6本の真空管をぜいたくに使用した抜けの良い音質の2chマイクプリ

PRESONUSADL600

今回紹介するPRESONUS ADL600は同社の社長ジム・オドムと、TELETRONIX LA-2Aのコピー・モデルとして有名なANTHONY DEMARIA LABS ADL1000などの真空管を搭載した機材の設計で有名なアンソニー・デマリアが協力して作り上げた2ch仕様の真空管マイク・プリアンプです。しかも、何と1chにつき3本の真空管を使用しているとのことで、極上サウンドを期待してしまいます。

外見/入出力部/内部回路
すべてにこだわり抜いた設計


まずは外見のチェック。奥行きと横幅がほぼ同じの2Uサイズで、しかも大型電源トランスを搭載しているため12.7kgとなかなかの重量感です。フロント・パネルには中央に2つのVUおよびLEDメーターを配し、その両側にボリュームつまみをレイアウト。下部にはつや消し黒のパネル・カラーとマッチしたブルーのLED付きスイッチ類が整然と並ぶ美しいインターフェースです。機能的にはデジタル要素の無い完全アナログ設計。端子やつまみもシンプルに配置されているので、説明書を読まなくてもすぐに使えるでしょう。入力端子はフロント・パネルにインスト(フォーン)、リア・パネルにライン、マイク(ともにXLR)の計3系統が装備されており、マイク入力ではインピーダンスを150/300/900/1,500Ωから選択可能。マッチングはもちろん、インピーダンスによるニュアンスの変化を活用することもできます。そのほかにもハイパス・フィルター、入力ゲイン・セレクター、±10dBの範囲で出力レベルを微調整できる可変式アッテネーターなどが装備されていて、入出力音の調整は自由自在。さまざまな状況に対応しつつ、かつ幅広い音作りを行えるでしょう。1chに3本ずつ搭載されている真空管はプリアンプ部に12AT7Aと6922、出力部にもう1本6922という構成。内部の回路に関しても最短の信号経路を目指した非常に精密な設計がなされており、ノイズの増加や音質の劣化は最低限に抑えられているようです。

高い動作電圧が生み出す
存在感のある音像が特徴


それではコンデンサー・マイクのNEUMANN U87を使って実際に音を聴いてみましょう。まずはアコギでチェック。アルペジオやメロディ弾きでは中低域が充実した粒立ちおよび抜けの良いキャラクターです。コード弾きやストロークのカッティングでは音の立体感がはっきり聴こえます。特にアタック時の倍音が伸びやかに感じられると言えばよいでしょうか。男女のボーカルでチェックしてみると、中域が豊かなツヤのあるサウンド。子音が誇張されるといったことはありませんが、吹きで起こる低域のノイズは若干、多めな印象です。これは上下に広い周波数特性ゆえのことでしょう。インスト入力でエレキベースとRHODESを試してみると低域/高域共にレンジの広さが感じられます。ゲインも十分に余裕があるのでインピーダンスの高い楽器も問題ありません。続いてDIGIDESIGN Pro Tools|HDの2ミックスをインサート接続してみましょう。結果、低域から高域まで空気感が増してレンジが広がり、グッと音楽的に表情豊かになった感じがします。このような使い方はDAWオンリーでの制作環境から生じる、特有の音質に対して違和感を感じている方に十分お薦めできると思います。全体的には、高域の伸びに起因した空気感&存在感のある抜けの良いサウンド・キャラクターが特徴と言えます。しかも、簡単には音がひずみません。音質重視の丁寧な設計に本機のコンセプトが伺われます。今回は試せませんでしたが、アコースティック・ピアノ、ドラムやパーカッションなどの音の立ち上がりが速く倍音の多い音とも相性が良いのではないでしょうか。ただ、低域の特性も広いのでマイクの収音環境が必ずしも恵まれていない自宅録音のような状況では、屋外からのノイズやコンピューターの冷却ファンなどまでも無差別に収音してしまう恐れがあります。ハイパス・フィルターなどの使い方や、ノイズを聴き分けることのできるモニター環境への工夫が必要となりそうです。なお、最低でも1時間はウォームアップをした方が好ましいと感じました。ADL600命名の由来は、回路内部の動作電圧値である300Vの2ch分というところから来ているそうです。内部で電圧を高めることで真空管のひずみを抑えて、チューブ・マイクプリの良さを引き出す設計コンセプトのようです。現状からのシステム・アップを考えるなら、お薦めの1台です。

▲リア・パネル。左から電源ケーブルのインレット、ch2ライン入力(XLS)、ch1ライン出力(XLR)、ch2ライン入力(XLR)/マイク入力(XLR)、ch1ライン入力(XLR)/マイク入力(XLR)

PRESONUS
ADL600
386,400円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜45kHz ±1dB
■入力インピーダンス/150/300/900/1,500Ω(マイク入力、切り替え可能)、2kΩ(ライン入力)、100kΩ(インスト入力)
■最大入力レベル/+25dB(マイク入力、+20dB PAD使用時)、+30dB(ライン入力)、+30dB(インスト入力)
■最大出力レベル/+23dB (@0.5%THD+N)
■出力インピーダンス/600Ω
■外形寸法/483(W)×89(H)×432(D)mm
■重量/12.7kg