ひずみや倍音をコントロールして音に温かみを加えるアウトボード

THERMIONIC CULTUREThe Culture Vulture

現代のレコーディング・スタジオの録音機材はDIGIDESIGN Pro Toolsが主流となってきましたが、それに伴い“瞬間的な強いピーク波形に対して、どのようにしたら音を太く力強く、しかも倍音豊かに、滑らかにできるか”という一昔前とは違った音質の悩みが出てきています。そこで登場するのが本機のような真空管の回路を搭載した機材。THERMIONIC CULTUREというメーカーを私は知りませんでしたが、本機はどんな音を提供してくれるのか、早速チェックしてみましょう。

DRIVE、BIASなど
独特のパラメーター構成


The Culture Vultureはひずみや倍音をコントロールして、音にアナログ的な温かみや迫力を加える真空管式のアウトボードです。サイズは2Uで完全独立2ch仕様。リアにある入出力端子はバランス/アンバランス兼用のTRSフォーン端子で、ライン基準レベルは+4dBとなっています。そのほか20dBのアッテネーションをかけて出力するフォーン端子と、フロントにはDI用のフォーン入力端子があります。それでは各ツマミやスイッチの機能を見ていきます。本機の場合、初めにマニュアルを見ずに使っても、思ったようにコントロールできないと思います。各機能を理解すると設定のコツがつかめ、その後は簡単に操作できるタイプの製品なので、各機能を十分に理解することが重要です。まずDRIVEツマミ。これはインプット・ゲインで、左の1に回しきると無音になり、右に回すとインプット・ゲインが増えていきます。それに伴って真空管回路へのインプットも増えるので、当然ひずみも増えていきます。次はBIASツマミ。BIASは真空管を動作させるために必要な電圧で、本機の場合は値が小さければひずみも少なくなりますが、音もほとんど増幅しません。多くすると増幅率が増しますがひずみも増えます。本機では0mAから1mAまで値が変えられ、通常0.1〜0.2mAあたりから実際に使える音になります。このBIAS値を正確に見るためのメーターが装備されていますが、BIAS値を調整するときは音を入力しない状態でこのメーターを見ながら好みの値に調節します。あくまでも入出力のVUメーターでないので、注意が必要です。その次にDISTORTION TYPEツマミ。倍音成分を設定するツマミです。T位置は偶数倍音で音が太くなり、P1位置では奇数倍音になり鋭い音、P2位置は奇数倍音に高調波成分が加わり過激なひずみとなります。下段のOVER DRIVEスイッチは普段はオフにしますが、ひずみが足りないときにオンにすると、真空管のひずみ率が上がります。その横のFILTERツマミも普段はオフですが、倍音が多すぎて硬い場合に入れると、7kHzか4kHzから上を12dBカットしてくれます。OUTPUT LEVELはDRIVEやBIASなどの設定次第で変わる音量を調整します。最後にBYPASSスイッチ。オンにすると、どのボリュームも通過しない完全なスルー音が出てきます。

DISTORTION TYPEにより
キャラクターの異なる出音に


実際の音を聴いてみましょう。まず最もノーマルと思われるセッティングにしてみます。DRIVEツマミは真上、BIASツマミも真上(0.4mA程度)、倍音はT(偶数)ポジション、OUTPUT LEVELは真右の9〜10位置で、後はすべてオフ位置です。素直なひずみがうっすら加わった、温かめの音が出てきます。低域がドーンと出るとかコッテリしたビンテージ風の音ではありませんが、ピークがうまく削られて倍音が加わった感じです。フィルターで高域をカットしたようなひずみもの特有の癖がなく、ボーカルにも使えます。次はBIASを最大まで上げて、DRIVEを下げてみました。倍音が豊かでエッジの効いた真空管サウンドになります。ドラムなどでエッジを効かせて迫力を出したい場合に良い感じ。キックはビーター音がハッキリして、スネアはヌケてきます。反対にBIAS量を0.2mA程度まで下げてDRIVEツマミを徐々に上げてみます(ゲインが下がるので、OUTPUT LEVELを最大にしています)。素直かつ温かみのあるアナログ・テープ・シミュレーター的な音で、アタック感もさほど損なわれません。どのDRIVE&BIAS設定でも倍音ポジションT(偶数)では太く温かみのある音で、P1(奇数)では明朗な音になります。P2では音量が下がり、ひずみも汚く良い印象がありませんでしたが、フロントにあるDI端子にギターを入力してDRIVEを最大にした場合は、なんとP2ポジションが一番力強くかつ滑らかにひずんでくれます。最後になりましたが、本機にはステレオ・リンク・スイッチがありません。それは真空管は1本1本バラツキがあり、完全にリンクしにくいからだと思います。2ミックス・ステレオなどに使用する場合はThe Culture Vulture Mastering(オープン・プライス、市場予想価格:303,450円)がお薦めです。DRIVE、OUTPUT LEVELツマミがディテント(クリック付き)タイプになり、LRを調整しやすく、再現性もあります。本機は、ひずみもので何か良い製品がないかと探している方に、ぜひ一度実際に試していただきたい製品です。

▲リア・パネル。左よりRIGHT INPUT、OUTPUT Lo、OUTPUT Hi、OUTPUT Hi、OUTPUT Lo、INPUT LEFT(すべてTRSフォーン)

THERMIONIC CULTURE
The Culture Vulture
オープン・プライス(市場予想価格209,790円)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/50Hz〜15kHz(±1.5dB)
■出力レベル/+17dBV
■ディストーション/0.2〜99.5%
■外形寸法/482(W)×225(D)×88(H)mm
■重量/4kg