薄型&軽量で宅録/野外録音へマルチに対応する8trデジタルMTR

BOSSBR-600

もはや“8trデジタルMTRの新製品!”といううたい文句を見ても、あまり目新しさを感じない方もいると思いますが、侮るなかれ! このBR-600は従来のミキサー一体型デジタルMTRとは一味も二味も違うんです。厚さ27mmという極薄のルックスはもちろん、機能面も充実。これからMTRの購入を考えている方、DAWを使っていてマンネリ気味の方、必見です。

極薄ボディにマイク入力2系統を用意
エフェクターやリズム・マシンも装備


最初に目を引くのが、何と言ってもB5ノート・サイズのボディでしょう。これだけ薄ければギター・ケースのポケットにだって簡単に収まるし、スタジオやライブ・ハウスへの持ち運びも全く苦になりません(専用ソフト・ケースも付属)。ACアダプターのほかに単三乾電池×6本での駆動にも対応しているので、屋外での本格的なフィールド・レコーディングも行え、機動性はバツグンです。入出力はステレオ・ライン・アウト×1(RCAピン)、ライン・イン×1(ステレオ・ミニ)、マイク・イン×2(TRSフォーン)、ギター/ベース・イン×1(フォーン)、ヘッドフォン端子×1、USB端子×1、フット・スイッチ/エクスプレッション・ペダル端子×1を用意。そのほかマイク接続の際に便利なXLR→TRSフォーンの変換ケーブルも付属されているので、多様な環境に対応できるでしょう。なお、本体内にステレオ・マイクも内蔵されています。スペック面をざっと見ていくと、録音可能なトラック数は8tr×8バーチャル・トラックの計64trで、同時2tr録音/8tr再生に対応。録音メディアはコンパクト・フラッシュを採用しており(写真①)、付属の128MBコンパクト・フラッシュで約65分(Hi-Fiモード/1tr換算)の録音ができます(録音タイプはHi-Fi/STD/LONGから選択可能)。容量オーバーの心配があるなら、別売りの1GBコンパクト・フラッシュを使うことでHi-Fiモードでも約520分の長時間レコーディングが可能だし、BR-600とパソコンをUSBケーブル1本で接続して本機のデータをパソコンへ保存していけば、1枚のコンパクト・フラッシュを使い回すこともできます。ちなみに、パソコンへは曲のバックアップのほか、WAV/AIFFファイルのインポート/エクスポートもできるので、DAW環境との併用や、BR-600で作った楽曲をパソコンでオーディオCDに焼くといった作業が簡単に行えます。

▲写真① コンパクト・フラッシュはパネル右のカバーを開けて挿入する。カバーはビス止め式なので、使用中に誤ってコンパクト・フラッシュが抜けてしまうようなトラブルは無い 本機はデジタルMTRならではの編集機能も充実しています。コピーなどの編集は非破壊なので、アンドゥで作業のやり直しが可能。納得いくまで録音が行えます。また、録音済みの素材のピッチを変えずに再生速度を半分にするタイム・ストレッチ機能は、耳コピや速弾きの練習などにも重宝しますし、ステレオ・トラックのボーカル(センター定位のもの)を目立たなくするセンター・キャンセル機能はボーカル練習にも使えるでしょう。内蔵のエフェクトは5カテゴリーから構成されており、そのうちCOSMテクノロジーによるギター/ベース用高品質アンプ・モデリングやボーカル/キーボード用のマルチエフェクター(表①)をはじめとしたインサート・エフェクト、ミックス・ダウンでは欠かすことのできないリバーブやコーラスなどのループ・エフェクト、そして各トラックEQの計3系統は同時に使用することも可能。そのほかにピッチ・コレクション機能によるボーカルのピッチ修正やミックス・ダウンで仕上げた楽曲の音圧を上げて、よりパンチの効いた曲へ仕上げられるマスタリング・ツール・キットも装備しています。
▲表① 内蔵のマルチエフェクト・リスト。ギター/ベース用プリアンプはもちろん、このほかにマスタリング・ツール・キットなども用意されている さらに、本機にはドラム・パート作成が可能なリズム機能も搭載されています。本体内蔵のドラム音色を使った、いわゆるリズム・マシン的な使用はもちろん、録音済みの音やUSB経由でインポートしたWAV/AIFFファイルをドラムの音色として使用できるトーン・ロード機能も装備されています。これで完全に心を奪われました。

