今回のレビューは、TRUE SYSTEMSから発売された1chマイクプリ、P-Soloです。同社は今までに、Precision 8、P2 Analogという8ch/2chのマイクプリを発表。P-Soloは"クリスタル""クリア"といったコンセプトで作られた、これらの製品と同様の設計とサウンドを受け継いでいます。昨今のDAWユーザーのシステムアップに朗報となるでしょうか？
マイク・プリアンプに特化し
必要な機能をシンプルに集約
濃い赤のアルミ・シャーシで作られたフレームは、軽量で見た目がとてもシンプルなので、マニュアルを見なくてもいきなり使えそうなほど。フロント・パネルにはファンタム電源（＋48V）、ハイパス・フィルター（80Hz）のスイッチと、−4〜＋64dBの間でバリアブルに設定できるゲイン・コントロール・ノブ、楽器を直接入力することができるハイインピーダンスのインストゥルメント入力だけです。インプット・アッテネーターはゲイン・コントロール・ノブと一体型となっていて、ノブを絞り切るとスイッチが入り有効になる仕組みになっています。リア・パネルもXLR入出力とTRSフォーン出力のみで、フェイズ・スイッチすら排除した無駄の一切無いデザインです。また、このサイズの機材には珍しく、ACアダプターではなく本体に電源回路を持つ設計になっているので、安定した電源供給ができるほか、ケーブルはインレット・タイプに対応するため、好みの電源ケーブルに換えてみるのも良いでしょう。
色付けのないクリアな表現力と
スピード感のある中低域
では、実際に楽器でチェックしてみます。まず、アコギにNEUMANN U87をセットして、ガット弦とスチール弦のギターを持ち替えながら、アルペジオやカッティング奏法でチェックしてみます。一聴した印象はスペックから想像するサウンドとは異なり、中低域に粘りが感じられます。しっかりとした粒立ちでもたつき感がありません。特にアルペジオの細かなニュアンスは見事に表現されています。また、スチール弦でのカッティングは通常、中高域がピーキーな音になりがちですが、本機では高域にEQを施しても倍音のつながりがイメージ通りスムーズに変わります。色付けされて妙にデフォルメされたサウンドとは違い、きちんとまとまったサウンドになるのは好印象。続いて、女性ボーカルを録ってみます。ウィスパー・ボイスから張り上げた声まで、いろいろな歌唱法で歌ってもらいました。ウィスパー・ボイスは、オンマイクで録音しても極端な特性変化が無く、声量やブレス、切れ際の表情などのニュアンスが予想以上にクリアに表現されています。また、パワフルな歌い方は音のスピード感にバラツキが少なく、しっかりした中低域の印象を強く感じます。本来持っている声のキャラクターがそのまま反映されているようでかなり良好です。次に、フロント・パネルに装備されているインストゥルメント入力をチェック。ハイインピーダンスなので、エレキベースを直接入力してみることにします。出音の印象はクリーンでストレート。低域はもたつかず、スピード感があるサウンドです。ただしスピード感がある分、音圧感は物足りなく感じるかもしれませんが、このP-Soloは1.5Hz〜500kHzという驚異的な周波数特性を誇っているので、低域を上げる際には注意が必要になります。またエレキギターもクリーンな出音が印象的でした。ひずみにくい設計になっているためか、過大入力でオーバー・ドライブ・サウンドを作るのには向いていないようですが、色付けのないハイファイな表現力は特筆すべき点です。全体の印象は、透明感があり、つやっぽさが十分に感じられました。特に中低域の解像度の高さと存在感は印象的ですが、いわゆる派手なサウンドではなく、リニアなハイファイ感が特徴なので、誤解の無いように。マイクの距離や向きの変化も素直に反映されるので、マイク・アレンジのアプローチが分かりやすいのも特長でしょう。想像したよりもリアルに録れるので、今回演奏してもらったミュージシャンにも喜ばれました。素直な出音故に、マイクの選択やセッティング、歌手ののどの調子も良く分かります。本国アメリカでは、同社のマイクプリがクラシック録音で重宝されているのもうなずけます。ボーカルやギターを録っているあなた、一度試してみてはいかがでしょう？
▲ごくシンプルなリア・パネル。上から順に入力端子（XLR）、出力端子（XLR、TRSフォーン）、パワー・スイッチ、電源ケーブルのインレット
SPECIFICATIONS
■周波数特性／1.5Hz〜500kHz
■入力インピーダンス／5.5kΩ（マイク）、2MΩ（インストゥルメント）
■外形寸法／76.2（W）×253（H）×153（D）mm
■重量／2.3kg
