言えると思います。確かにレコーディングに比べると過酷な状況と言えるライブ会場で使用するには価格的に高額と思われますが、すべての部分において考えられていて、ストレスを感じない音作りはもちろん、耐久性も問題ないでしょう。当然音楽性やアーティストによって使用する場面を選ばなければなりませんが、まずは“良質な音を求める”にはぴったりのマイクだと思います。
最後になりますが、最近は素晴らしいハンドヘルド・コンデンサー・マイクがどんどん出現しているなと感じます。しかし、最終的にはボーカリストに合ったマイク選びが必要になってくるのです。そのためにもさまざまなマイクに出会い試してみることが重要になってきます。高価な場合もありますが、そのマイクの特性を理解した上で用途をイメージし、そして良い音を追求するための最適なマイク・プランを実現しましょう。
SPECIFICATIONS
■形式／エレクトレット・コンデンサー
■指向性／２段切り替え（カーディオイド／スーパー・カーディオイド）
■周波数特性／50Hz〜20kHz
■出力インピーダンス／150Ω
■外形寸法／49（φ）×191（H）mm
■重量／300g