内蔵マイクやHi-Z端子の装備により
アコギ〜エレキ録りまで対応


BR-600がただ薄いだけのMTRではないということが分かったところで、実際に使用してみましょう。電源を入れて新しいソングを作成、これだけもうスタンバイOKです。ここまで簡単に録音準備ができると、ふと思いついたアイディアも忘れないうちにレコーディングできるのでうれしい限り。これぞ宅録の原点(=初期衝動の記録)です。まずはフロント・パネルに装備された内蔵ステレオ・マイクを使ってアコギ録音に挑戦。ヘッドフォンでモニターしながら、ギターの向きを変えて鳴りの良いポイントを探してみると、これが思いのほか簡単に見つかる上に、ステレオ収音ならではの臨場感で音質もすこぶる良好。というか、どんな位置からでもなかなか良い音で録音できるため、マイクの位置をそれほど気にせずプレイに集中できるのがうれしいですね。音の方も余分な低音が良い意味でカットされるので、録音後のEQ補正も必要なく、実にアコギらしい音での収音が行えました。“アコギのマイク・セッティングに時間を費やす割には、思うような音で録音できない”という方にとって、もしかしたらこの内蔵マイクは目からウロコかもしれません。次にエレキギターの録音です。ギターやベースはパネルの手前に装備されたギター/ベース・イン(Hi-Z)へ直接ケーブルを接続するだけでOK。もちろんエフェクトのかけ録りも可能です。インサート・エフェクトはGUITAR/MIC/LINE/SIMULに分類され、入力ソースへ適したエフェクト・パッチが既に用意されているので、ギターを録音したい!と思ったらEFFECTSボタンをオン、INPUTボタンをGUITARへ切り替えるだけですぐにギター用エフェクト・パッチが立ち上がってくれます。既存のプリセットはどれも優秀なのでお目当ての音色もすぐ見つかるし、さらに作り込めば変態的なギター・サウンドを出すことも可能。音質はさすが老舗BOSSだけあって素晴らしいです。特にCOSMアンプ・モデリングはシミュレーターとして秀逸で、本格的なバンドのデモ作りでもBR-600が1台あればOKでしょう。さらにちょっと踏み込んで、BR-600とパソコンの連携を生かした使い方をしてみます。まずUSB経由でパソコンからドラム・ループのオーディオ・ファイルをインポート。読み込みトラックや開始小節の指定など、ごくわずかな作業でインポートは完了です。次にこの1小節のドラム・ループを何小節分かコピーしてみましたが、作業は説明書を読まずとも容易に行えたので、初心者の方も心配要らないでしょう。ちなみにDAWをメインに制作されている方は、BPMさえ合わせてドラムを録っておけばいつでもDAWとの連携が行えるので、外スタジオでBR-600に生ドラムを録音して、DAWで作業するということも可能でしょう。また、自宅でボーカル録音の際にコンピューターのファンの音で悩まされている方は、BR-600にオケをインポートして別室に持ち出し、そこで歌録りすればノイズ混入の心配もありません。この使い勝手の良さは、機動性&パソコンとの連携に優れている本機ならではです。

トーン・ロード機能を使って
サンプラー感覚のプレイも可能


最後に、個人的に本機の目玉だと思っているリズム機能を使ってみましょう。使用法としては、内蔵の9種類のドラム・キットを選び、パターン・モード(パターンの作成や繰り返し再生)と、アレンジ・モード(任意にパターンを並べて構成)を選択する方法がポピュラーです。前者では、パネルに装備された5段階ベロシティ対応の12個のパッドをリアルタイムでたたいてオリジナルのパターンを作成することが可能なので、人間味のある繊細なプレイも再現できます。パターンをループさせるだけでなく、自分の手でたたけるのはやっぱり音楽的で楽しいものです(写真②)。なお、このドラム・トラックは8つの同時再生トラックとは別に設けられているので、空きトラックを気にする必要はありません。
▲写真② パネル右に用意された12個のパッドで、ドラムの打ち込みが可能。トーン・ロード機能を使ってオリジナル素材を割り当てればサンプラー感覚で演奏することもできる しかしながらこのリズム機能のだいご味は、何と言っても録音済みのドラムの音やインポートしたオーディオ・ファイルを使って、オリジナルのキットを作成できるトーン・ロード機能でしょう。オリジナルのドラム・キットを作るのもいいのですが、ここではちょっと変わった手法として、先ほど録音したアコギのフレーズをコードごとに切り出してオリジナルのアコギ・キット(?)を作成してみました。それぞれの再生ポイントを正確に設定できるスクラブ再生機能などを使いつつ、各コードを12個のパッドへアサインしていけば準備完了。振り分けられたパッドを自由にたたくことで、思いも寄らない斬新なアコギ・フレーズを作り出せました。ほかにもボーカル・キットを作ればボイス・パーカッションも可能だし、アイディア次第で面白いオリジナルのキットを組むことができますね。パッドの感度も良く、オリジナルのキットは5種類までストック可能なので、ライブでの使用も期待できます。本機を使ってみて、見た目(薄さ)以上に機能が充実しており、操作も非常に簡単という印象を持ちました。内蔵マイクは真剣にレコーディングに使ってみたくなったし、トーン・ロード機能はお遊びと実益を兼ねた素晴らしいもの。マスタリング・ツールやピッチ・コレクションなど、ほかにも優秀な機能が多々用意されています。通常のMTRとしてはもちろん、曲作りの一環としても活躍するであろう本機は、DAW環境に慣れてマンネリ化している方(自分も含め)にお薦めしたいです。

▲リア・パネルの入出力端子は、中央より右へフット・スイッチ、USB、ステレオ・ライン・アウト(RCAピン)、ライン・イン(ステレオ・ミニ)、マイク・イン×2(TRSフォーン)。フロント・パネルにはギター/ベース・イン(フォーン)とヘッドフォン端子も用意

BOSS
BR-600
オープン・プライス(市場予想価格/38,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(+1/−3dBu)
■サンプリング・レート/44.1kHz
■AD変換/24ビットΔΣ方式+AF−AD(ギター/ベース、マイク1/2)、24ビットΔΣ方式(ライン、サイマル)
■DA変換/24ビットΔΣ方式
■内部処理/24ビット(デジタル・ミキサー部)
■同時再生トラック/8
■同時録音トラック/2
■記録メディア/コンパクト・フラッシュ(32MB〜1GB)
■外形寸法/257(W)×27.1(H)×183(D)mm
■重量/700g(電池を除く)