DAW環境などへNEVEサウンドを付加できる16chサミング・ミキサー

NEVE8816

多くのソフトやプラグインが開発されている中、目立つのはビンテージ・アナログ機器の模倣だ。DAW主流の今、本物のアナログの良さが再認識されているということなのだが、我々エンジニアもよりアナログ感を出すために試行錯誤を繰り返す毎日である。そんな折、世界のレコーディングを半世紀もの間支えてきたあのNEVEから、16イン/2アウトのサミング・ミキサーが発売された。ミックス・バスには往年のクラシックNEVEコンソールと同じトランス回路が使用されており、DAW環境などへ伝統的なNEVEサウンドを付加することができる。

通すだけで実感できる
NEVE特有のつややかで骨太な音


では接続端子からチェックしよう。16ch分の入力端子は、DIGIDESIGN Pro ToolsのI/Oと同じピン配列のD-Sub25ピン・タイプ(8chずつ)で、そのケーブルは別途購入が必要。同じくD-Sub25ピン端子として、メイン・ミックスのプリフェーダー・センドやAUXバス・センドなど5ch分のインサート・アウト、メイン・ミックスのインサート・リターンや2trインなど8ch分のインサート・イン、メイン・ミックス・アウトやCUEアウトなど8ch分のメイン・アウトも装備。加えて1系統のミックス・アウト、2系統のスピーカー・アウトはフォーン端子でも用意されている。フロント・パネルには、CUEスイッチ、パン・ツマミ、ゲイン・ツマミ(−∞〜+15dB)、カット/ソロ・スイッチを16ch分装備。そしてパネル右手には各アウトのレベル・ツマミのほか、トークバック・マイクも付いている(後述)。NEVEコンソールからレコーディング・センターとして必要な部分だけを2Uラック・サイズに凝縮した感じだ。さらに興味深いところではAPPLE iPodなどをつなぐためのミニ・ステレオ入力"iMon"も装備されていて、いかにも今の時代を感じさせる。早速、現在進行中のPro Toolsセッションから、リズム隊、コード楽器、ボーカルの3系統のステレオ・ソースを8816に入力してみる。ミックスされたサウンドを再びPro Toolsに戻し、サウンド・チェック。インプット・レベル関連はシグナル・ジェネレーターで正確に設定したので、"8816を通っただけ"というセッティングだ。出てきた音は、やはり想像していた通り! レンジやワイド感はやや薄れたが、NEVE独特のつややかさや骨太さが出ている。データ的に言えば16kHzから上が抑えられ、8〜9kHz辺りが持ち上がっている。中域は比較的フラットでありつつ、400〜500Hzは少しスッキリした感じで、150Hz近辺にやや膨らみが見える。全体的に"つややかにまとまった"といった印象だ。聴感上の差として大きなところは、データで見る以上にグッと音を前へ出してくれる点。ここに今のDAWだけでは再現しきれないアナログの"壁"が存在しているのだろう。混ざり具合もごく自然で余計なひずみは一切感じられない。この余裕のサウンドはさすがNEVEだ。

ステレオ感を調整できるWIDTHツマミ
付属ソフトを使って設定リコールも可能


本機はミックスだけでなく、ダビング時のミキサーとしても使えるようになっており、モニタリングに必要な機能も搭載されている。例えばヘッドフォン・アウト(フロント&リアの計2系統)には、メイン・ミックスまたはch15/16+任意1chを切り替えて送ることが可能だ。ただし、本機のCUEシステムは独特なので多少の慣れも必要だろう。とはいえヘッドフォン・アウトのクオリティは高く、幅広いインピーダンスに対応するため、600Ωのヘッドフォンでも無理なく使用できた。ちなみにヘッドフォンの音量ツマミはプッシュ式のスイッチにもなっており、押すことでパネルに埋め込まれたトークバック・マイクが作動。同時に減衰装置が働いたときには思わず笑みがこぼれたが、本機を卓代わりに使ってほしいという意図が伝わってきた。もう1つ興味深かったのがWIDTH機能。スイッチをオンにしてツマミを左に振り切った状態でモノ、約10時ぐらいでほぼ原音と同じステレオ・イメージとなり、さらに右へ回して行くとサウンドに独特のワイド感が加わっていく。ミックス時にエフェクト的に利用したり、ライブやDJパフォーマンスとして使っても面白いだろう。ちなみに本機は、Neve Recallというソフト(Mac/Windows対応)も付属しており、設定のトータル・リコールが可能だ。ソフトとUSBドライバーをインストールし、後は本体をコンピューターへUSBケーブルでつなぐだけでセッティングは完了。スイッチ類は完全にリコールでき、ツマミはコンピューターに映し出されるポイントに手動で合わせていく方式だが、実際に出音を比較してみたところ意外と再現性が高かった。さらにオプションでフェーダー・パックや最大192kHz/DSD対応のA/Dを追加することもできるので、使用の幅はより広がるだろう。このように8816は、伝統のアナログ・サウンドを付加できる強力なツール。今後、DAW環境で重宝されるに違いない。

▲リア・パネル。左からヘッドフォン・アウト、スピーカー・アウト×2系統、メイン・アウト×1系統(以上フォーン)、その右上はインプットch9〜16、インプットch1〜8、その下は8ch分の各種出力がまとめられたメイン・アウト、8ch分のインサート入力関連がまとめられたインサート・イン、5ch分のインサート出力関連がまとめられたインサート・アウト(以上D-Sub25ピン)、USB、トークバック用フット・スイッチが並ぶ。なお左上はオプションのデジタル出力端子用スペース

NEVE
8816
オープン・プライス(市場予想価格/500,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)
■入力インピーダンス/>20kΩ(+4dBuバランス)
■最大入力レベル/+26dBu(バランス)
■最大出力レベル/+26dBu(600Ωバランス)、+14dBu(600Ωアンバランス)
■外形寸法/483(W)×88(H)×390(D)mm
■重量/7kg