楽器メーカーであるROLANDからヘッドフォン、RH-300がリリースされた。本誌1月号の企画でヘッドフォン総当たりチェックをしたから? それともヘッドフォンでミックスしているのがばれたからなのかチェックの依頼がきた。価格もルックスも、スタジオでよく見かけるSONY MDR-CD900STを意識しているように感じられるが、その実力は果たしてどうなのであろう。期待と不安が入り交じりながら箱からヘッドフォンを取り出してみた。
耳がすっぽり収まる大きさのユニット部
気持ちのよい密閉感が好印象
箱から出してまず驚くのはデザインがMDR-CD900STとよく似ているということ。結構マジでスタジオ・モニターの次期定番を狙っているのだという想いが伝わってくる。MDR-CD900STはスタジオでよく使用されているので、モニター用ヘッドフォンの新製品は、どうしても比較されてしまう。そこで今回は両者のガチンコ勝負をしてみた。まずはスペック。どちらも形式は密閉ダイミック型。再生周波数帯域はRH-300が10〜25,000Hzなのに対して、MDR-CD900STが5〜30,000Hz。最大許容入力は1,600mW対1,000mW、インピーダンスは40Ω対63Ω、本体重量は250g対200gだ。ここから想像できるのは、RH-300の方がパワーを突っ込めて、なおかつ同じパワーのヘッドフォン・アンプで鳴らした場合に音量が大きく感じるのだろうということくらいか。早速装着してみよう。重さも大きさもたいして変わらない両者であるが装着感には随分と違いがある。RH-300の方がピッタリ感が強い。かといって締め付けが強いというわけではないのがなかなかうまいセッティングだ。またRH-300の方がユニット部が一回り大きく、イア・パッドの中に耳がすっぽり収まる大きさなのも結構自分好みです(自分は結構耳が大きい部類だと思うが)。ただし、DJをするときはこの密閉感が個人的には嫌いなので逆にMDR-CD900STの “ほどほどな密閉感”が使いやすかったりもする(ユーザーってわがままだよねえ)。まあ、それも個人の好みの問題ですからね。より強い締め付けのヘッドフォンを好む人もいるわけでね。これは実際に店頭で装着して肌で感じてほしい。
大きな音でも耳が痛くならず
ナチュラルな低域でパワー感も十分
では肝心の音のチェックをしてみよう。ソースは山下達郎『FOR YOU』に収録の「SPARKLE」と、自分が手掛けた倖田來未 「No Regret」のリミックス。前者はCD、後者はAPPLE Logic Pro 7.2のプロジェクト・データで再生した。RH-300は密閉感があるのでかなり低域が強調されていると予想したが、それに反してかなりナチュラルな低域だ。パワー感も十分。大きな音で聴いても耳が痛くならない。ん? ってことはその辺の帯域が抑えられているってことか。早速EQをかまして探ってみる。すると、3.5kHz辺りがへこんでいる感じ。それも結構大胆に。「No Regret」はMDR-CD900STでバランスを作ったのだが、RH-300で聴くとやっぱり3.5kHz辺りの抜けが悪い。 この帯域はスネアとかリズム関係の派手さを出す部分なので随分と曲の印象が違って聴こえる。そこでEQで3.5kHz辺りを4dBくらい派手に持ち上げてみる。するとMDR-CD900STで聴いていたときと近い感じになった。次に「No Regret」をモニター用のしょぼいスピーカーで鳴らすとやはり何か抜けが悪いので先ほどEQで探った3.5kHz辺りを持ち上げてみたところバランスよく聴こえちゃった(笑)。ということは、もしかすると単にRH-300がへこんでいるだけではなく、MDR-CD900STの3.5kHz辺りが少し出っ張っているのかもしれない。実際、自分のミックスをマスタリングするときは必ずと言っていいほどその辺りの帯域の足りなさを感じて補正してもらうのだけれど、それもヘッドフォンの特性だったという訳かも! しかし、CD作品の「SPARKLE」をRH-300とMDR-CD900STで聴き比べても、RH-300ではやはりちょっと3.5kHz辺りは物足りなく感じてしまう。ただ、逆に言えばRH-300で気持ち良いバランスのミックスを作れば自分の欠点(?)でもある3.5kHz辺りが補正できるってことか? う〜ん、こりゃまた迷宮だ。ヘッドフォンで完パケまでミックスするなんて一昔前はアリエナイザーな話だったけど、今や自宅でミキシングしている人が随分多くなっている。その多くは大きな音が出せないような住環境だったりするわけで、自分も同じような環境なのでその切実さはよく分かっている。そんな中でリリースされた本機。少し癖はあるもののパワー、装着感、お値段など十分にリスニング・モニターとして使用できると感じました。許容入力レベルの大きさも楽器などで直接使用する際に大きな武器になるのではないでしょうか(3.5kHz辺りを削っているのはそういう製作意図もあるのかも)。おれも乗り換えてみようかな。
SPECIFICATIONS
■形式/密閉型ダイナミック・ステレオ・ヘッドフォン
■周波数特性/10Hz〜25kHz
■インピーダンス/40Ω
■感度/101dB/mW
■最大入力/1,600mW
■重量/250g(コードを除く)