老舗が放つコスト・パフォーマンスに優れたニアフィールド・モニター

TASCAMVL-X5

ミキサーやレコーダーの大手ブランドTASCAMから、ニアフィールド・パワード・モニターVL-X5が発売されました。"TASCAMのスピーカー"と聞くと"?"という印象ですが、それもそのはず。同ブランド初の本格的なニアフィールド・モニターのようです。この分野では後発であるTASCAMがどのような製品に仕上げてきたのか、非常に興味があります。

アンプ部とスピーカー部を独立させ
アンプからの共振を排除する設計


届いた実機を見て意外だったのが、その大きさ。価格からするともっとコンパクトなものを想像していたのですが、重量もあり、かなりしっかり作られている印象です。130mmのウーファーと20mmのシルク・ドーム・ツィーターによる2ウェイ構成で、これらのユニットをバイアンプ方式で駆動します。アンプの出力は低域側60W、高域側30Wで、クロスオーバー周波数は3kHzです。仕様は割とオーソドックスですが、本機ならではの特徴は、アンプ部とスピーカー部がエンクロージャー内で独立した構成となっていることで、アンプから発生する共振を排除しています。このことは、先述のサイズにも大きく関係していると思います。入力端子はXLR&TRSフォーンのコンボ端子で、バランスはもちろん、アンバランス入力にも対応しています。また、リア・パネルで目を引かれるのがズラッと並んだDIPスイッチ。高域側で3/8kHz、低域側で150/800Hzをそれぞれ±1.5dBで調整できます。±1.5dBという数値からも、積極的に音質を変えるものではなく、設置環境に合わせて使用するための補正用といった感じです。この4つの周波数ポイントもなかなかよく考えられていると思います。さらに500Hz(12dB/oct)のローカット・フィルターも装備されていますが、これは中域以上の帯域のチェックに使用するものとのこと。通常の作業ではあまり出番は無いと思いますが、部屋鳴りなどモニター環境の調整の際には有効な機能ではないでしょうか。

ジャンルを選ばないスピード感ある音
定位や空間の再現性にも優れる


では音を聴いてみましょう。まずは普段リファレンスにしているCDや自分がミックスした曲などをソースにしました。TASCAMというと"太くてしっかりとした音"という印象があるのですが、そういったイメージとはちょっと違う、結構派手な音です。ただし単に派手なだけではなく、しっかりと音のしんがあってその上に派手さがプラスされている感じなので、嫌みな印象は一切ありません。音の立ち上がりも速く、スピード感もあり、音楽ジャンルを選ぶこともなさそうです。この音、個人的には結構好きです。音量も自宅作業レベルでは十分な音圧が確保されており、比較的小さなコントロール・ルームでの使用であれば、十分対応できるでしょう。また、レンジ感は特にスッと伸びた高域が印象的です。無理に持ち上げたり、耳に痛い部分が無いので気持ち良く聴けます。低域の量感も十分で、小音量での音作りでもストレスは無いでしょう。本機のバスレフ・ポートはフロントに設置されているので、比較的スピーカー背面の壁の影響は少ないと言えますが、それでも重低音のベースなどでは壁との距離によって音色やバランスに変化があるので、設置する際には壁との距離をいろいろと調整してみるとよいと思います。さらに、定位と空間の再現性は素晴らしいの一言に尽きます。ボーカルのセンターはビシッと出ているし、リバーブやシンセ・パッドの広がり、ボーカルに奥行きをつけるための微妙なディレイ成分もしっかりと再現されています。定位と空間はモニター・スピーカーに求められる重要な部分なので、この点だけでも本機は合格といえます。次に、軽くミックス・ダウン的な作業もやってみました。やはり低域の音作りは、小音量でもやりやすいです。高域に関しては、シンバルの音作りやボーカルの空気感を調整する際に若干の違和感を感じたので、DIPスイッチで8kHzを落としてみました。そうすると見事に高域が落ち着き、音作りがしやすくなりました。このDIPスイッチ、一見複雑で取っつきにくそうですが、慣れれば全く問題ありません。設定されている数値が的確なので、逆に使いやすいくらいです。また、完成したミックスの試聴時にはあまり感じなかったのですが、中域の表現力にも優れていて、この辺りにTASCAMらしさを感じます。特にエレキギターにEQをかける際の微妙な変化がしっかりと表れます。ダンゴになりがちな中域をさばいていく際にも、本機なら分かりやすいと思います。とにかく"これでペア4万円?"と思ってしまうほど、よくできたスピーカーです。価格的にはもう1クラス上の製品がライバルと言ってよいでしょう。ペア10万円前後でモニター・スピーカーを探しているなら、本機を買って余った予算でアウトボードをそろえる方が有効なお金の使い道だと思います。僕だったら、間違い無くそうします。
TASCAM
VL-X5
41,790円/ペア

SPECIFICATIONS

■形式/2ウェイ防磁型(バスレフ式)
■キャビネット材/MDF
■周波数特性/45Hz〜22kHz(±3dB)
■最大音圧レベル/103dB(1m)
■歪率/0.01%(40W、1kHz)
■入力レベル/200mV(−14dBV)
■入力インピーダンス/10kΩ
■外形寸法/198(W)×291(H)×290(D)mm
■重量/7kg(1本)